CRANE 楽器ケースをつくろう! 


 はじめに

ギター、マンドリン、ウクレレ、リュート、ヴァイオリン......弦楽器に限らず楽器を購入すると、ケースが付属している場合と別売りの場合とがあります。特に中古の楽器や個人売買ではケースが付属していないことも多く、当時のオリジナルケースでないこともしばしば.......もっともケースは多くの場合はケースメーカーが製作したものを製作家や販売店が仕入れてそれに楽器を入れて(セットにして)販売していることが多いので、たいていの場合だとオリジナルにこだわらず、あまり神経質になることもないとは思います。

ところがなかには製作家自身がケースまで製作したり、ケースの仕様(サイズや素材など)を厳しく指定する製作家もあって「専用ケース」というものが存在するわけであります。糸巻きがしばしば特注で特定の製作家仕様にて作られるように「量産品といっしょじゃヤダヤダヤダヤダァ〜〜〜〜!?」というようなこだわりがあるわけですよ、ウン、ウン、わかるわかる....そのコダワリのキモチ。

市販のケースといっても安価なものからフルオーダーまで各種あります。......なんかこんな濃いテーマばっかりうちのホームページではやってるような気もしますが....あ、話を先に進めましょう、 友人のゲバのケースは以外に重く、フックがすぐに壊れて「ふ〜〜んこんなもんか」と思ったこともありますし、昔のラミレスはいかにも「いちおうケースつけとくね〜〜」みたいなスペイン製とおもわれるテキト〜で重たいものが多かったように記憶しています(最近のラミレス用ケースは樹脂製をよく見ます、楽器のグレードにもよるかな? コンデも同じケースを使っていた時期があるようです)。おおむね高級手工ギターのケースはガッチリして重いものが多いような気がします。大枚はたいて楽器店から楽器を持ちかえるときは重いケースのほうが満足度も増すのかもしれません「ウ〜〜〜ン、マンダム、フレタはこの重量感がいいんだぁ......」と電車のなかでたたえる至福の笑みはやがて苦痛へと変わっていくのでありますが...........。

近年ではクラシックギターでもマーチンやオベーションで使われているガッチリしたハードケースを使うことも多いようです(重いんだこれが.....)。私も昔オベーションのアダマスIIなんてのを持ってましたが本体よりケースのほうが重かったりして苦労したもんです。ドレッドノウト用のケースは多くの場合ケースメーカーでラインナップにはいっていますが、アーチトップギターは16インチからSuper400といった18インチぐらいまでボディサイズや厚さが多彩だったりしますからあんちょくにテキトーなケースというわけにもいきません。クラシックギターやフラメンコギター用のライトケースにはいくつか種類があるようですが、なかには「軽いけどデブ」なんてのもありましてケースメーカーさんも強度やデザインについてあれこれ試行錯誤しておられるようです。スーパーライトケースはよく知られたスリムな軽量ケースですが、私も以前19世紀ギター用に寸法をとってもらってピッタリフィットのケースを作ってもらったことがあります、当時3万円?ぐらいだったかな? 強度的にも充分ですし気に入ってます。物価高の日本の職人さんの特注品で3万円程度なら高すぎるということはないでしょう。
スチール弦ギターもクラシックギターも古い楽器にはボディ形状やサイズはほとんど同じモノはないというぐらい楽器のカタチは微妙にして様々ですからケース選びもたいへん....特注もひとつの候補カモ。

マンドリンケースはおおむねオールドからモダンまで幅広く収納できる量産品が一万円程度でみかけますが、マンドラやさらに大きな楽器のケースとなると選択肢が少ないかもしれません。マンドリーノ専用ケースなんてのはまず量産されていないでしょうし(笑)、レアな形状の楽器ほど製作当時のピッタリ収納専用ケースは大事にしたいものです。かつてはギターやマンドリンのケースには紙製ケースとか皮のケース布のケースなんてのも多く見られました、現在でもこれらは中古楽器店でみかけることができます。手作りで歴史的な?ケースを製作されている例としてはわが国でも水原洋さん(以前紹介しましたね)のラコートモデルに付属するコフィンケース(注1)があります、当時のケースが残されていたり、写真資料があれば現在でもレプリカを製作することも可能なわけです(海外でも製作家自身がコフィンケースを作っている例はほとんど見かけませんよね?....こりゃ貴重だ)。フラット、あるいはアーチ系のマンドリンケースは以外とよく見かけます、特にGibsonのF系は人気も高いだけあってけっこう種類も多く、なかにはA系と兼用なんてのもあるようです。

さて、ここで資料として昔のケースの様々を御覧ください......。


【ケース関連資料】

■ 資料1:1800年代後期〜1900年代初期に多くみられる布のケースです。ヴィンテージWashburnに付属していたものです。現在でも当時のものをよく見かけますので当時はかなり普及したタイプでしょう。このケースの「レア度」は低くて+3といったところでしょうか。

■ 資料2:こちらは19世紀末の皮のケースです。マンドリンなどでもよく見かけます。これもかなり多く普及していたようです。レア度:-5

■ 資料3:これはおそらく1800年代前期〜中期頃のものと思われる布のソフトケースです。だいぶ傷んでいますが生地は麻で手縫いのししゅうが施され肩からかけられるようなしくみになっています。私が入手した時点では真っ黒に汚れていましたので捨ててしまおうかと思ったぐらいです。でもよくよく考えてみると恐ろしくレアです。レア度:+5000000

■ 資料4:19世紀に多くみられるギター用コフィンケースです。この時代のコフィンケースは内装がクロスの場合と紙貼りの場合とがあります。これはだいぶ傷みが激しく、内装はほとんど残っていないぐらい剥がれています。コフィンケースコレクターの鶴田です、19世紀ギターはなるべくコフィンケースを集めてそれに格納しようなどと考えているアホです。当時のその楽器専用ということでケースと楽器が当時のまま残っていることは少ない(リッオのギターなどは例外でしょう)のですが、可能な限り楽器にフィットしたもので時代も揃えたいところです。現実にはなかなか難しいのですが....... 。

■ 資料5:19世紀のヴァイオリン用コフィンケースです。これは紙貼りの内装。フタ以外の面は紙が剥がれています。ギターでも同様のケースがありましたが多くの場合の貼り紙は花柄や植物の模様が多いのです。もちろん粗末なものから徳川家調度品のような高級品も当時は製作されました。

■ 資料6:1800年代中期のマーチン(Martin)の純正コフィンケースです。おそらくサイズと仕様から1870年頃のものでしょう。Martinはその昔、ギターのボディサイズを1とか2、3、5のように番号で呼んでいた時期がありましたが、このケースにはMartin社のラベルが貼られ3-17というギターの型番とグレードを示す記載があります。19世紀のケースにはほかにもいくつか種類がありますがMartin純正のコフィンケースでは内装は紫色のクロスでサドルとネック部分を支持する「ふくらみ」を持つのが特徴です。コフィンケースは19世紀以前から存在しましたがMartinも19世紀当時の他のギターショップのスタイルを模して自社の製品の専用ケースを開発したものと思われます。しかし、さすがに模倣だけではあきたらないF.マーチンのおじさんは当時の他社のコフィンケースと比較(写真上がマーチン)してみても部分的に板の組み方が異なっていたり、使用するハンドルや金具にはけっこう上等なパーツを使っています。ちなみにパノルモなども純正コフィンケースにはパノルモラベルが貼られていました。

■ 資料7:19世紀の紙のケースです。以前ヨーロッパのお店からギターを買ったときに付属してきたものですがヘッドのあたりが破損しています。たしかにピッタリフィットします。よく捨てられずに残っていたものです。私もとっておくことにしました(ジャマですけどね〜〜〜)。レア度 +20

■ 資料8:19世紀末〜20世紀初期のGibsonのコフィンケースです。MartinだけではなくGibsonもしっかり歴史的な作法にならった仕様のつくりで、純正ラベルも貼られています。

■ 資料9:おそらく20世紀初期のものと思われるちょっと凝ったコフィンケースです。ぜんぜん省スペースの効果が無いような気もしますが..........。ほかにもだいぶ凝ったコフィンケースなんてのもありました(見てるのはおもしろいけど作ることを考えるとゾッとします)。これも時代的には同じか19世紀後期でしょう。格納される楽器のサイズやスタイルでケースの年代もおおむね想定できるのです。その逆もしかり.........コラッ! と、意味もなくしかってみたり.......しかり、しかり...。

■ 資料10NEW!!
フタタビ発見・捕獲したクロスケースです。このテの生地や革ハンドルは20世紀に入ってからのものと思われますが明確にはわかりません。当時は「ギター買って金ないからオマケでソフトケース付けてくりょ〜〜〜」なんてカンジのチープな製品だったのでしょう。いちおうギターを包んではいますが保護するという目的ではなく移動で人目につかないように(そんな怪しいモノかいな?)との、いわば風呂敷のような役割でしょう。いすれにせよ現在では処分されて現存するものは限られるかもしれません、そういう意味ではレア? レア度 +2 そういえば最近風呂敷ってトンと見かけなくなりましたね。私の少年時代は近所への届け物とかによく使ったもんですが。

 


● 私はというと基本的にはソフトケース派なのですが保管用にはハードケースも必要と考えていまして、保管スペースさえ許せばハードケースに楽器はすべて収めておき、移動のときだけソフトケースに入れ替えて...というのが果たせぬ理想です、はい。実際には所有する多くの楽器は狭い工房では窮屈なので友人たちに預かってもらうことになっちゃうわけです....。

 

● (注1)コフィン:coffin というと棺桶(カンオケ)を指しますが、欧米ではギターやヴァイオリンのこういった形状のケースやスクゥエアなケースをコフィンケースと呼んでいます。近所の墓地から調達しようなどと考えてはイケマセン。コフィンケースには真鍮などの留め金具が付いていますが、このフックをかける方向はケースを立てて置いたときに外れないような方向に留めるのがセオリーです。つまり横にケースを置くと自然と外れやすい....。

 

●内張り:現代のギターケースの内装はキルティングや起毛素材が一般的ですが素材のなかにはセラックと反応するものがあります。過去に市販ケースでギター(セラック塗装)の表面板にこまかい繊維が付着しているのを見たことがあります。保管の温度などにもよるのかもしれませんが....いちおう気をつけたほうがいいかもしれませんね。19世紀以前のギターケースでも内張りには紙や布が広く使用され、多くはカラフルな色合いか、もしくは花柄模様・唐草模様などが多くみられました。


いずれにせよ楽器にピッタリフィットして軽量にして眼老、おっと頑牢、恒湿性能が高く、とりまわしが楽、しかもできれば安価で...という楽器ケースはリュートやマンドリンやヴァイオリンモロモロ古来よりみんなが探し求めている永遠のテーマではないでしょうか。

さて、楽器をあれこれ作ったり、リペアでいろんな楽器を見ていると専用ケースを作りたくなってくるものです。 このコーナーでは自作の楽器ケースの製作過程をじっくり御覧ください。いずれは19世紀ギターとかウクレレとかバロックギターとかの専用ケースも作ってみたいのですが強度、予算、素材、使い勝手といったいくつかの課題もあります。さあ、みんなで作りましょう、しゅぱぁ〜〜〜つ!!(ドリフのいかりや隊長風に)

 

 

 

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