● ロベール・ブーシェ Robert Bouchet(1898〜1986:Paris)
● 画家として知られるブーシェ氏はフランスの世界を代表するギターの名工の一人であります。今年は1998年ということで生誕100年を迎えました。ブーシェ氏は当初自分の演奏用楽器としてフリアン・ゴメス・ラミレス氏からギター製作法を学び1946年に第一号を完成させ、のちに傑作といわれる名器を残しました。製作本数は極端に少なく、生涯にわずか154本。ラゴヤ、プレスティ、ブリーム、プジョールなど世界のトッププレーヤーに愛され、国内の著名な演奏家も録音・コンサートで使用しています。ブーシェ氏はフレタ氏やロマニロス氏などとも交流もあり、現代の製作家にも大きな影響を与えたといわれています。みずからピアノ、ヴァイオリンなどの楽器も演奏し、画家(中学の美術の教師)でありながら音楽家でもありと、まさに芸術家として生きた人といえるでしょう。
● この展示はギター文化館の全面的な協力とブーシェの愛弟子であった村松雅亘 氏の協力によってブーシェの作品を中心にその業績と生涯を紹介するものです。また、ブーシェ作品でのコンサートやフランスが生んだ世界的ギター製作者の作品、そしてトーレスなど先人たちのギター作品なども展示され、今世紀最後の見逃せない催しです。
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日時:1998年9月5日(土曜日)〜9月27日(日曜日) 毎週月曜休館日
時間:10:00〜18:00(入館締切は17:30まで)
場所:東京都渋谷区神南1-16-8「たばこと塩の博物館」JR山手線「渋谷駅」徒歩4分
入館料:100円(いまどきひゃくえんらしいですよ.....)
後援:フランス大使館、スペイン大使館 ほか
地図:たばこと塩の博物館はここだ!
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ブーシェ製作のギター 9点
ブーシェのスケッチ 数点
ブーシェ関連年譜 1式
トーレスをはじめとする先人たちのギター 6点
ブーシェとかかわった製作家たちのギター 8点
伝統楽器精神を受け継ぐ21世紀の製作家たちのギター 十数点
徳島ギター協会会員製作のギター 5点
関連写真パネル 他
演奏:4階特別展示室 ミニ演奏会を期間中随時
ギャラリートーク:期間中随時
● 今回は徳島ギター協会(川竹会長)のメンバーの方々が製作されたギターも展示されることになりました(徳島ギター協会のホームページでも紹介されていますね)。ちなみに会長の川竹氏もブーシェの楽器で9月6日の3時から1Fの会場で演奏されるそうです。ちなみに、徳島ギター協会ではギター製作の名著といわれる「Making Master Guitar」を翻訳し、今回他の関連資料とともに出展されるとのことです。この訳本は鶴田も拝見しましたが、一見の価値アリです。いずれ日本語版として出版されるでしょうね。
● クレーンホームページにおいてイタリア特集とハウザー修復記でご紹介しているアンドレア・タッチ氏もこの会期中に来日されるもようです。この人の最近の楽器はダマンをしのぐといわれており要注目です。
● ホセ・ルイス・ロマニロス 氏からのメッセージ
1998年3月22日 ギホサにて
ロンドンのウィグモアホールではじめて聴いたスペインギターのコンサートの音が、私に与えた感動は今でも忘れられません。1960年代の初頭、私は時間を見つけてはギター製作に勤しんでいました。
当時はまだそのコンサートがジュリアン・ブリームとロベール・ブーシェという二人の芸術家によって実現した事を知りませんでした。ロベール・ブーシェ作のギターの、熱く人間臭い音と、ギターを演奏したイギリスの若いギタリストの崇高な音楽性に裏付けられた好演が私に与えた衝撃を懐かしく思い出します。
いつか私の製作したギターがその若いギタリストにより、ロベール・ブーシェ作のギターのように堂々と威厳をもって鳴ることを夢見て、雲の上を歩くような思いでその場を後にしました。
いつか成し遂げたい.....ウィグモアホールのコンサートによって私の中の何かが触発されました。1978年にセムレイのブロード・オークにあるブリームの自宅でブーシェに会う機会を得るまで幾多の年月が経ちました。邸宅の入り口にあるリンゴの大木の木陰で、庭のゆり椅子にゆったりと座り、ヒースのパイプから煙をくゆらせている本人を前に、ついに私は音楽的な美しい音色を持ったブーシェの2台のギターが、ウェンディー・パートリッジとエステル・サンチェスによって弦と木材の縞目に秘められた金と銀が音になって引き出されるあの音色を聴く機会に恵まれました。それはたいへん贅沢な日であるばかりか私と妻ミリアンにとって、ロベール・ブーシェとの親交のはじまりとなったのでした。
私たちの定期的なパリへの訪問は、街の限りない魅力の他に毎回ブーシェとその奥さんアンドレを訪問するというおまけまでありました。ギターとその思い出をさがしてよく一緒に散歩したものでした。ロディエール街を訪ね、フリアン・ゴメス・ラミレスの工房で何時間も過ごしたこと、工房での思い出、ギターの魅力、人生について.............色々な話をしました。
ダニエル・フレドリッシュは今でもロベール・ブーシェが彼の作業台に残したサインを誇りに思い、大切にしています。あの時代の記憶はいまでもなんと美しく残っていることでしょう!! 最後に彼に会ったのは、彼が亡くなる数カ月前でした。奥さんと彼がハンプシャーのスタンレー・ダウトファイヤーを訪れ、私たちはそこで落ち合いました。相変わらずヒースのパイプから煙をくゆらせ、高貴な微笑みが印象的でした。友人であり、なおかつ偉大なギター製作家だった彼が亡くなったことに悲観と苦しみを感じました。ギターの世界にポッカリと穴が空いたような感じです。彼のギターの響きのお手本で彼がいないことを慰め、また彼が残した親交の深い思い出には私も妻も感謝の念に耐えません。ありがとうロベール。
日本の地で彼のために敬意を捧げる催しの準備を進めている愛好家達に愛情と同好の意をもって、以下の言葉を贈ります。アントニオ・デ・トーレスがその時代に言ったように「あなたたちのギターは鳴り続けるであろう。」そしてロベール・ブーシェのギターは鳴り、製作者の不朽で高貴な特性で来るべき時代をゾクゾクさせるため、鳴り続けるであろう。