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鶴田自身のオリジナルデザインによる自作ウクレレの製作過程を御紹介しましょう。多少のコメントも書いておきますが写真だけでも充分楽しめるかと思います。2002年の夏は全音ウクレレキット(再入門)や他のギターを作りながらこのツインネックを平行して製作していたわけですが、こうやって振り返ってみると我ながらよくもまぁ忙しいなかでこんなめんどくさいコトをやったもんだなぁと感心する今日このごろです(笑)。
木材は今回非常にクオリティの高い希少なフレイム・ハワイアン・コアを使うため、なるべく素材の魅力を引き出すようにビンディングなどの余計なものを排除したのは正解だったようです。ツインネックにした理由はもともとソプラノの小柄なウクレレを作るのが目的であったのですが手元にストックされているその木材がちょっぴり大きかったから......(なんちゅう単純な動機)。そしてそれを決断させたのはVoboamの双子ギター(有名なツインネックのバロックギター)へのアコガレでありました。ジミー・ペイジもびっくりのツインネックギターはすでに1690年には
Alexandre Voboam(パリ/フランス)
によって作られていたんですなぁ....。
ハープギターやハープウクレレというと既存の例ではボディの低音側の表面板がびよ〜〜んと引っ張って延ばしたように延長されているタイプがありますがそれと同じモノを作ってもおもしろくないのです。で、私の場合はちっちゃい楽器は大好きですし、ユニークでCRANEらしい変な(をひをひ...)楽器にしようというわけで、ツインネック仕様にしようと決めた(シャレとる場合か)のですが、そのとたんに燃えるわけであります。レア物好きの私としては熱中しちゃいますよホントにこりは....。
ボディをやや小さくしたかわりに反響のための小部屋ともいうべき副胴部(福耳みたいな小さなボディ)を作って響かせようという狙いはそのままに、オマケで2本の弦を用意してツインネックとしてみました。従って小さなネック(第2ネック/サブのネック)にはフレットを打たず、開放状態で他の弦にまかせて共鳴するだけでいいのです。そういう意味から見るとツインネックではありますが一部のリラ・ギターやハープ・ギターに近い発想です。もちろん曲によっては開放弦として弾弦してもおもしろい使い方ができるでしょう。小さなネックを左にV字型に傾けたのはメインのネックで演奏中にストロークの邪魔にならないようにとの配慮です。
さあ、前置きはこれくらいにしてさっそく製作過程の写真をお楽しみください.........。
● 解説その1
まずは木材の準備ですが、私の手元にストックしてあるコア材のなかから特別な1セットを使うことにしました(気合いが入っています)。ヒストリカルなウクレレは一般的には表面板も裏板も1ピース(一枚板)でありまして、ギターのようにブックマッチ(2枚を接(は)ぎ合わせる)をしないのが一般的です。しかしAAAAグレードのハワイアン・コアしかもフレイムとなるとそうカンタンに幅広の材は入手できません(あってもスゴク高価)。まあ、今回は歴史的コピーモデルを作るわけでもありませんから堂々とブックマッチします。鶴田がふんぞりかえって高らかに今回の材料を掲げる様子を御想像ください...。
厚さは約5mm程度ですのでこれを1.5mm程度まで削ります。今回はベルトサンダーを使いました。フレイムの材はメイプルもコアもウォールナットもそうですが、カンナをかけると杢に刃がつかえて板を欠損する恐れがあるので注意が必要なんです。
● 解説その2
型紙のサイズでなんとかとれました。ギリギリです。いつものことですが、やたらムチャしてます。次にモールドを作ります過去に製作した19世紀ギターの切り抜いた集成材を使います。ウクレレは小さいのでモールド作りはらくです。
● 解説その3
同時にヘッドとネックとヒールを作ります。ヘッドプレートは本黒檀(縞黒檀は使っていません)の0.5mm を使います。指板は2mm厚の本黒檀。ネックはバスウッドといい、シナの木や菩提樹に近い性質でアメリカリンデンのたぐいです。
● 解説その4
側面板の曲げ作業(ベンディング)ですが、ボディが深いことと、フレイムコアであることから堅くて曲げにくく難航......。しかもここまで小さくなるとRも当然小さいわけでして、予想を上回る困難な作業となりました。ベンディングの作業写真を撮っている余裕など無いのだ......。おかげで元の図面のシェイプを一部変更したぐらいです、現状優先!!(笑).....これもまた一品モノのカスタムメイドに許される特権!? 小さなボディの側面板については曲げながら削り、0.5mm 以下の厚さの部分もあります。
● 解説その5
ボディの組み立て工程です。リブ(側面板)のつなぎ目をきちんと処理しないと格好悪くて安っぽくなるので慎重に作業します。今回は希少な木材だけにやりなおしや部品交換が効かないので真剣です。内部のライニングは必要ないぐらいですし音の響きを考えるとなんとなく不要とも思えますが強度確保のために最小限で付けることにしました。
● 解説その6
さて表面板のサウンドホールをあける作業です。今回はボディのやや上寄りに配置し、しかも一般のサウンドホールの直径よりも大きめで設計しました。ルータは例によってドレメルで、ウエーバリー社の治具と併用しています。もちろん直径縮小については改造済み。ルータのおかげでコアのような堅い材料にも短時間で正確にせん孔できるのですアリガタイことです。あとはささやかですがシンプルなロゼッタを付けることにします。
● 解説その7
何がいちばんタイヘンかって? そりゃ〜〜、ブロックですよ。フクザツなカタチであるばかりでなくボディの振動を合理的に受け止めねばなりません。写真では大きめに見えると思いますが質量がものすごく軽くて木目の詰まったスプルースを使い、カットして表面板との接着面積も制限してあります。なんと、ブロックは3個もついており、これでは箱が小さくて困るんじゃないかと思われるかもしれませんが、これもボディの深さと全容積、そして音域を考えると鶴田的には妥当なのです。バーにしても同様、あれこれ悩んだ末、ようやく落ち着いたパターンなのです。本邦初公開の内部構造! このコアわっぱをとくと御覧あれ!
● 解説その8
はい! コレです、コレ! この写真を掲載しないわけにはいきませぬ。鶴田はガリバー状態と呼んでいます。小さくてもガッチリとクランプをかけます。同時に反響小部屋の寸法を若干補正するためにハタガネをかけます(この締め付けトルクがじつに微妙なんだなぁ...)。
● 解説その9
木材寸法のギリギリで製作しているので箱にしたあとも削除する部分は少ない....エコですな。ビンディングを付けないかわりに接着面はきっちり隙間無く接着されていなければなりません。難航しましたがようやく箱になりました(ホントに苦労した.......一時は箱にならないかと思ったぐらい)。
● 解説その10
メインのネックはバスウッドとホウ材です。ほう〜〜〜〜。どちらも軽くて丈夫で加工しやすいのです。
ところでウクレレごときに V
ジョイントを使うこともないだろうって? いえいえ、鶴田のカスタムメイドはみっちりやりまっせ〜〜! 要らんコトや余計なコトをやりたがる私にしてはコレでもまだまだ簡素な仕様です(^_^)。
こちらはサブのネックです。ちっちゃくて作りづらい.....。
● 解説その11
サブのネックのヘッドに角度を持たせなかったのにはちゃんと理由があるんです。このページの最後に説明しますね........。2本のネックを御覧ください。
● 解説その12
糸鋸とルーターを使ってブリッジを作ります。今回はシャムガキを使います。黒檀よりも軽く加工しやすい、しかも独特の模様に味があるのです。調子に乗ってピラミッドタイプにしちゃいます。やり放題でノリに乗っている私です....。
● 解説その13
サブのネックはひねりを加えてセットせねばらなず、しかも側面板はわずかにふくらみをもっているため曲面を削ってピッタンコにヒールを合わせるのは非常に難しいのであります。平ノミと丸ノミである程度まで切削を行ったのち、御覧のようにスクレーパで調整して曲面同志をフィットさせるのです。何度もヒールをボディにあてがって隙間のないようにかみ合うまで何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も繰り返し削ります(ハァ、ハァ、ハァ、ハァ........)。
● 解説その14
メインのネックは今回ちょっと変わった組み方を採用しました。従来のようなヒール底面を彫ってボディに合わせる方法ではなくボディ側のブロックを彫り込んで平面にしてデルタ平面同志の接着としたのです。ブロックを大きめにした理由のひとつでもあります。このあたりもキッチリ削って合わせないと隙間ができるのでひたすら根気強く作業します。
じつは、このようにネックとヒール部分がストレートにブロックへくい込むような構造は鶴田の新アイディアではなく、フランスの Dulac vers がギターで1770年頃すでに採用しています。少なくとも18世紀以前から行われていたワケです(製作時点では自分の思い付きだったのですがあとから調べてその事実がわかったのであります)。
● 解説その15
ビシっと作りましょう、ビシっと! 丸いところは丸く、平たいトコロは平たく、湾曲したトコロは美しくしなやかに........。私はほとんどの切削作業においてこの12mm幅の平ノミがメインです。それにしても良く切れるノミです(ほとんど研いでないのに......不思議.......笑)。
● 解説その16
ネックの染め作業ののちボディと合体! もちろんココはニカワを使います。
● 解説その17
よっぽどモダンな T型断面のフレットを打ってやろうかと思ったのですが、当初のコンセプト(一般的じゃない変わったヤツを作る)から逸脱し、フツーのウクレレになっちゃうのを恐れてグッとガマン? であります。バーフレットでまいります。ちなみにナットとサドルはすべて象牙を使います(端材です)。
● 解説その18
ブラス(真鍮)は古くから弦楽器のフレットに用いられてきましたが今回は 1.2mm の角棒材を切り出して使用します。私の場合は他にもいろんな種類の楽器を作りますし、古い時代の楽器の修理にも使うので 1.5mm や 0.8mm などのブラス棒材は常にストックしてあります。
長さをキッチリ測って1本づつ切断し、両端のカドの部分をごらんのようにサンドペーパーで丸めておきます。
● 解説その19
今回はフレットの接着も変わった方法を試すことにしました。バーフレットですが溝を一切彫らずに指板にじかづけします。つまり接着剤だけが頼りです。接着するとこうなります、これをサンディングして高さ調整するわけです。フレットの溝を掘らずに直付けする意味は?........例えば古典調律でフレッチングしなおしてオーナーがミーントーンで弾きたいとかいった場合に(笑)............まあ、これがうまくいけば、いずれギターにも採用してみようかと.....。
● 解説その20
接着剤は6回ぐらい塗布しては整え...を繰り返しています。なぜなら、たんにフレットの底面だけを接着すると容易に剥がれやすくなるために一工夫したというワケです。あとはフレット表面や両端部を研磨してなめらかに仕上げます。このへんを丁寧に作業することでグンと使いやすく弾きやすくなると私は信じています。
このあとブリッジをニカワで接着します。
● 解説その21
塗装です。ここでも一般的な方法はとらずサンシッケンドリンシードオイルを使います。軽くサンディングして表面を整え塗布していきます。みるまに鮮やかなフレイム(トラ目)が浮き出てきます、ああ、自分でやってて感動....。木材の美しさを実感して、しばしボンヤリながめてしまいます.........。
● 解説その22
弦を張り、ナットとサドルの調整を済ませれば......完成!
19世紀ハープギターと共に記念撮影! このハープギターはウイーンもしくはロシアンの19世紀のツインネックギターで13弦仕様です。メインネックの6弦は一般のギター調弦と同じですがサブネックの7弦は開放として鳴らし、フレットの無いネックを持っています。1800年代後期〜20世紀初頭にかけて東ヨーロッパ〜ロシアで盛んに製作され、11弦や15弦の仕様もありました。この楽器はほぼ同モデルの修理を依頼されたために復元資料用として別途入手したもの。こうやって並べると私が今回作ったウクレレは恐ろしく小さいですなぁ.....。
弦はひとまずフロロカーボンを張ってみたのですがウクレレはナイロン弦のやや太めのゲージのほうが鳴るようです(ウクレレってそういう傾向のようです)。弦高をもう少し高めにしてナイロン弦を張ると一般ウケするソプラノの音になるかもしれません。ガット弦も模索中ですが楽器のスタイルがモダンなイメージですのでちょっと迷うところ.....。コードストロークよりも旋律主体のソロで演奏することを想定しているのでフロロカーボンも繊細で悪くないと思います。弦選びもまた楽しみのひとつ.......。
● スペックの御紹介
調弦はメインネック4本の弦は一般のソプラノウクレレと全く同じです。マーチンのソプラノウクレレが約320mmの弦長だったと思いますのでコレとほぼ同様。ここでは4弦をローGにしてあります。小さなボディの2本は D と A に調弦しますが曲や好みで合わせてもよいでしょう。5弦と6弦はプロアルテの6弦を使っていますが細い弦に変えて高音弦に共鳴させるといった使い方もできます。
弦長:320mm(メインネック)/サブネックは可変弦長
表面板:フレイム・ハワイアン・コア
側面板・裏板:フレイム・ハワイアン・コア
ブリッジ:シャムガキ(ピラミッドスタイル)
サドル:象牙
ナット:象牙
指板:本黒檀
ヘッドプレート:本黒檀
ネック:バスウッド及びホウ(ヘマチンで黒色に染色)
ネックジョイント方式:Vジョイント(大)、削り出し(小)
ヒール構成:アイスクリームコーンスタイル(大及び小)
フレット:ブラス・ムク棒のバースタイルで特殊貼付のうえ研磨仕上げ
塗装:サン・シックンド・リンシード・オイル仕上げ
さて、.........サブのネックの弦長はじつは可変式であり、ダミーの低いナット(弦に触れず支持しない)と交換することで拡張できます。ヘッドに角度を持たせなかった理由はここにあります。上記ハープギターの構造からヒントを得て試してみたものです。比較の写真を御覧あれ。
● ニュー・アイディア!?
今回は製作中にどんどん新たなアイディアが沸いてきました、困ったもんです(笑)。こういった自分の自由な発想で楽器が作れるというのも製作の大きな醍醐味なのです。ああ楽しい! 楽しい!! クセになりそう.....。
で、.....今回は「ちょっと変わった楽器」を考案しよう...などと思ってこんなウクレレを作ってみたのですがこういったスタイルのツインネックのウクレレ自体は「鶴田のニュー・アイディア!?」と思いつつも、ちょっと違うのかもしれません。というのも.......
ダブルネックのギターはVoboamなどが、アーチトップギターはメルシャンが、X ブレイシングはランドルフなどが......といったように、奇抜なアイディアは昔からたくさん試されていたのです。そういえば二重表面板のウクレレも、かのルシアン・ジェラ(フランス)が製作していますし、8弦のウクレレ「タロパッチ」はMartin以前にハワイのマヌエル・ヌネスが製作しています。ちょ〜〜小型のギターなんてのもだいぶ昔からありまして、テルツギターはもちろん、弦長310mm前後のバンビーノ・ギターのようなものも多く現存します(フランスの博物館などにたくさん残っている)。 今回のヒールとボディの組み方にしてもしかり.........。ということは「じかづけフレット」に関してもそうかな? そういえば奏法にしてもギターの左手親指で弦を押さえるなんてのは200年前のイタリアの奏者がはじめていたようですし....構造に限らないカモ。
我々が「新理論を発明した!」とか、「まったく新しいアイディアを思いついたぞ!」.....な〜〜〜んていっても、じつは200年前あるいは300年以上前にそれははすでに存在していたものなんでしょうね(笑)。文献に残っていなくともたぶんいろんなコトを試した人たちはたくさんいたのだと思います。昔の人は発想が貧困...なんてことは絶対無いですよ。私のニュー・アイディアもあなたのニュー・アイディアもそのほとんどは何世紀も前から誰かがすでに試されていた可能性は大きいのであります。300年前にツインネックの楽器を作った人と今回私がいろんなアイディアを思いついたワクワク感は同じだったんでしょうか? 違いますかね? いや、きっと同じハズです! きっと激しくワクワクして作ったに違いありません。
ああ! 17世紀のヘンテコな製作家に乾杯!
のちにアメリカで出版されたウクレレ専門誌にこの楽器が掲載されました。