- My original concept model -
Made by Makoto Tsuruta in 2004.
【写真】
PIC 001 : 全体像を斜めから
PIC 002 : 裏はボウルバックというよりヒョウタンバックですな
● CRANE コンセプトモデル2004
さて....... 2004年の「Concept-3」を御紹介しましょう。毎年へんてこなコンセプトを真剣にとりくんでいますが、今回はウクレレです。小型楽器という意味では Concept-1 や Concept-2 にも通じるところがあります。そもそもヒョウタンは打楽器などでは一般的に知られていましたし、アメリカのバンジョーにも例があります。歴史的にみると西アジア〜アラブにかけてヒョウタンを用いた似通った弦楽器も見られるようです。ただ、基本的に丸い実のカタチが多いようで、日本のくびれのあるヒョウタンはモンゴルから中国界隈でみかけます(西洋にもあるんでしょうかね?)。リュートはボウル状にリブを組んで作られることはもう皆さん御存知と思いますがサウンドの魅力のみならず強度的にみても優れた構造といえます。押しつぶそうとしても多少のことではビクともしません。ウソだと思ったら御自分の楽器をふんづけてみてください。20世紀や21世紀の現在でもウードの仲間や一部のギターにクビレをもつボウル・ボディの製作例があります。う〜〜ん、やはりこういった形状のボディは気になる人は気になるってコトでしょうね..... 。私の楽器データベースにはいくつもこういったヘンテコ楽器を見つけることができますが、百年以上も昔からヒョウタン型のボディの弦楽器はいくつも作られていました。
では、ウクレレはどうか? 以前から探していたのですが、どこにも見かけず、そのかわりにココナツの実を使った小ぶりのウクレレはいくつか手にする機会がありました。ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜......... それならいっちょ作りましょう! ということで今回は安易に決定。発作的に思いついたらすぐ実行。まだ体験しないクビレ・ヒョウタン・サウンドを夢見て Concept-3 は発作的に誕生することになったのです.......。
● おもな仕様
完成したら総重量が238g しかありません。もうこれは楽器の重さではないですね (^_^)
・全長:約573mm
・弦長:347mm
・総重量:238g (ペグ・ブリッジ・ピン・弦含む)
・糸巻:木ペグ(ボックスウッド:CRANEオリジナルモデル)
・使用弦:ナイロンとカーボン、そしてギター用の巻弦などを混在
・表面板:ジャーマンスプルース(1983年採取)
・ボディ:とある農家に干してあったヒョウタン
・ヘッドプレート:黒檀
・ネック/ヘッド:バスウッド(黒染め)
・ネックジョイント:12フレット位置
・フレット:全17本 ニッケル合金T型(細身)
・指板:ローズウッド・ポジション・マーク付
・ブリッジ:黒檀(黒檀マウスターシェ)
・サドル:スネイクウッド
・ナット:スネイクウッド
・塗装:オイル仕上げ
・ヒールカバー:パーチメント
前編 ● 製作の流れ
まずは何よりボディ材料となるヒョウタンを入手せねばなりません。私は個人的に入手しましたが値段はあって無いようなあるようなないような(どっちじゃ?)。どこぞの農家の物置などにぶらさがっていることもあるでしょう。インターネット上を探すも良し、親戚の農家に尋ねてみるもよし。ちなみに私の実家鹿児島の母に現在ヒョウタンを栽培してもらっていますので、じきに収穫できる予定です。
今回の楽器ほどボディ製作時間の短いものはないでしょう。御覧のようにノコでサクサク真っ二つ。3分もあれば完了、簡単、簡単........
......... と思ったらオオマチガイ。ボディの片方が深くなるように切ります。じつはこのヒョウタンは比較的サイズの小さなものでありまして、そのため容積をかせぐために片方を犠牲にしたのです。皆さん、ひょうたんの中身を見たことありますか? 本邦初公開! ヒョウタンの内部構造であります。スジが何本も縦に並んでいて思ったより肉厚です。
非常に良く乾いており、たたくとコン!コン!と軽い音がします。 肉厚とはいえガサガサした内部を多少はならしておくためにスクレーパをかけました。案外もろい内部です。まぁ、無理に内部を削ることもありません、ほとんど手をかけなくともカットしたままで使えます...... 。注意すべきは作業中にボディを強くつかまないことです。表面板を付けていないボディはたわみに弱いのでグッと力任せにつかむと亀裂を生じる恐れがあります。
このあと、ネックとボディを接続するためのブロックを作ります.............. が、ここでお便りが届きましたので皆さんに御紹介しましょう。
じつは、私が Concept-3 の写真を公開したのち、製作記事をのんびり書いているあいだに当サイトの訪問者である御婦人が1本完成させてしまったとのこと(笑)。みなさん、とくと御覧あれ!
どうです? Yuko さんの傑作です。私の楽器と比べてみても双子のようにソックリでしょう? ボディはナチュラルな仕上げで、これもまたいい雰囲気です。ペグも手作り。ブリッジも見たところよくできていますね。
ほぉ〜〜〜〜〜ら、皆さんも作りたくなったでしょ? でしょ? でしょ?
というわけで前編はひとまずここまで。後編も御期待あれ...... 。
後編アラタメ「中編」
画像を編集していたら以外と盛りだくさんになるような気がしたので完結せずに今回は「中編」として次回へ続けましょう。う〜〜ん、我ながらうまいなぁ〜〜、こういったごまかしかた、おっと、臨機応変的対処。
さて、問題のブロックです。ヒョウタンウクレレの最大の難関はおそらくネックとボディのジョイント部分でしょう。方法はいくつか考えられますが今回はリュートのような丸っこいブロックをこさえることにします。糸鋸盤のテーブルを写真のように斜めにセットして切り出します。ブロック材はなんでもかまいませんがここではホウ材を使っています............
はい、みなさん御起立のうえ一緒に御唱和ください、
ホ〜〜〜〜ゥ......
んでもってヒョウタンの内部とあてがいつつ、微妙なカーブを削ってフィットさせるのです。この作業ではひょうたんをギュッと強くつかむと割れる恐れがあるので気を付けて作業しましょう。じつは白状しますと、ブロックの厚みが足りなくて積層しました(笑)。厚いホウ材が手元になかったのさ...... ホ〜〜〜〜ゥ (もういいって)。
お次はネック側です。ブロックとネックの接続方法もいくつか考えられますが、まぁ、CRANE ですから18〜19世紀風にいきましょう(あっさり)。となるとヘッドとネックもそれにならえば迷うことなく作業もはかどります。
ネックがおおむね成形できたら指板と接着します。
ネックとヘッドを接着してからでもかまいませんがペグ穴を空けておきましょうか。私はこの作業はいつもハンドドリル。電動のボール盤はトンとゴブサタしています...... 考えてみると近年はなんでも手作業でやっていることに気づきます。
はい、いつものように接着ですね。このへんは慣れてくるとあっさり作業を終えます。このあとネックの塗装で染めるべきか迷いますが今回は黒染めでいきます。赤いニスもオシャレでいいですね。
ネックの染め作業の合間にボディの染めと塗装です。じつは......... いつぞやの Concept-2 の配合セラックをとってあったのだ! ワハハハハ! 赤茶色に配合したセラックでポンポンとタタキながら塗ります。もともとヒョウタンの表面はツルツルではなくこまかい起伏でデコボコなんですね。ここでは染めるのが主な目的なのであとからオーバーコート用に塗料を重ねます。
それで...... いろんな方から当クレーンにお問い合わせのメールがあったのが「内部の処理をどうするか?」 という点です。そのままでもかまわないと思いますが私はセラックで塗装しました。ヒョウタンの内壁は以外ともろく、ウレタンのような柔らかさです。のちに気候の変化で劣化することも考えての判断です。
さぁ、染め作業もそこそこに表面板を作ってボディを完成させましょう。表面板は1983年のジャーマンスプルース。じつは端材を使っています。そのため木取りはギリギリで木目を斜めに設定します....... じつは、これはこれで個人的には気に入ってます。バーの配置はどうするかって? ここでは木目に直交する作法を適用します。
よし! ボディとネックは完成だ。
気になるジョイント部分をここに明らかに示しておきましょう。ボウルバックのリュートと同じですね。指板が表面板にピッタリ接着するようにクランプをかけて固定し、接着剤が乾くのを待ちます。ちなみにネックや指板はニカワを使って接着しています。写真に写っている三日月型のモノは何か? それは次回をお楽しみに......
............ なんてコトを言ってるうちに Yuko さんは2本目を完成させてしまいました(次の写真)。ひょうたん楽器二作目は超ミニ・ウクレレです。ちゃんと弾けるんですよ。それにしてもちっちゃいですねぇ〜〜〜、ボディはソフトボールぐらいの大きさです。ボディのくびれがあまりにも細いので強度確保のために指板を延長し、サウンドホールも両脇に設定したとのことです。なんて素晴らしいアイディアでしょう! ウチの工房のアシスタントに雇いたいぐらいです。既存のスタイルにとらわれない、こういったアイディアこそがコンセプトモデルにはふさわしいのです。私も見習わねばなりません(正座)。
後編
さて.......... ようやく最終回にこぎつけました。ブリッジ、糸巻き、塗装、ヒール部分、そして最終調整の完成までを紹介しましょう。
今回のブリッジはマグロ(:写真のような真っ黒な黒檀の木材業界用語)です。そういえば別のコーナーで去年の暮れに人間ドックに入った話をしましたが、そのとき脳の血管が詰まり気味との恐るべき指摘を受けまして、あやうく指摘素敵..... 、死的素敵..... 、おっと、「私的素敵ペイ」のコーナーに脳の血管写真を掲載しようかとも考えたのですがあまりにもコワイのでひかえておりました。その後、あれこれ調べてみたところ年齢がある程度増すと多くの人に動脈硬化的な症状が出てくるものだそうです。ついでに治療や予防についても調べてみましたが、以外にも毎日お酒を少量飲むのが良いらしいです(そういえば朝日新聞の第一面にも出てましたね)。まったく飲まない人より脳梗塞の死亡率が低いとか.......
ウッシッシッシッ....... 勝った!(←なにが?)
天は我に味方した....... ビール飲むのならまかせなさい。存分に養生しますぞ! ワハハハハハハ!
あと、血液サラサラにはニンニク、タマネギ、納豆..... などが効果があるほか、ウナギなどの魚類は大きく推奨されているようです。いちばん効果があるのが「大トロ」とのこと。......... ん〜〜〜〜〜、なんだか高い魚ばっかりですねぇ.......。というわけでマグロといってもここでは角材で、食べても血液サラサラ効果には役立たず..... などとブツブツ言いながら説明を続けるわけであります...........。
ちいさな角材にルータで溝を彫ります。過去にも紹介しているように作業を安全確実に行うために台座となる板と固定用両面テープを準備します。まさしく「マナ板の上のマグロ」ですな。
はい! いつものドレメルのルータです。ハイパワーとはいえ、一気に彫り込んではイケマセン。1mm程度の浅い溝を数回に分けて彫り、そのつど深さと溝の状態(直進性など)をチェックしながら作業します。あとでサドルがこの溝にキッチリ納まるように彫らねばなりません。ちなみにルータをマグロと並行に移動させるには写真にあるようにスチールの角材を両面テープで台座に貼り付けておき、それにルータのジグを沿わせます
あとは弦を挟んでおくための4本のスリットをノコで切ります。よく御覧になるとわかりますが、弦の結び目が固定されやすいようにスリットの裏にも溝を彫って(エッジを落として)あります。
今のうちに表面板をボディにフィットさせておきましょう。飲み、おっと、ノミがボウルのボディを削らないように、わずかにボデイよりも大きめにはみ出してもかまいません。こういう楽器では神経質にムリヤリピッタリ合わせようとしないほうが結果的にうまくいきます。
作業中にわずかな傷を付けてしまう部分もあります。ここではそのレタッチを行っているところです。
では弦長を確認、346mm です。
ブリッジ位置を仮留めしてサドルの寸法を調整しておきます。まぁ、この作業はあとからでもかまいませんがルータの使える行程で一度にやっちゃいます....。
ニカワを使ってブリッジを接着します。やはりブリッジ接着はニカワです。なんだかブリッジ周りが寂しいので18世紀〜19世紀風の唐草模様を入れます。これは当サイトではおなじみの黒檀薄板を糸鋸でセッセと切り出したもの。厚さは約1mmなので厚い部類ですが、なかなかオシャレでしょう? じつはコレ、G.B.Fabricatore 1806年ギターのアラベスクの一部なんです。
今度は糸巻きです。今回使用する糸巻きは私のオリジナルデザインによる汎用ペグで特注品。そう、インド洋にマグロを追ってようやく捕らえたペグメーカー「Radharam Sohanlal」だ! 私がこのクレーンホームページで紹介したら、あっ、というまに日本をはじめとする世界の製作家が群がってきたとRadharam氏がメールをくれました。その後、古楽器系の問い合わせも多いのでカタログモドキを作りたいとの相談...... う〜〜ん、でもねぇ、時代や製作家によってペグのスタイルも様々なのよ......... と、いうことで説明してあげて、数十種類を教えてあげたのですが、そのうちいくつかはカタログモドキに現在掲載しているようです。もっと体系的にサンプルもたくさん作って本格的にやればいいのにねぇ..... 。
要注意!(記事追加:2010年8月)
2010年、この「Radharam Sohanlal」に注文して代金を払ったにもかかわらず、品物が届きません。3回ほど催促メールを出しましたが、それに関する返事は一切ありません。にもかかわらず、ペグのカタログがメールで送られてきました。どうやら会社が危うくなり、世界中にカタログを送りつけて最後の注文をとろうということらしいです。詐欺ですな。今までペグは何回か購入して品質もまずまずで、貴重なお店だったのに信用を裏切られ、残念です。注文してはいけません。
ともあれ、クレーンのオリジナルデザインによる特注ペグは使うときにテーパを合わせるので、写真のようにペグリーマとペグシェーパで調整します。ちなみにテーパは 1/30 です。
ヘッドのペグ穴とペグをフィットさせながら調整中の図。使い始めてしばらくすると木材の痩せと初期摩耗によってペグは奥に入っていきます。ですから、しばらく弾いて安定した時期にピッタリの位置に合わせます。私はギターでも他の楽器でもそうしています。
サドルはスネイクウッド。クレーンのコンセプトシリーズでは定番のマテリアルです。蛇のくせに硬くてまっすぐです(笑)。
ネック 〜 ヘッド 〜 糸巻き はこんなカンジ。ペグの色は黒か褐色系に染めてもおもしろそうです。ここまできたら弦を貼ってペグの具合をみながらサドルを削って弦高調整します。
そうそう、宗兄弟........ (←久しぶり)。ヒールの処理を紹介していませんでしたね。もったいぶったわりにはじつに単純で、写真のように段差をカバーするだけですよ。パーチメント(革)を黒く染めたものを三日月型に切って貼ります。
ヒョウタンの首の部分はネックとピッタリ合わせるには形状に個体差があるので、もし具合の良いヒョウタンを見つければこのようなカバーは不要です。しかしまぁ、ピッタリ合うヒョウタンもそう易々とは見つからないかもしれません、ムキにならずザックリいきましょう........... 。
わかりやすいように写真を撮影してみました。わずかなRの違いはサンドペーパで微調整しますかね。
塗装の最終段階。セラックと顔料で染めたボディにオーバーコートする意味で Tru-Oil を使います。そのまま表面板やヘッドにもオイル塗装です。ヒョウタンはまっぷたつで作れば楽器は2つ完成しますが、今回は容積をかせぐためにやむなく分割比率を偏らせてあります。従って「フタ」ができるワケですね。フタは試し塗りにも使えます.....
注意:2011年頃からTru-oilの成分が変更されています。今までサンシックンドリンシードオイルと同じ香りがしていたのですが、2012年4月にアメリカから購入した新品は色も薄い赤っぽい色になり、臭いは石油系のヤな臭いになってしまいました。臭い!! 成分が変わったのか、精製法が変わったのか? 参考までに。(2012年6月補足)
ヒョウタン表面はツルツル光沢球面ではないのです。植物ならではのこまかな凹凸が味なのです。
はい、完成!! なかなかキュートでしょ? でしょ? でしょ?
ボデイ周囲にハーフ・ビンディングを付けようかとも思いましたがむしろこのほうが素朴でよろしいかもしれません。ストラップピンもさんざん迷って、まだ付けていませんが、ボディに穴を空けると、ヒョウタンの場合は壊れそうなので方法を模索中です。ちなみに寄稿されたYukoさんちのワンちゃんは「もきち」といいます、「モキチのキモチ」........ 知ってる人は知ってる。
ほ〜〜ら、やっぱりどこから見てもヒョウタンでしょう?
ひょっこりひょうたん島が漂流していくようにも見えます......... 。
苦労しつつ楽しみつつようやく完成しましたよ............ なんてコトを言ってるうちにまたまた Yuko さんは3本目と4本目を完成!次の写真を御覧あれ。
ヒョウタン・ウクレレの3・4号機は、ぬわんと肉球装飾付き! 弦長の異なる2つの双子モキチUke ですな。このブリッジ両脇の肉球装飾はちゃんと黒檀の薄板を彫刻刀で削って作ったとのことですよ。なんてかわいらしいんでしょう。しかも1個のヒョウタンを真っ二つにして2本の楽器を製作されているのでピッタリ・パッカリ合致します。これはYukoさんの立派なオリジナル・コンセプト・モデルですね。
【追加情報】Yuko さんからの最新情報によりますと、Yuko1号ヒョウタンウクレレにトラブル発生とのこと。どうやらくびれ部分が弱かったようで腹筋運動のごとくボディがゆがんで弦高が高くなったようです。ちなみに他の2号機〜4号機は問題なく弾いているとのこと。表面板のバーや2号機のような工夫が必要ですね。みなさんも製作時の参考にしてください。
さて、そういうわけで Concept-3 ヒョウタン・ウクレレの記事をしめくくります。この楽器は秋に名古屋の刈谷市で開催される「アコースティック・ファン・フェアー」に出展予定です。
by Makoto Tsuruta, TOKYO JAPAN.