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■ ガット弦をつくろう
(6)巻弦を作る(作りたい)
さて皆さん、今回は弦づくりの番外編です。
今までのガット弦づくりはうまくいきましたか?(こう、耳をすまして皆様の反響を............... )
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Goooooood!!
OK! OK! 素晴らしい! そうですか、そうですか、満足していただけましたか。
そんなに賞賛の声を頂くと照れちゃうなぁ、もぉ〜〜〜、わはははははは.....!
気に入っていただけると私も嬉しいです。
えっ? 細い弦が切れやすいって? 気のせい、気のせい。
ん? 細いストランドが切り出せずに困ってるって? 気のせい、気のせい。がんばれ!
む? 歩留まりが悪くて思ったよりお金がかかるような気がするって? 気のせい、気のせい。
気をとりなおして、さっそく巻弦づくりについてのお話にまいりましょう。
● 今日はいよいよ「巻弦」がテーマです。
「魔危厳」というぐらいですから、前途多難であることが考えられますが、
今までこのシリーズで御案内してきたように歴史をふりかえってみれば何らかのヒントが見つかるかもしれません。
例によって巻弦づくりの様子を昔の版画で見てみましょう。
この版画を観察してみますと......
L:ホイール(プーリー)を使って芯材を回転させる。
D:適度な張力を与えながら作業する。
C:芯材を必要以上よじってしまわないようにする。
E:芯材に添って徐々に巻き上げていく。
H:G
の傍らの小箱には太さの異なるであろう巻き材のボビンが用意されています。
よく見るとこの作業はひとりでは成り立たず、誰かがプーリーを回転させ、
もうひとりが両手を使って巻き付けているのです(但し、中国曲馬団やヨガで鍛えた器用な方は足でプーリーをまわして ... )。
おそらくこの版画のような装置をこさえれば巻弦は私達にも作れるでしょう!
ここで、もうひとつの資料を御覧にいれましょう。Gibson社の弦製造の1シーンです。
100年ぐらいまでの初期のギブソンのカタログのなかに、この貴重な写真が掲載されていました。
そう! この写真に見るように....... なんと!
そういえばさきの版画だって手で巻いていますよね ...
さ、さうかっ! やっぱり手で巻くものなんですね。
ちなみにギブソン社ではのちに機械で巻くようになったようです(そりゃそうだ......写真の治具に御注目あれ!)。
こういった資料は大きなヒントになりますぞ。
では、現在市販されている巻弦はどうなっているのでしょうか?
クラシックギター用の巻弦は芯材にごく細い化学繊維の束を用いてあります。
古楽器の弦メーカーでは芯材にガットを使った弦も販売していますし、巻く金属の細線もアルミや銅など様々なものがあります。
ここに絹/シルクの原糸を掲載しておきます。現密造仲間から分けてもらったものです。
【絹の原糸】
じっつに細い繊維を数本束ねてさきの版画のごとく装置を作り、
ギブソンの写真のごとくがんばって金属細線を巻いていけば完成する!
.................. ハズ。
さあ! みなさん、早速はじめましょう!
忙しくて面倒なので私はやりません(笑)。でもいずれは作ってみたいです。
● さて、ここで「弦づくりとはそもそも何を目的としているのか?」を振り返ってみようと思います。
そもそもギターやヴァイオリンやリュートといった有棹弦楽器は低い音から高い音までの開放弦で張られています。
ネックにフレットを規則的に配置することで音階を実現しているわけです。
隣あわせた開放弦同志は五度や7度の音の幅をもっており、それが楽器ごとの特徴をもたらしています。
つまり弦長が同じ場合において、開放弦で高い音は細い弦を張り、低い音は太い弦を張っているのですが、
厳密にいえば高い音(高い固有振動数)のためには軽い素材を使い、
低い音(低い固有振動数)のためには重い素材を使うということでもあるわけです。
従って、今まで説明してきた「地ガット弦」製造コーナーでは、
「太さの異なるもの」を製造してきたと同時に、そのことは「重さの異なるもの」を作ってきたことにもなるのです。
そうです! さらに低い音を鳴らすためには弦を重くすれば良いことになります。
古来から弦の重さを増すために金属の粉末をガットにまぶしたものもありましたし、
ガットをいくつか寄り合わせて重くしたり、ガットと金属糸を寄り合わせたものもありました。
つまり、製造の手法はどうあれ、なんらかの方法で単位長あたりの弦の重量をコントロールすればよいのです。
備考:先日、弦楽器製作メーリングリストの「のみのみML」の集いにおいてスチール弦のギターの1弦をフロロカーボン釣糸で置き換えたところ、ほとんど鳴りに違和感がありませんでした。もちろん弦計算尺で張力(テンション)を測って試した結果です。
そこで私は考えました。
シルク繊維に金属細線を巻くという方法もおもしろそうではありますが、今まで作った弦製造装置をそのまま活かして低音弦が作れないものかと.... 。上記の弦づくりの目的にかなうものであればよいはずなのです。
そして完成したのが ..... CRANE
Luxline(クレーン・ルクスライン)!!
どうです? なかなかのアイディアでしょう? がんばって作りました。
金属の細い線を広い螺線間隔で巻いていくのでオープンワウンドともいいます。
大昔のリュートの低い音の弦もこれに近いようです。
銅線とガットをあわせて縒り、御覧のようにテニスのワイヤー・ガットのような風合いに仕上げたものです。
キルシュナー社などもルクスラインを製造していますが受注生産(納期は約3週間はかかる)であり、
高価で1本4000円程度(2003年現在)です。
さらに CRANE
は挑戦します。
発想の転換で芯材に銅線を用い、ガットをそれに巻き付けるというアイディアを考案しました。
こういった変な構造の弦は過去に例があるのでしょうか? 世界初!?(笑)
でも、結果は上記のルクスラインよりも扱いづらい弦になりました。
同じく、金属の芯線として銅とは比重の異なる真鍮(ブラス)を用い、それにガットを巻いたものです。
弦密造界のミックスド・メディアとでもいうべきでしょうか?
見かけは細いのですが単位長あたりの重量はだいぶ重い弦になります。
ギターにとって3弦や4弦は選びにくいことが多いのですが、ひとつの解決策としてこういった手法は有効と私は考えています。
3弦や4弦でなかなか市販弦がしっくりこないときは自分で作ってしまおう!という、じつに前向きな(謎)とりくみなのであります。
そうなんです。既存の巻弦とまったく同じものを真似て作るもよし、
あるいは既成概念にとらわれず、このようなアイディアで独創的な弦を試してみるというのも、
まさしく自作ならではの地ガット弦づくりの楽しみなのです。
みなさんもがんばって(楽しみながら)巻弦づくりに挑戦してみてください。
記事:2003年
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