■ 19世紀ギターのための弦選び
その前に...... 弾き方は変えてみましたか?
● いままでコンサートや展示会や工房訪問者など、機会あるごとにいろんな人が私の目の前で19世紀ギターを弾くのを見て(聴いて)きました。ごく一部の奏者を除いてほとんどの方がまずいタッチなんですね、これが。かなり強めのアポヤンドの傾向が多いです。異常に長い爪で弾く例も....。モダンギターを弾くのであればなんら問題はなく、というよりそれが理論通りで先生にほめられるわけです。しかし、楽器が変わってモダンギターの「弾き方」がそのまま19世紀ギターにも使えるかというと、そうもいきません。例えばふだんモダンなクラシカルギターを弾いている人がリュートを手にしたらどうなるか? ヴァイオリンを弾いている人がチェロを弾くとどうなるか? ピアノを弾く人がチェンバロを弾くとどうなるか? 同じコトがモダンギターと19世紀ギターにもあてはまります。残念なことに「一流の奏者」と雑誌等で評価されるプロですらコンサートではモダンギターから19世紀ギターに持ち替えてタッチを変えず、堂々と爪のきたないノイズを伴って弾いている例もあります(マネをしてはいけません)。逆に趣味で日曜日に弾く程度、というアマチュア奏者であっても豊かな音量と美しく艶のある弾き方をされる方もたくさん知っています。ようするに曲を間違えないとか音楽的表現がどうかということは置いておいて、それ以前の段階の、楽器の「鳴らし方」が上手いかどうかという問題ですね。これは弦の張力とか素材だとか、...... そういう以前の重要な問題であるわけです。
楽器に合った弾き方をしないで弦の評価や選択がマトモにできるわけがありません。例えば低いテンションで鳴るギターがあったとして、それ相応のタッチで臨むのが自然であると思います。このへんに誤解が多いようで、たいていの奏者は「やわらかく弾いている」といいますが、私から見るととても乱暴なタッチなんです、残念ながら...。それでいてノイズが多く、音量が低く、歯切れの悪い発音.....。なかには自分のタッチが変えられず、かわりに19世紀ギターの弦をモダン並の弦に張り替えてしまい、しまいには「当時は今と同じ強いテンションだった....」などと、のたまふのです..... 。そうやって本人が発音に納得したかわりに楽器にトラブルを招いた例もたくさん知っています。張りの強い弦を論理巧みにムリヤリ正当化しようとした報いです。19世紀ギターのなかには張りの強い弦を張ったときに音量や音色の良い楽器もまれにありますが、その音はモダンギター的な味であったりします。むしろテンションの低い弦で鳴る楽器のほうが古典的な味であり19世紀ギターの魅力なのだと私は思うのです。
多くのギター奏者はどうしても今まで弾いていた楽器を基準に考えてしまいます。そしていきなりタッチを変えよ。というのも無理な話ですよね。でも、違う種類の楽器には違う弾き方をするというのは基本的なことでしょう? いわばヴァイオリンとチェロ、あるいはピアノとチェンバロ、のようにモダンギターと19世紀ギターは別の楽器と考えて弾いたほうがよいことが多いのです。それは意識だけではなく具体的に指や甲の使い方を変えることです。今後あなたが19世紀ギターの演奏を聴く機会があるならば、果たしてほんとにその奏者はピアノとチェンバロの違いをギターで実践しているかどうか、よ〜〜〜く観察してみてください。演奏家の知名度はまったく関係ありません、アマチュア奏者でもいいのです。むしろギター初心者やスチール弦プレーヤーのほうが上手く鳴らすことすらあります。そしてそれらの素敵な鳴らし方は、大いに見習い、お手本にしましょう。
しつこいようですが、何度でも書いておくことにします。モダンギターと19世紀ギターは似て異なる楽器です。カタチは似ていますが弾き方を変えて工夫することではじめてその恩恵を得られるのです。そのことを意識すれば弦選びもまたうまくいくと思うのです。
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