CRANE Home Page / Makoto Tsuruta

工程説明ページ


 6. ロゼッタ:図面と皮からパーツ製作

さて、イタリアンギターのロゼッタにはいくつかのパターンがありますがここではセラスをモチーフにしたCRANEスタイルのロゼッタでまいります。材料はパーチメント(もしくはベルム)を入手する必要がありますが、さきの「はじめに」で入手先を紹介していますのでご覧ください。私がR.カバジンさんから購入した皮は2種類で #454 という薄くて堅い子牛のパーチメントで非常にグレードの高い(値段も高い)ものと、 #444 というやや厚めのBグレードのパーチメント(価格は安い)です。ここでは#454 を使って製作しましたが、毛穴の痕が残っている #361 もしくは #430 もお薦めです(イタリアのエレナ女史はこれに近い皮を使っています)。
念のためいっときますが、皮はなめして薄く作られており、もともと動物の皮ですからうっすらと筋状の模様が入ります。ですから注文して届いた皮に「まっさらだと思ったら筋の模様が入っているじゃないか」などとおたわむれを言うてはいけません。むしろその模様が天然素材の良さなのです。なお、ここで紹介しているロゼッタ製作手順は私の独学による「鶴田方式」ですので皆さんもあれこれ工夫を凝らして自分なりの手法を開拓されてもよいでしょう。さあはじめましょう!

 

 

 

このパーチメント #454 は透明感のある明るい色合いで、薄いアイボリーカラー。じつに美しい光沢と淡い模様を持っており、これは紙やほかの材料では決して代用できない素材です。写真のように図面とポンチ、ピンセット、接着剤、デザインナイフなどを用意します。こまかい作業なので手元を明るく照らすランプもしくは蛍光スタンドがあればチャンチャンコ、いや、ベストです。ロゼッタ中心に「クリスマスツリー」を作りたいのであれば虫ピンが必要です。

 

はじめに型紙を図面の輪郭よりやや大きめに切り、接着剤で数カ所のポイントを押さえるように皮へポツポツと貼り付けます。あとで剥がしますのでベッタリ接着してはいけません。ナイフでカットする作業で図面と皮がずれないようにするためです。オリジナルのセラスのパターンは3層の皮で積層されますが、今回は2層です。そうです、これでもかなり簡略化しているつもりなんですよ、皆さん。下の層から作業をはじめてその上にさらに皮をはり、カットしていくといったぐあいです。ちなみに皮の表はスベスベで、裏はわずかなざらつきがあります。

 

 

デザインナイフで模様に沿ってカットしていきます。机の上にカッティングマットがあったほうが作業がらくです。前もって皮の端部でポンチやカットの練習をしてから本番に挑むとよいでしょう。皮の固さやナイフの切り込み負荷を自分の指でしっかりとらえることが失敗を防ぎます。

 

 

リュートのロゼッタもたいへんですが、こちらは木目が無いぶん切りやすいです。但し、筋模様の箇所によっては皮の固さが若干異なることと、温湿度の影響を受けて皮の収縮があるので厄介です。長時間にわたって作業するためなるべく室内の温湿度は均一に保つようにしました。

 

ハート模様やいくつかの丸型の穴は革細工用のポンチを使って打ち抜きます。これは刃が厚いので「めくれ」を生じやすいのですが模様を組み上げたときに光の具合で美しく見えるように表から抜いたり、裏から抜いたりといった「めくれ」の使い分けを行っています。このレイヤーでは表から裏へ抜いています。前の写真のようにデザインナイフでのカットも同様で、切り抜いた断面部分は直線のカットであってもわずかながら皮の「めくれ」が生じています。この「めくれ」具合によって図面を皮の表に貼るか裏に貼るかを決めてから作業にはいるのです。染め物用のポンチなら刃が薄いのでめくれはありませんが、仕上がりは平坦な印象の孔をもつロゼッタとなります。

 

 

ポンチとナイフを使って表と裏から何回もひっくりかえして模様を刻んでいく作業です。1段を作るのに半日もかかってしまいました。

 

 

カットを終えた皮から図面を剥がします。丸刀のデザインナイフで丁寧に剥離します。

 

 

こうやって見るとわかると思いますがすべての模様を円周に沿って均等に切り込むにはちょっとした根気と慎重さが必要です。これでもまだまだ全体の作業の1/10程度ですよ.............。

 

 

2つの層を接着します。ウサギのニカワなどが使われますが骨のニカワも良いようです。最近は接着剤も優れたものが多数販売されていますのであれこれ買っては試してみました。カットしてから張り合わせるか、それとも上の層だけカットしてから下の層に接着するか......模様のサイズや皮の性質にもよります。事実、私も1段〜最上段まではそのつど接着とカットの手法を変えて製作しました。

 

 

緻密な模様を切り込むにはデザインナイフは不可欠です。刃の先端を刺す方向や深さを変えて丁寧に作業します。常に皮を左手でひっくりかえし、回転させながらカットしていきます。

 

 

2つの層を接着して図面をはがしているところです。ここでは図面が裏になっていることにお気づきでしょう。模様のパンチの丸孔のめくれが表に出るようにしたかったからです。皮の厚さは約 0.4mm ですがカット部分のめくれは確実にエッジの立体感に影響します。

 

 

この写真にロゼッタの図面が写っていますね。原紙から数枚のコピーをとってそれを切り抜いて皮に貼りながらの作業ですが、じつはコピー機自体で図面のゆがみをわずかながら生じることがあります。A4サイズの小さな図面ですが模様が緻密で、かつ広域に秩序だって配置されているので注意が必要です。15年間使い続けたADB マウスが 爺3愛Mac6100 の傍らでたたずんでおります........。

 

 

ポンチの作業ではカッティングマットよりも木製の板のほうがうまくいきます。多少堅い板を準備しておきましょう。

 

 

さきほどの2つの接着された層です。ポンチの孔に沿って円周の内側をデザインナイフで切り抜きます。接着剤が乾くと全体が反りますが気にせず作業を続けましょう。のちに全体を組み上げるときに反りの向きを考慮してやります。

 

 

これは3段目ですかな? ひたすらカットを続けます。

 

これは3段に使う上層です。夜中にぶっ続けで作業しているといつのまにか朝を迎えています。

 

 

実際に作業するのもたいへんですが、こうやって作業の合間に手を止めて写真を撮ったりホームページとして記事をまとめることも予想外に時間と手間がかかるものです。近年、こういった作業にようやく慣れてきましたが製作やリペアでノっているときに撮影で思考を中断するのは依然としてつらいものがあります。

 

 

こういった模様を刻むのは大好きです、楽しくて仕方がありません(笑)。

 

最底部の層(レイヤ)です。中央部にはクリスマスツリーを配置するのでアバウトなカットですが周囲の文様は非常に細いため、切断ギリギリまで切り込んでいかねばなりません。レイヤァ!と力ずくでカットすると隣のパターンに刃先が及びます。パンチも力づくでやると皮をゆがめてシワを作るおそれがあるので注意が必要です。

 

 

上下の層の切り込み途中の様子です。

 

 

あとはミニチュアクリスマスツリーです。ピンを使って天高く作られたものが一般的ですが、ピンを使わないスタイルもあったようですので、今回鶴田はどうしてもピンを使いたくなくて(やがて錆びるため)後者の方法で作りました。ですからツリーにしてはかなり低くなります。

 

 

さあ、ここまでで皿のパーツは用意できました。次はリング(冠状の壁)のパーツを作ります。

 


  バロックギター製作入門の目次に戻る


 (C) 2001 CRANE / TSULTRA info@crane.gr.jp 


 Back To CRANE Index Page