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■ ガット弦をつくろう
(5)性質の評価:弦の性質を調べて楽器への相性を検討
・弦の太さを計る:弦の素材(比重)ごとの性質を知る!
・弦の張力を計る:正確な張力を知るための張力計を作ろう!
※ フツーに縒って作った(強く縒っていない)場合は市販のガット弦と同じ比重として扱えるので、太さを確認するだけで使えます。
以下の説明は必ずしも読む必要はありません。
※ 鶴田は高校生の頃から計測器といえば三豊製作所、島津理化、YEC横河なのですが、
弦楽器製作にかかわる計測、とりわけ弦の直径を測るマイクロメーターはMitutoyo製を愛用しております。
果たして楽器の使用に耐えうるものでありましょうや?
弦の長さは今回約 85cm
で作りましたが、その十数カ所の太さを計ります。
ノギスは0.1mmの太さまでしか計測できませんのでマイクロメータを使います。
マイクロメータは弦にコダワル方には必需品。こだわらなくてもあれば楽器作りには重宝します(本当)。
弦のどこを計っても同じ直径になるのが理想ですが、実際には工場で精密に作られた市販の弦ですら太さは以外とまちまちなのです。
私が計測した数十種類の弦のなかから抜粋してグラフにまとめてみました。
グラフの高さではなくデコボコの度合い(なだらかさ)に注目してください。
※公開するとマズイような精度のブランドも見受けられましたので抜粋(笑)。
メーカー製の弦と比較しても私が今回作ったガット弦(AとT)は精度的にまったく遜色ないことがおわかりいただけるでしょう。
さて今度は「直径と重量」の関係を素材ごとにグラフ化したものです。
まずは市販の弦のカーボン/ガット/ナイロンの重さを比較しておきます。
弦の重さを精度の高い電子天秤で1本づつはかり、単位長あたり(1m)の重さを算出したものです。
横軸は弦の太さ、縦軸は重さですから基本的にグラフは右上がりになります。
同じ太さであっても素材の種類(色分けして表示してあります)によって重さは異なるわけです。そうやってグラフを御覧ください。
グラフの上方にあるほど弦の素材が重いのですから、カーボン弦がいかに重いかをあらためて確認できますね。
弦が重いということは音の高さが同じとして直径を細くすることができます、同時にサスティーン(音の持続性)も伸びることになり結果として金属弦のような響きを得られるということになります。
カーボン弦をギターに張った場合に音の輪郭がはっきりするものの、キンキンした音に聴こえるのもこの性質のためです。
ナイロンは3つの素材のなかでは最も軽く、性質はカーボンとは対称的となり音の輪郭がまろやか(ぼやける)であるものの、ギラついた音色にはなりにくいといえるでしょう。ほんわか、まろやか、ボンヤリ鳴るのがナイロン弦の特徴。
それならガット(羊腸)の弦はどうか?
御覧のとおりカーボンとナイロンのあいだの重さです。しかし音の性質は単純にカーボンとナイロンの中間でもありません。
ガット弦は一般にサスティーンが短く倍音成分が少ないといった性質があります。でも、芯のある音色です。ボンヤリ感は控えめです。
音色を決定するのは単純に素材の重さではなく、柔らかさ(しなやかさ)や弦表面の状態や弾弦時の反応の俊敏さといった様々な要素がかかわっているからなのです。
さきのグラフに自作の地ガット弦の特性を重ねたのが次のグラフです。
黄色とピンクが自家製の弦です。
市販の弦に比べてずいぶん暴れた性質に見えるでしょう。
そもそもサンプルが少ないのですが、私が今回作ったガット弦のおおざっぱな傾向と見てください。
もちろん丁寧に作れば、なだらかなカーブを持つ性質の弦が作れるはずです。
私の地ガット弦は羊腸素材のAとTの2種類を用いて製造したわけですが、どちらもやや軽めでナイロンに近い重さとなっています。
ちなみに某社のガット弦は私の作った弦よりも湾曲した特性を持っていました。
公称値と現物に差が生じるのは素材や製造プロセスに問題があると思われますが、経の精度は可能な限りの高い精度が求められるべきでしょう。
なかなか難しいものです。まだまだ修行が足りんということですな。
作りたてのガット弦の張力(テンション)をキッチリ測定してそれを確認したうえで楽器に張りたい。
これは理想かもしれません。
長さ、重さ、直径から計算で予想できるのですが真値ではありません。
じつはちゃんと計るのは難しいのです。正確なテンションが計れないものか?
私もあれこれ試行錯誤したのですよ。でも、なかなかうまくいかなかった。
そうです「正確に」というところがムズカシイのでありまして、
ここの写真のようなテンション計測器でを作ってみました(あくまで試作)。
バネばかりを使うため張力をかけると弦長が変わってしまうのです。
ナットからサドルの長さを固定しても実際には「ナット〜ペグ」や「サドル〜弦結び目」の長さを計っているので、
その分が誤差となって無視できないほどに現れるのです。
しかも、弦は引っ張ると多少伸びます。直径も少し細くなります。
ナイロン弦は引っ張るとかなり細くなってしまいます(定まった音程に調弦された状態で太さを測るのが正確なのだが)。
もちっと正確に計りたい? 難しいです.......
このページで説明してきたように弦の重さや直径の測定を行い、その結果をグラフに参照して
グラフからおおむねの性質を知るという方法もあります。
弦メーカーの発表値はどうやって張力を計ったのでしょうか? どなたか御存知ですか?
専門誌やメーカー発表値や製作家の計測記事などを見比べると、同じメーカーの弦でも張力はだいぶ異なるのです。
正確にナット〜サドル間のテンションを計る方法なんて存在するのかなぁ?
例えば 計測誤差検討用写真
A と 計測誤差検討用写真 B を御覧ください。
これらを改造してみたりしていくつかセッティングの異なるものを作ったのですが、ひとまず代表的な2種類の測定装置の写真です。
となっています。計測した結果はおおむね傾向を知るには充分でしたが正確に計るとなると問題があります。
つまり A-B もしくは C-D の長さが変わると無視できない誤差が発生するのです。
この場合はナット〜サドル間ではなく弦全体の張力 A-D
を計っていますよね?
巻軸をA, E, F
と変更して巻軸-ナット間距離を変えた場合をそれぞれ実験してみましたが誤差の程度を調べるために、
C-D
の距離が同じになったときの張力を音の高さを記録します。
バネ秤は同じ位置(同じ張力)まで引っ張りますが巻軸側のA,
E,
Fによって発音する音の高さが異なります。
音の低くなった分の張力がドロップ(誤差)。
ほかの方法も試したのですが、A-B固定でDだけを D',
D'' のように引っ張り音の高さを測ります。
このときA-Bの長さは C-D,
C-D', C-D'' の関係と同じと考えます。
そうです、バネ秤は伸びる長さが大きいので誤差が目立つわけです。イケマセンねぇ。
さてあれこれ試行錯誤した末の改善策ですが、結局のところ「計測誤差検討用写真
B」のようなギター風の計測セットを作成し、C-D
の長さを10mm程度まで短くしてブリッジの結び目とサドルの長さを実際のギターと同じにして、なおかつ延びがほとんど生じない引張測定器を使えば限りなく正確な測定ができるであろうと私は考えています。
どうでしょう? もっとうまい計測方法がありますでしょうか?
私が思いついたのはこういった方法なのですが、弦メーカーなどはいったいどうやって計っているのかわかりません。
一説によるとメーカーも私のこの方法とほぼ同じ方式で計っているとかいないとか.......
。
【追記:2004年11月】
バネ秤は安価ですがどうしても上記のとおり延びが発生し、これは誤差となりマズイのです。
それで、2004年11月になって海外の弦作り仲間のミカエル氏とKiyond氏が延びがほとんど生じない引張測定器(以下写真)を見つけてきて弦の張力計を製作中とのことです。
現時点では最終的な測定結果を伺っていませんが、かなり誤差を排除して正確な値になるような気配です.....
はたしてどうなりますか? 興味津々です。みなさんもトライしてみてはどうですか?
ふだんは単純に直径を測り、市販の弦計算尺でガットの計算をしてます。おおむね合いますよ。
そしてキメ手はというと、ギターに弦を張りながら左手で糸巻きを巻き上げ、右手で弦をグイグイ引っ張って.....
そう! 原始的ですがこれが以外にも頼れるわけであります。
私の場合、ふだんからいろんな種類の弦を張っては弾いて取り替えて.... 楽器もリュートやウクレレやギターなど様々。
一日に幾本もの19世紀ギターの弦を交換することすらあるのです。弦長やボディ構造などのスタイルの異なる楽器だらけです。
最後は鳴らしながらチューナで音の高さを確認し、手で引っ張ってテンションを確認しています、
それが一番良い結果をもたらすと確信しています。でも体調悪かったりブランクがあると多少は乱れます(笑)。
LEE
さんと話してみたのですが、自分で弦を作るようなアブナイ人たち(笑)は、
ふだんから弦の張りについては敏感なハズだから張ってみておかしければ気付くだろう!? という結論にムリヤリ達しました。
楽器が壊れずに良く鳴る弦選び。それは大事なことですね。
糸巻きの重さやきしみ音、ネックや指板の動き、弦高の変化、音の詰まり、... よく観察しましょう。
過剰な張力は楽器を壊す恐れがあるのでくれぐれもご注意あれ。
【弦計測と弦選びにあれば便利な弦グッズ】
・マイクロメータ
・弦計算尺
・精密電子天秤(0.01g)
・クロマチック・チューナとコンタクトマイク
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