第2章ではリュートの種類についてご紹介しましょう。
まず、 大別して次の2つに分類されます。
● ルネサンスリュート
● バロックリュート
これら2つは、見た目はほとんど同じに見えることもありますが、調弦(調律)がまったく異なります。 ルネサンスリュートは主に6コース〜10コース、一方のバロックリュートは主に13コースのものが主流です。
(注:現代のギターは6本の弦を持ち、高い音(細い弦)から順に1弦、2弦、3弦、4弦....と呼びますが、リュートのような複弦の楽器は1組づつを高い音から順番に1コース、2コース、3コース、4コース....と呼ぶことになっています。)
● ルネサンスリュート
ルネサンスリュートの弦の数は当初6コース程度でした(それ以前の中世では5コースも存在していました)。ちなみに最高音の1コース目だけが単弦で、あとは複弦というのが一般的です。このルネサンスリュートの楽器は現代のギターとよく似た調弦です。ギターの3弦を半音低くF#(ファ#)に調弦し、3フレットにカポタストを付ければリュートと同じになります。よって、ギター経験者がリュートをはじめる場合にはこちらをまずお薦めします。レパートリーとしても舞曲や民謡をテーマにした作品などじつに豊富です。 時代とともに7コース、8コース、10コースと弦の数(コース)が増え、やがて17世紀にかけてアーチリュートのような番外弦を持つ全長1.4mぐらいの大きな楽器へと進化していきました。
【ルネサンスリュートの主なレパートリー :コース別】
6コース〜8コースのルネサンスリュート
北欧の民謡などの作者不詳とされる楽曲
J・ダウランド(イギリス)の初期〜中期の作品
F・ダ・ミラノ(イタリア)
H・ノイジドラー(ドイツ)
P・アテニャン(フランス)
A・ルロワ(フランス)
他にも L・ミランや、L・ナルバエスの書いたビウエラ用の曲も弾けますけど....。私が最もお薦めするのが6コース〜8コースのルネサンスリュートです。教則本はハンス・ノイジドラーの書いたものなどが有名ですが、他にもいくつかGSPで入手可能ですし日本語での教則本やビデオも発売されています。みなさんがリュートをすぐに楽しみたいのであれば、ギター用に編曲された「ルネサンス曲集」がいくつか販売されていますのでひとまず手元に楽譜が手配できるまではそれから取り組んでもいいかもしれません。また、近年になって8コースルネサンスリュートによるバッハ集というようなユニークな楽譜も岡沢道彦さんによって発表されています。
10コースのルネサンスリュート
もちろんこの楽器なら6コース〜8コースの曲も弾けますが、弦の数や調弦の使い分けに多少の工夫と努力を要します。J・ダウランド(イギリス)のほとんど全ての作品、表現豊かなR・バラールの作品なども楽しめます。
● バロックリュート
17世紀初期(1600年頃)からフランスでは合理的な調律が研究され続けていましたが、多くはミーントーンで調律されることが普通でした。やがてバロック調弦(調律)というものが確立されます。つまりルネサンスリュートが全く生まれ変わって改良されたものがバロックリュートだと思えばよいでしょう。従ってバロックリュートは弦の数が17世紀当初は11コースだったのですが次第に13コース、14コースへと巨大化していきます。やがてテオルボ(キタローネ)と呼ばれる全長2m近い巨大な楽器へと進化していきました。ドイツではジャーマン・テオルボなるものが大人気で、バッハもバロックリュートの作品をいくつか作曲しています。当時はまた、舞台や他の楽器とのアンサンブルにおいて通奏低音を奏でることも多かったようです。 ただ......問題は弦の数が増えすぎたことでしょう........。やがて人々がリュートから遠ざかる原因になってしまいました。
その演奏の困難さを解消するために現代になって11弦アルトギター(イエラン・セルシェル御用達ね)なるものが開発されています。 ちなみにバロックリュートは1コースと2コースを単弦で張るのが一般的です。
【バロックリュートの主なレパートリー :コース別】
11コースのバロックリュート
J・ビットナー
C・ムートン
E・ロイスナー
J・G・コンラディ
F・デュフォー
J・ガロ
17世紀のフランスやドイツの曲が演奏できますがタブ譜をいくつかマスターしなければなりません。バロック調律はマスターするのにちょっと苦労します。
13コースのバロックリュート
J・S・バッハ
S・L・ヴァイス
ズバリ!バッハを極めたいのならこれです。昔、リュート奏者がバッハの組曲を演奏して「難しすぎる」といったところバッハは「練習が足りないのだ!」とおっしゃったそうです。ちなみに、現在の研究によりますと複弦のオクターブ側だけ弾かねばならないとか、やたら複雑だそうです......特にBWV996とかBWV997とか。しかしバッハ自身は様々な楽器の名手といわれながらもリュート(ジャーマン・テオルボ所有説あり)は弾かなかったとされています.......。
かのN.イエペス氏はバッハ作品を演奏するだけのためにリュートを勉強(練習)したそうです。CDも出版されていますね。 なおヴァイスの作品の多くは11コース用でしたが、のちに13コース用に書き換えられたものが多いようです。あとバロンもバロックリュートの作品を残しています。 バロックリュートの醍醐味はむしろヴァイスである!という人も多く、非常に美しい曲をヴァイスはたくさん書いています。
● その他のリュート族の楽器ルネサンスリュートとバロックリュート以外にも楽器全体の形状が似ていたり調律が同じであった楽器もいくつか存在したようです。たんにサイズのひとまわり大きく、調弦の低いバスリュートから小型のリュートで高い音が出るソプラノリュートとかトレブルリュートなど音域やサイズも様々なものが存在しました。
なお、19世紀終わり頃からしばらくのあいだ「リュートギター」なる楽器が登場し、ボディは丸いボウル状で指板にフレットが打たれ、ペグも機械式でブリッジやサウンドホールもギターのような構造をしたものがありましたが、それはどちらかといえばギターの仲間と考えたほうがよく、リュート曲の普及や復興に一役かったといわれています。