■ 製作過程の解説-2
さて、木材の準備。フタと底板は桐の集成材、側面はファルカタ集成材........ ん? 最初っからヒストリカルじゃなさそうですね(笑)。
しかし当時のケースもフタと底板はたいていの場合は何枚かを接いであるのが普通で、まるごと1枚板ということはむしろ少ないようです。場合によっては6枚ぐらいを接いだものもあり、いわば当時の集成材であったわけです。ここではフタと底板は集成材を使い、なおかつネック部分の端材をボディの接ぎに用いています(上の写真参照)。
当時は建築や家具用の安い松やパイン材で作られたものがほとんどですがリンゴやライムのような果樹も見かけます。汎用グレードでは節のある材や未乾燥の材も積極的に使われていました。フタと底板ならびに側面板の厚さもいくつかの傾向がありますが側面を厚めにしてフタと底板を薄めにするとか、どこも分厚くするとか......今回は側面を厚く裏表をやや薄くしたいと思います。
はい、そういうわけでウンチクもいいのですが、さっさと手を動かして切り出しましょう。このケースは格納するギターがすでに決まっていまして、G.B.Fabricatore 1806 専用となります。従って楽器を板の上にのせて、そのフォルムから板材の切り出し寸法はほぼ決定されます。内装は今回は薄手のクロスの予定ですので、さほど余裕をもたせず楽器とほぼピッタリにとります。
18世紀、19世紀に製作されたギターが比較的良いコンディションで残されている場合は専用ケースが一緒であることもひとつの条件のように思います。たとえ改造・修理を繰り返しても専用ケースが備わっていれば風呂の焚き付けは回避されたのでしょう(私感ですけど)。
ケース側面の継ぎ方にもいくつか種類と傾向があります。例えばヘッド部分は斜め同士で継ぐ場合と直角面で継ぐ場合とがよく見られます。後者は木口の接着となるのでピン(釘)を併用することが多いようです。今回は前者の方法の斜めにカットして継ぎます。
あとは底板の上に側面を次々と並べて接着していくわけです。長いクランプがあれば比較的作業がしやすいでしょう。写真のカーボン・クランプは私のお気に入り治具ではありますがスペアのゴム(黄色)をばら売りしていないのが南天のどアメ、おっと、難点です。こういった接着では正確に角度を出してそのとおりにカットせねばならず、楽器製作の入門にも木工の入門・練習として良いテーマかと思います。ネックとボディとのジョイント部分あたりはけっこう難しいんですよ。
はい、御覧のとおり典型的なコフィンケースのフォルムです。18世紀〜19世紀初期にかけてはロア・ブーツつまりオシリの部分にもうひとつカドができる構造が多いようです。ときには外観はカド張っていて内部は丸くボディに合わせて削ったものもあります。
次はフタを接着します。全体にクランプして数日間放置、おっと、乾燥させます。接着してすぐにカットを入れると、のちにゆがみやすくなるようですから安定するまで数日間乾燥させたほうが良いでしょう。ちなみに密閉されたケースの内部にはジェルの乾燥剤(靴や押し入れ用)を入れています。
さぁ、あとはひたすら放置...... ヒマなので他のギターとサイズを比べてみたりなんかして....。今回のケースは一般の19世紀ギターよりもちょっと小さめです。(写真は19世紀中期のウイーン製ギター)
さて、1週間が経過したのでカンナをかけ、軽く240番のサンドペーパをかけて表面をならします。もし欠損箇所があれば完璧に充填し、ならしておきましょう。そしていよいよフタとボディを分離するカット作業です。曲がらないように慎重にノコを挽きます。曲がってもちゃんとフタにはなりますけど(笑)。
はい! パッカ〜〜ン! と分離しました。ハコから生まれた桃太郎、じゃなくて乾燥剤もひょっこり顔を見せてひょうたん島。
おっしゃ! ここまでくれば、あとはパーツを装着する行程へ.........
つづく
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