■ 弦計算尺の使い方(その2)
■ キルシュナー社の計算尺の場合 |
■ 弦長・A音の基準ピッチ・張力がポイント
さて、こちらはキルシュナー社の計算尺の使い方です。以下にこまかく説明しておきます。こちらもさらに濃いテーマですから、さらに濃い鼻血をたっぷり流しながらよ〜〜っく読んでくださいね〜〜。
弦計算尺の使い方はキルシュナー社製 もピラミッド社製もおおむね同じ手順で使用します。キルシュナー社製はドイツ語のみで表記してあるので記載されている単語をちょっと訳してから使用したほうがいいかもしれません。
● キルシュナー社の計算尺に記されているドイツ語の表記の一部を紹介しておきます。
・ saiten:弦
・ φ:(ファイ)弦の太さ・直径
・ aquivalenter:換算された(相当する)
・ Mensur:弦長
・ Saitenkraft:弦の張力(テンション)、単位はニュートン[ N ]
・
Fluor-Carbon(PVF):フロロ・カーボン。つまり釣り糸でいうシーガーなど。
・ Nylon (NR)
:ナイロン。つまり市販の高音弦や釣り糸でいう銀鱗など。
・ Stahl:ステンレス鋼。つまり大正琴やエレキギターのような鉄の弦。
・ Darm:ガット。羊腸。
・ Nylgut(PE):ナイルガット(羊腸の性質に近いナイロン弦)
・ Kupfer:銅
・ versilbert:メッキされた
・ なお、テンション目盛りには標準的な張りの強さ(テンション)と弱く〜強くといった段階的な補助矢印が付いていますので便利です。
extra leicht:ちょ〜軽い,ちょ〜柔らかい
leicht:軽い,柔らかい
無印:標準的な張力
stark:強い, たくましい
extra stark:より強い, ウットリするぐらいたくましい
さて、御覧のようにプラスチックの下敷きのような板に細いスケールと幅広のスケールが差し込んであり、フレームとなる本体に様々な目盛りが記されているというシロモノです。これさえあればナイロン、フロロカーボン、ガット(羊腸)、鉄弦、巻弦などさまざまな種類の弦を様々な弦長で、しかも任意のテンション(張力)で選ぶことができるのです。人はこれをスグレモノと呼ぶ......。
(1)まずは弦計算尺を縦長に持ちます。つまり引き出しスケールが上になるように持ちます。
では最初に弦長と「ラ」の基準音を決めましょう。つまり基準ピッチですね A=○○○Hz(440Hzとか415Hzとか)。ここで3回深呼吸します。
ここでは基準をA=440ヘルツで説明していくことにします。計算尺の左上に書かれているMensur
(cm)というのが弦長でナットからサドルまでの弦長ですから例えば63cmの弦長の19世紀ギターを例にとると、440Hzの矢印に細いスケールをスライドさせて弦長63(cm)に合わせます。この写真のように.......。
(2)次に弦にかかる張力(テンション)をニュートン(1kgって9.8Nでしたっけ)という重さの単位で決めます。さきの細長い左側のスケールは動かないように固定しておき、右側の幅広のスケールだけを上に引き上げます。そして、例えば5.8kgのテンション(張りの強さ)にしたければ幅広のスケールを58ぐらいの目盛に合わせます。はい、これも写真を参考に銅像!
(3)さて、まずは1弦を決定しましょう。両方のスケールを固定して動かないようにしておき、記されている目盛りを読みとるだけです。例えばギターの1弦は絶対音域において(e')または(e1)のように表記することになっていますのでスケールの e' に注目します...........ここで「あれ? e' の両側に目盛りがあるぞ?どっちを読めばいいんだろ?」と思われるかもしれませんが、この計算尺では弦素材の種類ごとに目盛りがふりわけてあるのです。
つまり次の図で示すように1弦 e' の音を5.8kgのテンションで張る場合の弦の選択肢は色分けしたように横並びで見ていけばよいのです(フロロカーボン、ガット、ナイロン、巻弦が横一列に表示してあるのがミソ)。カーボン弦なら直径約0.50mmを選び、ガット弦なら直径約0.58mmを選び、ナイロン弦なら直径約0.62mmを選べばよいのです。ちなみに鉄弦を張るなら0.25mm が近い太さです(笑)。実際に製品として売られているものは太さにスパンがあるのでスケールの値に近いものを選ぶことになります。
・Darmsaiten:ガット(羊腸)
・Fluor-Carbon
PVF:カーボン(フロロカーボンの釣り糸シーガーなど)
・Nylon:ナイロン(釣り糸の銀鱗など)
(4)あとは他の弦も(2)〜(3)の手順で同様に計算すればいいのです。当サイトの「弦のコーナー」の資料の項にある「■ 音域と呼び名」で各弦の音名を知ることができます。具体的にはギターの例をあげますと、次のとおり。
たとえば次の写真のように2弦(b=h)の候補はカーボンなら0.66mm、ナイロンなら0.85mm、ガットなら0.76mmといったぐあいです。
巻弦はどう選べばいいのかって? 例えば5弦(A)を選ぶなら、カーボンなら1.45mm、ナイロンは候補無し、ガットなら1.70mmです。じつはキルシュナー社ではガットの太さと巻弦の製品番号を統一してあります。1.70mmのガットに相当する巻弦はたくさん候補があって、この計算尺の右側にVDやVNが記してあり、弦の長さなどと同時に指定します。たとえばナイロン芯に銀メッキ線を巻いたVNで、これをギターに張るなら「5」という長さになります。注文するときは VN5170 と指定すればいいのです(備考欄を参照してください)。
ちなみにリュートやバロックギターや19世紀ギター、モダンギターなど、たいていは1コースめ(いちばん高い音の弦)はやや高めのテンションに設定するのが一般的です。もし上記の例のように1弦を5.8kgに設定するならば2弦〜6弦などはすべて5.8kgにするのではなく各5.2kgぐらいに設定します(というか私はそうしているのです)。まあ、楽器の種類や構造や音色の好みや弾きやすさの好み(触感)にもよります。くれぐれもテンションは高杉晋作、おっと高すぎないように注意されたし。テンションが高いと音量も音色も大きくなると思ったら Oh! much Guy!(オオマチガイ)です、弦は楽器といちばん相性の良いテンションに設定してこそはじめて「よく鳴る」のです。
さあ、弦計算尺の使い方はおわかりいただけましたでしょうか?
参考1:上記の説明とは逆に弦の太さを先に決めて、そのときのテンションを知るというような使い方もできます。手元にあるギターに張ってある弦はどれくらいのテンションがかかっているか? を知りたいときにはマイクロメータを使って太さをはかり、素材がわかっていれば計算尺でカンタンに調べられるというわけです。
参考2:ちなみに裏にもいくつかの計算機能が付いています。例えば「グラデーション・テンション」ですが、1コース目は強めに、そして2コースめはそれよりやや弱めに、その他のコースはさらに弱めのテンション。オクターブ弦はさらにそれよりやや低いといったような徐々に軽くなっていくテンション......が表示されるのです。
参考3:ほかの項目でも触れていますが、弦長のまったく同じ楽器であってもブレイシングの違いやサドル仰角の違いなどによって適切な弦はまったく異なることはよくあります。とにかく条件をいろいろ変えて実際に弾きながら試してみるのがイチバンなのです。
参考4:日頃からよく使う弦の性質を知っておくことは、他の弦に張り替える場合の目安となります。現状の弦の張力を少しだけ弱くしたい(強くしたい)とか、ナイロン弦をカーボン弦に交換してみたいがどれを選べば良いか? あるいはガット弦を張ってみたけどもう少しテンションを上げてみたい.....などといった音色の好みのほかにも、音の伸び、6弦全体のバランス調整、音量調整、演奏の触感、音の延達性、和音分離、ノイズ軽減、レスポンス改善、などの様々な実験がこの弦計算尺で容易に実現する.....ハズ.....というわけです。
参考5:もしあなたが19世紀ギターを所有しているならばガット弦はぜひともお試しあれ! 新たなギター音楽の世界が開けることでしょう。
参考6:キルシュナー社の製品の弦の長さは次のように数字で区分されています。
0 = 60cm 1 = 90cm 2 = 120cm 3 = 180cm 5 = 115cm 6 = 150cm
参考7:キルシュナー社の製品ののうち、素材は次のように区分されています。
D:Plain Gut DL:Varnished Gut NR:Rectified Nylon
PVF:Fluoro Carbon PE:NylGut(Polyester) LK:Luxline
VN:Nylon&SilverPlatedCopper VNG:Nylon&SilverPlatedCopper(Higher
tension)
参考:キルシュナー社の弦計算尺は2002年春に製造再開となったわけですが、初期ロットの出荷分について、テンションゲージの矢印がズレているという問題が発見されました(2002年6月以降の出荷分は訂正されています)。すでに当クレーンホームページから配布した方々には事態の説明文書と修正ラベルを封書にて送付しました。参考までに修正方法について掲載しておきます。
キルシュナー社では2017年頃?から製造を再開し、当クレーンホームページでも2018年5月から販売を再開しました(色が白っぽいクリーム色になりました)。またしばらくすると増産まで年月がかかるので機会のあるときに入手しておくことをオススメします。
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