CRANEオリジナル・コンセプトモデル:Concept-7b (2012年5月10日完成)
(My original concept model : Not historical. )
クレーンのコンセプトシリーズでは珍しく、3本続けての同タイプです。今回もフランスのランベール(Lambert)をモチーフにした18世紀末から19世紀初頭をイメージしたスタイルに仕上がっています。19世紀には過去に作られたバロックギターの6単弦化といった改造がよく行われたのですが、短いネックや上付きのブリッジは何となくそういった時代の移り変わりのムードすらありますね。しかしまぁ、歴としたCRANEの21世紀ギターです。中身は独創的かつ先進的なのです。
【写真】
PIC 001 : ヘッドはおなじみフレンチ・バロックスタイル。ナットは象牙。
PIC 002 : フレットはガット(羊腸)が巻いてあります。三角ヒールの先端は黒檀キャップ。
PIC 003 : ビンディングもパーフリングも無いボディ 。形状の美しさがウリなのです。
PIC 004 : ブリッジとアラベスク 。ブリッジの弦穴は a と同じく弦穴2段による弦高調整。
PIC 005 : サイドはバーズアイメイプルの板目、バックは硬さの異なるメイプルが半分づつ。
PIC 006 : バー配置とブレイシングは以下のとおり。当工房CRANE独自のオリジナル配置。
● モデル a, b, c の比較
・Concept-7aは弦長630mm、c は632mm、これに対して今回の b の弦長は560mmです。なんと 7cm も短くなってます。
ボディサイズや形状は3本とも同じですが、今回の b はとりわけ細身に見えます。ブリッジ位置やネックのジョイント位置を調整してバランスを整えているのです。ここが腕の見せどころ。
12フレット位置もわずかに上昇し、フレットガットもf.9までではなく f.10まで、となっているのです。
ボディサイズやネック幅などを変更せずに、弦長を短くして美しく整然とまとめるということが、いかに難しいことか..... 楽器のデザインの難しさはここにあります。単純に小さくしても弾きにくい、弾きやすく変形するとカッコワルイ... 20世紀はそんな歴史の繰り返しでした。21世紀の楽器はどんな弦長であろうと、整ったフォルムで美しくなければ! ... そうありたいものです。
じつはConcept-7は当初から12フレット仕様なのです。... というのも、ネックを0.3度ぐらい前傾させてジョイントしているので、13フレット以上は弦高を下げすぎるとビリつきやすいのです。ボディ自体もたわみを加えて組んでいるのでなおさらです。つまり本来なら Concept7 は3本とも12フレットまでで充分。a とc は13フレット以上に黒檀フレットを貼ってみましたが、剥がしてしまったほうが弦高も下がり、弾きやすくなります。
今回は思いきって12フレット仕様。おかげで弦高も下がり、鳴り方も個人的には最も完成度が高いと感じています。a と c は一見しただけでは区別がつきませんが b はブリッジ形状や位置も変更しているために特徴的です。
●
仕様
・弦長560mm
・ブレイシング:CRANEオリジナルブレイシング
・ボディ:バーズアイメイプルサイド、ハードメイプルバック(Concept-7a と半分交換)。
・表面板:スプルース
・ネック・ヘッド・ヒール:バスウッド黒染+黒檀ヘッドプレート(Vジョイント) フランス18世紀スタイル
・指板:本黒檀
・フレット:羊腸つまりガットフレット(弦素材やテンション変更時のフレッチング修正が可能、古典調律もOK)
・ペグ:フリクション式 本黒檀
・ライニング:ライニングレス、ビンディングレス
・ブリッジ:CRANEオリジナルデザイン 黒染ペアウッド、弦穴2段による弦高多段調整可能、アラベスクは黒檀の薄板
・ナット:本象牙
・ヒールキャップ:本黒檀
・エンドピン:本黒檀
・塗装:オイル仕上げ及び一部セラック
・接着・組み立て:基本的にニカワ(ヨーロッパの兎の膠)で接着
・使用弦:ガット(羊腸)弦
・総重量:661g(弦含む) ちなみに a は634g、c は565gです
● Concept-7b の使用弦
L=560mm A=440Hz 総テンション25.8kg 平均テンション約4.3kg
e1 (1) ガット(羊腸)弦 0.56mm キルシュナー社 DL5056 4.4kg
b (2) ガット(羊腸)弦 0.76mm キルシュナー社 DL5076 4.6kg やや強い (DL5073なら4.2kg)
g (3) ガット(羊腸)弦 0.91mm キルシュナー社 DL5091 4.1kg
d (4) キルシュナー社 VNG5124 4.2 kg
A (5) キルシュナー社 VS5165廃盤 (または VNG5165) 4.3 kg
E (6)キルシュナー社 VS5220廃盤 (または VNG5220) 4.2 kg
● フレットガット太さ: f.1(1.0mm), f.2(1.0mm), f.3(1.0mm), f.4(0.95mm), f.5(0.9mm), f.6(0.8mm), f.7(0.8mm), f.8(0.8mm), f.9(0.8mm), f.10(0.75mm)
● フレットポジション:あらかじめ鉛筆で指板に薄く印してありますが、実際には弾きながら位置調整をするのがベスト。それがConcept-7シリーズの一番のウリです。自分の納得のいくまでコードやメロディを弾き、調(キー)の違う曲なども弾き比べ、響きの好みでフレット位置は決めて楽しんでください。なお、使用する弦の素材の違い(ナイロン、フロロカーボン、羊腸...)によってフレット位置は異なりますし、ナットの高さ、ガットフレットの太さ、ブリッジの弦留め位置による弦高、弦を抑える左指の強さ、などによってもフレット位置は変わってきます。
FULL SCALE => 560mm
Nut to Fret [mm]
1FRET: = 31.43 mm
2FRET: = 61.09 mm
3FRET: = 89.09 mm
4FRET: = 115.52 mm
5FRET: = 140.47 mm
6FRET: = 164.02 mm
7FRET: = 186.24 mm
8FRET: = 207.22 mm
9FRET: = 227.02 mm
10FRET: = 245.71 mm
11FRET: = 263.35 mm
12FRET: = 280 mm
● 所感
「私の製作した楽器」のコーナーで2010年に説明しているように、Concept7シリーズは5本ぐらい一度に作り始めたのです。
結局3本が完成しました。残りはどうしましょう?
製作過程の記録写真を物色していたら、2008年頃から試作みたいなものはすでにあって、2010年5月の展示会THGFでConcept-7aとConcept-7cを発表しています。今回の Concept-7b はといえば、完成がこの2012年5月なので2年以上かかっていることになります。でも、休み休み作っているので、実質1年半ぐらいなのかな? 去年は地震やらコウトウガイエンで入院したりで、展示会をやってないから「2011年に作った楽器はありません」みたいになっちゃいました。まぁ、実際にはこの楽器をコツコツ作ったり、他の楽器の修理などをやってはいましたけどね.... 。
展示会では去年と同じ楽器は出さない、というスタンスで続けていますが、それを自分に課すことで毎年新しいモデルを製作・発表するのだと考えているのです。個人製作家として、毎回異なる楽器を作るというのは冒険です。構造も材もデザインも全てゼロから作るようなものですから、毎年同じモデルを作るほうがやりやすいハズです。しかし、今回のようにベースが同じで弦長や音を変えていこうという試みも、それはそれで苦労続きでした。むしろ似ているところが多いからこそ苦労したのかもしれません。
それにしても、去年と今年はツラかった。来年はどうなるんでしょう?
備考:東京ハンドクラフトギターフェス(THGF)2012において、私のCRANEブースに展示しました。
by Makoto Tsuruta, TOKYO JAPAN.
記事:2012年5月29日