イングリッシュギターの資料 |
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■ イングリッシュギターの資料
2003年にイングリッシュギターを入手しまして、修復したのちジェームズ・オズワルドの曲を自身で弾いてCDに録音したのが2004年。同時にクレーンホームページの新たなコーナーにすべくセッセと調査しては原稿を書きためておりました。ところが、当時はイングリッシュギターに関する資料は限られ、ネット上でもわずか数件しか見当たらず、公開されている内容も断片的。それでもメールを出したり楽譜を買ったりして .... 弦選びで悩んでみたり、糸巻の再現に奔走してみたりと.... なかなか調査は進まず、Webに公開するには至らぬまま時間だけが過ぎてゆきました。
気がつけばそれから15年。
2018年10月21日に竹内太郎さんがイングリッシュギターのワークショップを日本で(世界でもおそらく初めて)開催するというので、鶴田も先日参加しました。いくつか不明な点が明らかになったり、現存楽器をたくさん見ることができたりと、収穫がありました。竹内さんのホームページの記事はコチラ。
● イングリッシュギターの超短縮まとめ
その参加したワークショップのレクチャーの内容ですが .... 歴史的な流れなどをざっくりまとめると ...
古来からイギリスに合ったシターンとモラビアン(プロテスタント教徒)のシターンとドイツのシターンが融合して1750年頃に生まれたのがイングリッシュギターであった。多くは6コースの金属弦でピックは使わず指で演奏。7コースも有りますが6コースが主で、調弦は6コースから1コースに向かって(楽器を構えたときに上から下へ)ドミソそしてオクターブ高いドミソ。他にもラドミラドミとかソシレソシレがありました(主にCメジャーとかAメジャー、Gメジャーのオープンチューニング)。つまり弦を押さえなくても開放弦でココチ良く響くしくみです。
主に女性に人気で男性とのアンサンブルを口実とした社交のツール(笑)として大流行しました。しかし思いのほか進歩を遂げ、婦女子の御道具にはとどまらず質の高い楽曲も数多く生まれました。イングリッシュギターは1750年頃から60年代、70年代に隆盛を誇り1780年頃から下火になったのち、1800年頃にはハープギターにとって代わるのでありました。
歴史のみならず楽譜、作曲家、奏法など包括的な解説は竹内さんのページにおまかせすることにして、ここでは鶴田が書き溜めて未公開のままであったものを中心に掲載します。竹内さんと同じことを書いても仕方がないので(部分的に被るところはありますが)、ひとまず2003年の鶴田から見たイングリッシュギターの資料を書いておき、いずれまた新たな情報が発生したら追加で掲載して更新するつもりでいます。
ようやく重い腰を上げて15年前の原稿を発掘し、加筆・修正して本日(2018年11月1日)公開いたしまする .... 。
● 指板と音の配置図
演奏や楽器作りで必要な基本情報として、まずは音の配置を知るべく作ったのがこの指板の音の配置図でした。PDFも用意しましたので御利用ください。
楽器を抱えたときにいちばん下にくるのが1コース(1)です。1コースから4コースまでが複弦(ペア)で、5コースと6コースは単弦です。
【指板と音の配置図】 PDF Download [184KB]
● 各コースとポジションの音階
おおむね5フレットぐらいまで使えればたいていの曲は弾けるハズです。難しくて弾けないような曲は限られています。基本的には婦女子の皆さんが楽しめることが重要ですからな。カッコ( )はコースを、 ハイフン付き数字はフレット位置を表します。例えば (4) - 2 は4コースの第二フレットです。 ゼロ - 0 は開放弦です。
歌と合せるときは3カポにする場合が多いようです。
【各コースとポジションの音階】 PDF Download [220KB]
● 弦縒り器
弦の両端をループにする必要があります。一般的なペンチでも作れますが、コレは専用だけあって便利。
2003年当時、これを見つけたときは感激したものです。本来はポルトガルギターの弦を縒るために売られていたものですが、イギリスからポルトガルへ伝わったイングリッシュギターの子孫がポルトガルギターですから、弦も両端がループで同じです。ちなみに東ヨーロッパを経てロシアへ渡ったイングリッシュギターは7弦単弦ギターとなりました。お国柄の違いでしょうか。
この弦縒りツールはネット上で探すと現在では受注生産になっていることが多いようです。確実に素早く巻けて折ることなく綺麗なループが作れます。
銅線、真鍮線、青銅線はとくにそうですが、ループを作ろうとすると単線は急な曲げに弱いのですぐ折れてしまうことがあります。チェンバロの弦がそうですな。あれば重宝するポルトガルギター用の弦縒り器。
● ジェームズ・オズワルドの楽譜の一部とTAB譜(タブラチュア)
【 12のディベルティメント より I と II 】
原典のファクシミリはネット上で見つかるでしょうから探してみてください(マキロップさんのサイトにあるらしい)。
鶴田が2004年に演奏CDを作るときに急ぎで作ってみたのが、このタブ譜です。五線譜が読めなくてもイングリッシュギターが楽しめるようにと思いまして。敷居を低く、低く ... 。自分でも重宝してます。作成した当時はイラストレータで清書したPDFもあったはずなのですが、発掘できず。まぁ、ひとまず画像で公開します。あとは音源を聴くとか元の楽譜をみて確認するなり修正するなりしてお使いください。
オマケで6コースのブランクのTAB譜(PDF)も掲載しておきますので印刷して御利用ください。
・「DIVERTIMENTO I and II 」 JAMES OSWALD for English guittar
作曲:ジェイムズ・オズワルド (1710-1769)
タブラチュア作成 : 鶴田誠 (MakotoTsuruta)
DIVERTIMENTO - I Page 1 of 2 Page 2 of 2
1. Amoroso
2. Vivace
3. Gavota
DIVERTIMENTO - II Page 1 of 2 Page 2 of 2
4. Affetuoso
5. Tempo di Minuetto
6. Gavotto
● ガラクタ?楽器の構造と修復
初期のイングリッシュギターは平行なバーの表面板が一般的であったようですが、放射状あるいは逆ハの字、なかにはXブレイシングもありました。20世紀以降にはフラットマンドリンやフラットブズーキでも放射状ブレイシングを採用する製作家が見られるようになりましたが、両者ともイングリッシュギターとは異なるルーツです。
私が修理・修復したプレストン社のイングリッシュギターの外観と内部の写真を掲載しておきます。製作の参考になればと思います。
・イングリッシュギター (c.1765〜1775) 2003年 鶴田誠 修復
English Guittar / Preston Ca.1765 (Active 1734-1770 London)
・ヘッド裏に焼印有り:PRESTON MAKER LONDON
・調弦( c - e - gg - c'c' - e'e' - g'g' )
・弦長:426 mm
・全長:680mm
・ボディサイズ:355mm x 290mm
・ボディ厚:約70mm
・ナット幅:46mm
・表面板:スプルース
・側面板:メイプル
・ネック・ヘッド:メイプル(フラットソウン)
・裏板(1枚板):メイプル
・ナット:象牙
・ブリッジ:黒檀+象牙サドル
・ストリングピン:象牙
・テールエッジトリム:象牙
・ヘッド装飾:アカウミガメの鼈甲
・ロゼッタ:コンパススタイル(象牙と黒檀とメイプル):リュートのような彫り抜きや鋳物に金泥装飾したものもありました
・塗装:セラック
・糸巻:ウオッチキー方式(プレストン特許)
・フレット:合金製バータイプ
【過去の修復歴など】
2003年に鶴田が入手した時点では全体各部にダメージがあり、とても弾ける状態ではありませんでした。
内部にはマーチン・バウワーズ氏による1973年の修復ラベルが貼られていましたが、それから30年が経過していたのです。
表面板には折れたような痕跡があり、それは弦の張力によるものではなく踏みつけたような圧迫によるものと推察します。
フレットの激しい摩耗と欠損、表面板と裏板には広範囲に亀裂、糸巻きは固着して動かないコースも有り、ロゼッタの亀裂と剥がれ、ブリッジの反り、ストリングピン(象牙)の欠損、内部も第1バーの欠損、逆ハの字バーのハガレ、等々。鶴田によって全てを修理して演奏できる状態に戻しました。
過去の修理では赤茶色の顔料の痕跡のほか、表面板内部の下に底 Rubbish(ガラクタ)と鉛筆で走り書きされていました(灰色のセメントで修理した者による)。
その他、激しく傷んだ塗装の箇所をシェラックで補修しました。
修復完了後は非常に弾きやすく良く鳴ります。
参考:裏板内部のマーチン・バウワーズ氏による1973年の修復ラベル。
Remarks: - Original Banging removed by someone unknown because of severe worn in Belly. I replaced 3 barrs(?) filled(?) wo*** + reglued all others. the word "Rubbish" was already there. M.B. |
【和訳】
1973年にイギリスのエセックス州のマーチン・バウワーズによって再び弾ける状態に修復した。
表面板中央部分(ブリッジ裏側に相当)のブリッジプレートは虫食いが原因で誰かによってひどくはがされていた。
私(マーチン・バウワーズ)は3本のバー(表面板)を交換し、worm(虫喰い)を埋め、他数カ所を再接着した。表面板に書かれた「Rubbish(がらくた)」の文字は最初から書かれていた。
● ウオッチキー糸巻き
これはすでにウチの工房クレーンで復刻品をプロデュースし、2004年に公開して現在でも販売していますが図面は初公開です。
これもPDFを用意しました。楽器が無いことには始まりませんからな。
フラットブズーキ族やポルトガルギターを改造して弦を変えればなんとかイングリッシュギターの代用になるかもしれませんが、もしヒストリカルに製作するのであれば、このウオッチキーの糸巻は重要な部品です。じつはイングリッシュギターを入手する数年前から、ウォッチキーの糸巻き欲しいなぁ、そしてなんとか楽器を作れないものかなぁ、と考え続けていたのです。しかし寸法も構造もわからず、いろんな工場に相談したものの高額見積に挫折しそうになっていました。プレストンの楽器を手に入れて具体的な見本ができたので、おもいきって2004年に工場に協力してもらって5セット完成しました。国内外へ販売したのちさらに数セットを追加製作しました(まだ若干在庫あります)。当時の工場からの仕入れ価格6万円。クレーンでは利益なし6万円で販売していました。現在は物価が上がって6万円での販売は無理。
【ウオッチキー糸巻きの図面】 PDF [650KB] Download
CRANEの過去記事(ウオッチキー糸巻きの復刻)はココ
http://www.crane.gr.jp/more/parts-reproduction/PRESTON-watchkey2.html
シターンが起源でもあり、木ペグのイングリッシュギターも現存するのですが .... スケール(弦長)が短かく金属弦なので機械式糸巻のほうがはるかに調弦しやすいです。昔の懐中時計のゼンマイを巻く鍵(ウオッチキー)を使って内部のスクリューを回転させると組まれたコマが上下するという簡潔にして確実な構造。2番キー(#2)が多いようですが、肝心のウオッチキーは四角軸の奥までしっかり挿して回さないと頭をナメてしまうので要注意。また、ウオッチキー先端部分はなるべくテーパー(横から見て台形)のついていないストレートなものを選ばないと奥まで入りませんから、これも要注意。
この図面、カンタンに説明すると糸巻のフレームは横から見ると コ の字型になっていて、そこに巻軸が上下に貫いている構造です。ただ、巻軸はそのフレームと同じ長さ、もしくは長くなければいけません。どうやって軸を入れたの?
● イングリッシュギターのその後
イングリッシュギターはやがてイギリスから東へ伝搬してロシアの7弦ギターとなりました。またその一方では英国の軍政下にあったポルトガルにも伝わり「ポルトガルギター」となったのです。
この写真は2001年に私が入手した7弦ギター。写真ではテールピースが追加・改造されていますが機械式インラインペグとボディシェイプの特徴からボヘミアもしくはオーストリア製と思われ、ロシアへ輸出されていたのでしょう。調弦は D G B d g b d' などが当時は一般的。
次の写真。こちらはたしか ... 2004年頃に入手した19世紀のポルトガルギターです。2本ともFAYAL製。当時は多くがファイアル島(FAYAL / FAIAL) で作られたようです。Augusto Cesar Furtado や ANTONIO MARIA DA ROSA あたりの工房がメジャーです。使われている木材がイギリスのイングリッシュギターとは異なります。現代のポルトガルギターよりもふたまわり小さく、ボディの幅は18世紀のイングリッシュギターよりも狭く小振りです。 時間がなくて未修理で調査不足のままウチの工房に放置されています。木ペグの復刻品は作ってありますので、あとはブリッジやナットを作り、クラックをふさいでフレットを交換すれば弾けるようになります。老後の楽しみにとっておこうかな。
● イングリッシュギターの弦
楽器を入手して困ったのが弦選びでした。2003年当時、ネット上の大海を探しても見つからず。調弦はわかったけれど、ユニゾンで張るのかオクターブで張るのか? 素材は何なのか? 鉄(スチール)、真鍮(ブラス)、銅(コッパ―)、青銅(ブロンズ)の使い分けは? どのコースを巻弦にするの? 基準ピッチは? 当時は試行錯誤でひととおり選んだものの確信は得られず。ただ、実際に張ってみて気づいたのは1コースは張力と音の高さを考えると銅線や真鍮線は切れてしまうので鉄になるはず、ということでした。2コースめも似たような傾向。しかし3コースから6コースは鉄線を張るとギラついた音になり弾きにくい。それで真鍮や青銅を張ったところ音色は満足。しかし逆に1コースと2コースの鉄弦は倍音が多く真鍮と比べて音量差もあるのでどうにかならんかなぁ...と2004年にいったんそこで止まっていました。
で、先日のイングリッシュギターのレクチャーで18世紀当時は軟鉄を使っていたとのことで納得・解決。
調弦は低いほうから高いほうへ向かって( c - e - gg - c'c' - e'e' - g'g' )で、当時は以下のようになることがわかりました。
1コース:複弦ユニゾンで軟鉄弦
2コース:複弦ユニゾンで軟鉄弦
3コース:複弦ユニゾンだが真鍮弦
4コース:複弦ユニゾンだが真鍮弦
5コース:単弦シングルで銅巻弦(芯はおそらく軟鉄で羊腸やシルクも可能性有り)
6コース:単弦シングルで銅巻弦(芯はおそらく軟鉄で羊腸やシルクも可能性有り)
現時点では細いゲージの軟鉄線を探すのはたいへんなのでチェンバロ系で探すか、もしくはアコギ弦やエレキ弦を焼きなまして自作するのも良いでしょう。当時のイングリッシュギターの弦長は主に 約420mm、約470mm、約520mm など。最も普及したスタイルは 420mm クラス。ちなみに指板は平坦ではなくラウンドしています(第三フレットは良く響くように弦長がやや短くなるようブリッジ寄りに配置)。7コースの楽器も有り、末期にはガット弦のイングリッシュギターもありました。
イングリッシュギターセット絃というのは市販されていないので、ギター弦を流用するのも一案です。ポルトガルギターはコインブラ(Coimbra)型は弦長470mm、リスボン(Lisboa)型は弦長440mm程度ですが調弦が少し違うので要注意。エレキギター用の弦やアコースティックギター(フォークギター)用の弦も流用可能ですが、基本的に焼き入れ金属弦なので硬く倍音が多すぎる傾向があります。
【弦選びの例】
弦の選定:2003年12月23日:鶴田 誠 2018年10月に再計算
この楽器は426mmで6コースです。私が2003年入手当時に張られていたセット(素材はまちまちだったが弾きやすく室内なら音量も充分)のテンションを再計算してほぼ再現したのが以下のセットです。
ヒストリカルには前述のように軟鉄と真鍮と銅ですが、それはそれで置いといて、ここでは入手しやすさを優先して市販のギター弦から選んでいます。青銅(ブロンズ:銅と錫の合金)を主体に組んでみました。具体的にはマーチンの12弦ギター用ブロンズもしくはフォスファーブロンズ。
【プレストン / John Preston:イングリッシュギター / English guittar】
弦長:426 mm 合計約35kg 1コースで単弦4kgと複弦7kgがざっくり目安。
おそらく、モダンマンドリンとかブズーキ族をふだん弾いている方にはかなりゆるく感じるでしょうけれど、婦女子の皆さんが爪ではなく指頭で弾いたことを考えるとおそらく当時はこれぐらいが標準かと思います。
A=435Hz(440Hzでも使える) 弦長:426 mm 合計約 35.2kg
●1コース (g1) :アーニーボール エレキ弦 スチール 0.22mm (.009 inch) 3.5kg x 2 = 7.0kg
●2コース (e1) :Martin12弦ギターセットSP-Ex-Light 80/20ブロンズ緑 0.26mm(.010 inch) 3.1kg x 2 = 6.2kg
●3コース (c1) :Martin12弦ギターセットSP-Ex-Light 80/20ブロンズ緑 0.35mm(.014 inch) 3.5kg x 2 = 7.0kg
●4コース (g) :Martin12弦ギターセットSP-Ex-Light 80/20ブロンズ緑 0.46mm(.018 inch) 3.4kg x 2 = 6.8kg
●5コース (e) :Martin12弦ギターセットSP-Ex-Light 80/20ブロンズ緑 0.58mm(.023 inch) 4.0kg
●6コース (c) :Martin12弦ギターセットSP-Ex-Light 80/20ブロンズ緑 0.76mm(.030 inch) 4.2kg
同じセットの弦を A=415Hz で調弦した場合の張力。 弦長:426 mm 合計約 31.9kg
●1コース (g1) :アーニーボール エレキ弦 スチール 0.22mm (.009 inch) 3.1kg x 2 = 6.2kg
●2コース (e1) :Martin12弦ギターセットSP-Ex-Light 80/20ブロンズ緑 0.26mm(.010 inch) 2.8kg x 2 = 5.6kg
●3コース (c1) :Martin12弦ギターセットSP-Ex-Light 80/20ブロンズ緑 0.35mm(.014 inch) 3.2kg x 2 = 6.4kg
●4コース (g) :Martin12弦ギターセットSP-Ex-Light 80/20ブロンズ緑 0.46mm(.018 inch) 3.1kg x 2 = 6.2kg
●5コース (e) :Martin12弦ギターセットSP-Ex-Light 80/20ブロンズ緑 0.58mm(.023 inch) 3.6kg
●6コース (c) :Martin12弦ギターセットSP-Ex-Light 80/20ブロンズ緑 0.76mm(.030 inch) 3.9kg
※ 基準ピッチのほか、弦長、ブリッジの高さと位置、ネックの仕込み角度、ナットの溝深さ、フレットの摩耗程度によってもセッティングが変わるので弦も選び方が変わります
ふだんは A=415Hzで弾いてそれを基準と考え、全体の張力を少し上げたいというのであれば全体のゲージを1つ上げることになりますが、わずかに太さの違う弦は別のメーカーから売られていたりするのでマーチンに固執する必要はありません。パッケージの多くはインチ表示なのでミリメートルへの読み替えが必要になります。
鶴田の個人的好みで言えばアコースティックギター用のブロンズ弦かフォスファーブロンズ弦。メーカーはD’Addario(ダダリオ)、Martin(マーチン)、Elixir (エリクサー)、ERNIEBALL(アーニーボール)、などなど...選び甲斐があります。コーティングして耐久性を高めたコーテッド・フォスファー・ブロンズなんてのも各社から出ていますが、音色はボケ気味で値段だけ高いので個人的にはオススメはしません。
アコースティックギター/アコギの弦は種類が豊富で、なんといっても入手しやすい点がヨロシイのです。シルク芯の巻弦もありますしね。
シルク芯の巻弦といえば当サイトの19世紀ギターや弦のコーナーでも幾度か紹介してきたマーチンの M130 がありますな。コンパウンド弦ともいいます。シルク芯にフォスファーブロンズを巻いた Martin MFX-130なんてのもあります。いずれもゲージは限られますが音色が選べるのは嬉しいことです。
ギター弦(市販弦)の場合、メーカーからデータシートが公開されていれば張力がわかります。弦長と基準ピッチも書かれているはずなので、そこから弦計算尺で逆算して自分の楽器の弦長と基準ピッチに合うように再計算するのも良いでしょう(金属弦に限らずナイロン弦もそうですな)。弦計算尺があればテンション管理が定量的に可能ですし、全てをガット(羊腸)弦で張ることも可能です)。
なお、ドイツのピラミッド社は単線の切り売りやリールで真鍮(ブラス)、青銅(ブロンズ)も扱っていますし、キルシュナー社の場合は巻弦の芯をガットにするにはVDシリーズ、ナイロン繊維を芯にした銅巻弦であればKNシリーズも候補でしょう。種類もゲージ(太さ)も豊富なので音色の好み等で様々に試すのも面白いでしょう。
【弦選びの参考:金属の比重】
金 Au 19.32
銀 Ag 10.50
銅 Cu 8.96
青銅(銅と錫の合金) 8.6? 銅が多いと赤茶色、錫(スズ)を増すと黄色っぽくさらに錫が多いと白い。リンを混ぜたり。
真鍮(銅と亜鉛の合金) 8.45 配合比の異なる硬い真鍮や柔らかい真鍮もある
鉄 Fe 7.87
スズ(錫)Sn 7.31
亜鉛 Zn 7.13
※ 鉄:焼成と冷却により性質が異なる。エレキ弦等は焼き入れしてありギラギラして倍音が豊富。クラフト系針金(軟鉄)はそれらが控えめ。
※ フォスファー / Phosphor :もともと蛍光体という意味で、明るいというニュアンスで付けられた名称。
ブロンズ弦: 金色系で余韻ひかえめ、まろやかな音色、スズが20%なので弦の袋に80/20とか印字されてる
フォスファーブロンズ弦: 赤色系で余韻長め、重く明瞭な音色、少量のリンを含み高耐久。弦の袋にはPHOSPHOR BRONZEと印字される
※ ギター弦のカタログやパッケージで太さの後ろに W と付いていたら巻弦です(Wと名前がつかない巻弦もあります)。
※ 巻弦は実測の直径ではなく単弦に換算した場合の張力で表記してあったりするわけで、巻弦を買ってきて直径を測ったらパッケージに書いてあるのと太さが違う場合があるのはそのためです。
【やわらか系?弦素材の比重 ... 金属との比較参考に】
フロロカーボンの比重 1.78
ポリエステルの比重 1.38
ガット(羊腸)の比重 1.35
ナイロンの比重 1.14
同じ張力を得る太さの比較:ガット(羊腸)を基準として比較した場合を書いておきます。
ナイロン 1.10mm
ガット(羊腸) 1.00mm
フロロカーボン 0.85mm
鉄 0.41mm
ナイロン 0.55mm
ガット(羊腸) 0.50mm
フロロカーボン 0.42mm
鉄 0.21mm
【その他 イングリッシュギターの弦探し】
単線はホームセンターや東急ハンズ(ハンズセレクト商品とか)みたいなクラフト系、工作系のお店にも真鍮ワイヤー、銅線などが売られています。2003年頃にあらゆる針金、おっと、弦を買ってはプレストンに張って試したものです。価格という点ではこういった分野(業界)のほうが安いのですが、長巻(リール)でしか売っていないことも多いので難しいところです。ガット弦を作るときに羊腸に金属線を同時に巻いて縒って作るときにも重宝しました。工業材料としてのワイヤーはいろんな素材と太さが、探せばけっこう売られています。日本に住んでいるとお店で何種類も見比べて金属の質感とか色とか、やたらと選べるのが楽しいですな。
● オマケのオマケ資料:市販弦の太さ(ゲージ)インチとミリメートル換算
以下に、主にギターで使われるゲージ(弦の太さ)を書いておきます。弦を探すときの参考になるかと思います。
アコギやエレキギターはアメリカの会社が幅を効かせている業界なので、いまだにインチ表示で売られています。ハーレー・ダビッドソンのインチ工具のように、弦もメーカーによってはインチ表示が同じでもミリメートル実測値が微妙に異なることはよくあります。
inch mm
0.009 0.23 0.22mmの場合もあるのだ ★1コース
0.100 0.25
0.011 0.28 ★2コース
0.013 0.33
0.014 0.35
0.016 0.40
0.017 0.43
0.018 0.46
0.024 0.61
0.026 0.66
0.028 0.71
0.032 0.81
0.036 0.91
0.038 0.96
0.042 1.07
0.046 1.17
0.049 1.24
記事:2018年11月1日
弦楽器工房CRANE/アトリエ・クレーン:Luthier 鶴田 誠