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■ 弦選びとサドル調整のおさらい
完成して調整の段階にある皆さん。あるいは、いまひとつ思うようにいかないなぁ、という皆さん。
このシリーズの最初に鶴田が STEP-0 でハーディガーディは「調整」で8割の音が出ている感じ、と述べましたが、それを実感していただけたでしょうか?
しかし、楽器のキットなるものをはじめて作った、という方々にとっては完成にこぎつけるだけでも大変な苦労であったと察します。
むしろ初めてこれを作って鶴田の二号機並みに静かに完成した人は天才です。弦楽器製作家に転職しましょう。
この楽器の多少のゴリゴリ音やキリキリ音は「味」です。こんなことで力を落としてはいけません。むしろ完成後の調整と弦選びで楽器の完成度は劇的に変化するのです。
擦弦楽器なので調整次第で音量が予想以上にでっかくなり、相対的に駆動音などは目立たなくなります。がんばりましょう。
● まずは復習です。くどいようですが重要なポイントです。
・サドルが低め:サドルからホイールまでの角度がきつくなる。
ホイールと強く摩擦するので音量が大きくなりますが、反面、ホイールの凹凸を拾うのでギラついた音色になりやすい。
・サドルが高め:サドルからホイールまでの角度が浅くなる。
ホイールと弦は軽く触れ合うので音量はひかえめですが、音色のギラつき感は軽減されます。
※ 弦の太さと張力とサドル高さ、は音量や音色のギラつき感などと深いかかわりがあります。積極的なサドル高さ調整を。
※ この楽器特有といえば超短い弦長。とくに6番キーは音がギラつきやすいというか、ひっくりかえりやすいです。
個人的に思うには、6番キーを使う曲は少ない?ので最悪でも5番キーまで音質・音量が調整できればOK。
■ 付属の弦と置き換え弦の候補
※ 以下、弦長 256mm 基準ピッチ A=440Hz という前提で書いていきます。
※ 張力(テンション)は kg で表記します。
※ 弦の張力:この楽器では 4kgは強め、3kg程度が普通、2kg程度が弱め といった感じです。
※ 弦の素材ごとに太さを列挙します。PVFとはフロロカーボンのことです。Nylonとはナイロン弦のことです。Gutとはガット(羊腸)弦のことです。
・フロロカーボン(PVF)の弦は比重が大きく金属に近い音色が特徴。
・ナイロン弦は比重が小さく、ほんわか音色が特徴。
・ガット(羊腸)は比重がナイロンとカーボンの中間で芯のある音色。
● D の調弦のままで音色を変え張力をひかえめに
この製品の公式サイトで推奨している基準音は D(レ) のユニゾンです。ギターの1弦10フレットに相当します。
ユニゾンとはつまりメロディー弦もドローン弦も同じ高さの音で調弦をすることです。
付属の弦は フロロカーボン(PVF)素材の 0.57mm の釣り糸です。けっこう強いです。張力は 4.2kg になります。
※ 一般的なチューナーでは D5 です。弦計算尺では d2 です。D5/d2 (張力4.2kg) : PVF 0.57mm Nylon 0.73mm Gut 0.66mm
音色だけを変えたいのであればナイロン弦0.73mmに交換、または羊腸弦0.66mmに交換しましょう。という意味です。
しかし、4.2kg はやはり強すぎると私は思います。サドル(弦高)調整もたいへんですし。
そこで、次のように弦を交換して約3kgまでテンションを落としてみるのも良いでしょう。
ナイロン弦なら0.64mm。羊腸弦なら0.58mmです。
常に D(レ) で弾くのであればこのほうが扱いやすいでしょう。
サドル高さもやや高めで弦がホイールに軽く触れるように調整してみてください。D5/d2 (張力3.2kg) : PVF 0.50mm Nylon 0.64mm Gut 0.58mm
● 張力を下げて G などで調弦
あるいは付属の弦はこのままで弦を2本ともゆるめて G で調弦してみるのも面白いです。張力は 1.9kg と弱いです。
サドル高さを調整さえすれば音量は控えめですが、弾けます。ギターの1弦3フレットに相当します。
※ 一般的なチューナーでは G4 弦計算尺では g1 です。G4/g1 (張力1.9kg) :PVF 0.57mm Nylon 0.73mm Gut 0.66mm
つまり付属の弦 PVF 0.57mm(あるいは Nylon 0.73mm や Gut 0.66mm)のままでも、
音量ひかえめで張りがゆるいG(ソ)から、張りと音量が強くて甲高い D(レ)まで幅広く調弦できてしまいます。
一般的なチューナーの表記では G4、A4、B4、C5、D5 あたりの範囲ですな。張力は以下のとおり。D5/d2 (張力4.2kg)
C5/c2 (張力3.3kg)
B4/h1(b1) (張力2.9kg)
A4/a1 (張力2.3kg)
G4/g1 (張力1.9kg) ⇒ 鶴田の演奏サンプル「ジングルベル」はこのユニゾン調弦歌に合わせるというのであれば歌いやすいキーに調弦するもよし。
メロディ弦もドローン弦も基本はユニゾン、というのがこのキットの推奨なので比較的単純でわかりやすいです。
極端にいえばチューナーの指示には無関係に、2本とも同じ高さに調弦すればイイということですからな。あえていえば A4 と G4 の張力が大幅に弱いですね。
日常的に使うキーが A4/a1 や G4/g1 であって、変更することがほとんど無いのであればパワーが物足りないので、
太い弦に交換して3kg程度まで張力を上げれば音量も豊かになります。
例えば以下のような選択例を挙げておきます。日常的にA(ラ)で使いたい場合
A4/a1 (張力3.0kg): PVF 0.66mm Nylon 0.82mm Gut 0.76mm日常的にG(ソ)で使いたい場合
G4/g1 (張力3.0kg): PVF 0.74mm Nylon 0.94mm Gut 0.85mm
※ もちろんこれより少し高くしたり低くしたり加減して使うのも有りです。張力 3kg を中心に使うという意味ですので。
■ ドローン弦をオクターブ下に調弦
演奏する曲によってはドローン弦をオクターブ低く調弦したほうが効果的に響くことがあります。
ユニゾンで張るかオクターブで張るかは演奏する曲や奏者の好みにもよります。
ここでは G調弦 の例を挙げます。付属の弦(PVF 0.57mm)を G にするなら 1.9kg とゆるいのでしたな。これはひとまず音量を上げましょう。
G4/g1 (張力3.2kg): PVF 0.74mm Nylon 0.97mm Gut 0.88mmさて、これに対してドローン弦をオクターブ下げるために、弦は以下のように選んでみました。
実際に銀巻弦の VNG5132 を張ってみたら張力1.8kgで弱めかと思いきや案外パワーがあります。
G3/g (張力1.8kg): PVF 1.10mm Nylon 1.45mm Gut 1.32mmオマケで言いますと ... じつは、同じ弦をさらにオクターブ下げて調弦することも不可能ではありません(かなりゆるいけど)。
G2/G (張力0.5kg): PVF 1.10mm Nylon 1.45mm Gut 1.32mm
【知っておくと便利な法則】
上記の例でお気づきの方もいらっしゃるでしょう。そうなんです、ドローン弦はメロディー弦の約1.5倍の太さです。
ドローン弦の張力をメロディ弦と同じにすると鳴りすぎてうっとおしいので、低めでも良いと思います。
実際には太いPVF弦や太いナイロン弦を探すのはたいへんなので巻弦にしたほうが良いかもしれません。
ちなみに羊腸弦はけっこう太いものでも市販されていますがペグの巻軸穴に入らないこともあるので要確認。
⇒ 鶴田の演奏サンプル「第九 / 喜びの歌」は以下のようなオクターブの調弦です。
メロディー弦もドローン弦もゆるめですが、調整さえすれば弾けてしまいます。いずれ実際の動画も掲載します。
メロディー弦 G4/g1(張力1.9kg) : Gut 0.66mm (キルシュナー社 FDH5066)
ドローン弦 G3/g (張力0.8kg): Gut 0.88mm (キルシュナー社 FDH5088)
■ 結局のところ
● 以上のとおり弦の素材ごとに選択例を挙げましたが、実際に入手するにはフロロカーボンPVFだと釣具店で「○.○○ mmのカーボン弦ください」といえばお店の人が目を白黒させながら「はい、はい、ハーディガーディにはこれがいいですよ」と言いつつ呉羽社のシーガーを出してくれるでしょう(^_^;
● ナイロン弦を探すならギター用やウクレレ用の弦で代用してもかまいません(もちろん釣り糸でもOK)。手元にテキトーな弦を見つけてナイロンなのかカーボンなのかわからないときはライターかガスコンロで端を加熱してみてください。黒く溶けやすいのはカーボンです。
● ガット(羊腸)弦で選ぶならハイツイスト(キルシュナー社でいえばFDHシリーズ)がお薦めです。0.6mmぐらいからあります。ホイールに良くからみます。
● ドローン弦をオクターブ下で張る場合は巻弦(例えばドイツのキルシュナー社であればVNやKNやVNGシリーズ)が候補になりますが、オープンワウンドのガット(羊腸)弦でキルシュナー社のLKやLSもお薦めです。VNGはダイナミックレンジが広い印象です。KNは比較的音がひっくり返りにくように感じます(余計な倍音が少ないせいでしょう)。
● 張力のかな〜〜〜り弱い弦を選ぶと音量はさらに下がりますが、紙やすりと松ヤニとサドル高調整でちゃんと鳴ったりします。
このあたりが擦弦楽器のすごいところです。とくに巻弦、ゆるゆるの 0.5kg ぐらいでもけなげに鳴ります。床下で貞子がうなってる感じ。
● 読んでるうちになんだか弦選びが面倒になってきたなぁ、という方も御安心ください。面倒な時は付属弦のままでもOKですよ。このページは補足ですから。
● ガット(羊腸)弦を御希望の方は状況等を連絡いただければ羊腸調弦を小分けしますし、弦の共同購入に参加していただいてもかまいません。
● このキーでもう少し強い(弱い)張力の弦のゲージを知りたい、などの御相談も遠慮無く連絡ください。可能な範囲で計算してお答えしまするるる。
次はいよいよ「改造」です。 ひゃ〜〜〜!
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