● セラックの製法
■ ラックの栽培
第二次世界大戦後は石油化学の進歩でセラックのような天然樹脂はほとんど使われなくなっていましたが、近年になって合成樹脂の限界とセラックの優れた特性が見直され、亜熱帯地域(主にインドやタイ、そして中国、インドネシア、ミャンマー、ヴェトナムなど)での農業生産物としてプランテーション化されつつあります。(株)岐阜セラツク製造所さんはまさにその実験と研究を行っておられるわけです。以下の写真は、タイ国王室林野局のクランドング農場で(株)岐阜セラツク製造所によるRETROFプロジェクト試験地であり、1995年のFAO(国連機関)視察の模様です。
● 写真:収穫したスティックラック。なかには害虫の被害を受けている部分もあるようです。
● 写真:意外と大きな樹なのです。
■ タイ国での栽培の例
母樹となるのは豆科植物や桑科植物で、ラック虫は寄生して樹脂を分泌します。母樹の一つアメリカネムノキの場合だと樹齢5年以上でラックの栽培が可能となります。まず栽培をはじめるには11月ごろ「種付け」といって、すでにラック虫の寄生している枝をワラで包み、母樹に吊してやります。
● 写真:ラックの種付け作業の準備のようすです。稲ワラで種となるスティックラックを包んでいるところ。これを母樹に吊して「種付け」を行います。FAO視察時撮影。
● 写真:これはナイロンネットを使った種付け法。従来の稲ワラを使う方法に比べて害虫の被害を受けにくいとのこと。
すると孵化(ふか)したラック虫は母樹にはい出してきて樹液を吸い、樹脂物質を分泌しながら2〜3ヶ月間に数回脱皮して成虫になります。オスは交尾後に死んでしまいますがメスは成長を続けて多量の樹脂を分泌し、産卵して死にます。つまりラック虫の一生は6ヶ月であるわけですが、タイ国では5月ごろになると第二世代の幼虫が成長し同様に樹脂を分泌するので、それからさらに数カ月後の10月頃が収穫期になるというわけです。樹脂層の付着した枝は農民が伐採して収穫します(これが棒状なので、スティックラックと呼ばれます)。1本のアメリカネムノキから50kg〜70kgのスティックラックが収穫できます。なお、母樹の葉はたい肥となり、その幹は木炭のほか家具や手工芸品にも利用されます。
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セラック栽培でしばしば、「木の枝ごと切るということで、森林破壊では無いか」と質問される方が見えます。しかし、セラック栽培は、木を根本から切るのではなく、木の枝の中でもラックカイガラムシが付いている若い枝のみ切りますので、森林破壊にはなりません。また、毎年たいした労力もなく、農民の現金収入となります。タイ国では、森林保護をすすめる為にも、ラック栽培を推奨しています。
■ スティックラックから製品まで
収穫されたスティックラックはまずおおまかに粉砕します。そして選別してこまかく粉砕・水洗いし、乾燥させたものをシ−ドラック(Seedとは種の意味)と呼んでいます。
● 写真:シードラックの天日乾燥(現地)のようすです。
シ−ドラックはおもに次のような製法で精製されます。 精製ののち、各種の用途に応じた加工の過程を経て製品となるわけです。
【精製法】
専門的になり過ぎるので詳細は省きますが、以下の3つの方法があります。
1.熱溶融法
2.ソ−ダ法
3.溶剤抽出法
■ セラックの種類
セラックと一口に言っても、1.セラック 2.脱色セラック 3.漂白セラック(白ラック)と、色・精製法に依って3種類に大別出来ます。
注意:セラックはラック虫の分泌物ですが、ゴマラッカ(GOMMA LACCA)は別の樹脂です(ゴマラカリマオは、虫の分泌物ではありません)。混同しないでください。ゴマラカリマオは、南米(ブラジル)で採取されており、アルコ−ル可溶性の天然樹脂です。一方、セラックは南米では採取されません(どちらもアルコ−ル可溶性の樹脂で溶解性は似ています)、参考までに。
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