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■ ガット弦をつくろう
(2)カット:羊腸をいくつかの小ヒモに切り分けます。
えっ? カットのための治具(ジグ)を作るのが面倒だって?
う〜〜ん、手間暇を惜しんでは良いモノはできませんぞ。
ちなみに細い羊腸であればカットせずにそのものをストランド(小ひも)として数本よりあわせて弦とすることも可能ではありますが、
腸はパイプ状になっているので空気が入ってしまい、最終的に真円に仕上げにくいのです。
ですから、原則 羊腸は切り裂いて使います。
次の写真は洗剤でガットの脂分を洗浄しているところです。
洗剤を使わずに水洗いのみでも弦を作ってみましたが思ったほど差は見られませんでした。
太いゲージでは油脂の影響が現れるのかもしれません。
縒り合わせて作るのであとからほぐれてしまわないのか? という質問も頂きましたが、
腸は蛋白質なので縒ったあとに乾かすと吸着しあって固まります。このとき脂分が無いにこしたことはないのです。
実際、市販のガット弦を水に浸してほぐしたことがありますが、一般的な使い方をしていれば自然に(演奏中に)ほぐれることはありません。
むしろ、弦を弾く指や爪によって摩耗し、そこからほぐれることはあります。
参考:最初にセゴビアが日本で演奏した時はガット(羊腸)弦であったため、演奏中に爪切りでほぐれたストランドをカットしていたという話も残っています。
さて、カットのための治具(ジグ)は私は以下のように作ってみました。みなさんも工夫されたし。
まず腸を切り裂くための刃物を買いましょう。デザインナイフの替え刃をかえば?
というわけで文具店で刃を調達します。
刃先の角度は悩ましいところですがひとまず2種類を選んでみました。カミソリの刃でも工夫次第で使えるでしょう。
角材を写真のように糸鋸盤で切り出し、先端をとがらせて十字にスリットを入れます。
そこに前記の刃を固定して完成! 角材は今回は手元にあったエゾ松にしました、エゾ松はえ〜〜ぞ。
先端部はなめらかにサンドペーパをかけて磨いておきます。
どうです、流線型の新幹線のような造形美。
実際に羊腸をカットしてみるとわかりますが、治具の軸と羊腸内壁の摩擦によりうまく滑らずにカット作業は難航。
そこで摩擦軽減のためにスリットを彫りました(次の写真参照)。彫刻刀の「角」を使えば容易に溝が彫れます。
こういった工夫でかなり作業はらくになります。
参考:昔は動物の角に刃物を付けて腸を切り裂いていたようです。ストリッピング-ホーンと呼びました。
クランプで適当な台座に固定して、ハイ完成!
ホームページの説明ではいともカンタンに解説していますが
ここまでくるのは試行錯誤の連続であることはいうまでもありません(言ってる、言ってる)。
さんざん羊腸を無駄にしてようやく得た結論は羊腸が思ったより細いので当初の4分割で裂く方法から2分割へと方針変更。
4枚の十字の刃を2枚にして使えばうまくいきました。先端部の形状や細さも幾度となく削りなおしています。
つまり、腸を切り裂くのは難しい作業なのです。
あとで、もっと簡単な方式も紹介しますので、上記の方法にこだわる必要はありません。
洗剤で洗った羊腸は水洗い後、タッパに水をはって浸しておきます。
カット治具の先端から羊腸を挿し、上下の刃で左右に切り裂きます。
作業に慣れてくれば両手を使って用心深く手前に弾くとキュルキュルと音をたてて気持ち良くカットできます。
左がカット前の羊腸。右の写真が2分割された(半分の)羊腸です。
ストランドのできあがりです。左右が均等に2分割されるのが理想ですが実際には手作業のためどうしても偏りがでます。
おそらく弦メーカーはこのカットの作業を正確に行うために専用の機械を導入しているものと思われます。
別途、羊腸を2分割する方法も紹介しますが
弦の太さを決定する一番大きな要因は羊腸の小ヒモ(ストランド)の太さとその精度
なのです。
つまりなるべく細くて均一の太さのストランドを作ることが乾燥後の研磨作業に大きく影響し、弦としての品質を左右するのです。
弦製造における「太さ」は研磨作業で決定するのではなく、「束ねる小ヒモ数と精度」で決まるのです。
こうやってカットされたストランドは洗剤で洗って再び水に浸しておき、次の「ヨリ行程」をむかえます。
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