■ 弦の選択の目安
■ 楽器の弦長:音の高さが同じとすれば、弦長は長いほど張力は強く、短いほど張力は小さい。
19世紀ギターの多くは620mm程度ですが、モダンギターのほとんどは650mm以上で弦長を長くし、張りを強くする構造によって音量や音域やサスティンを増そうとしています。ラミレスとかは664mmモデルもありますし近年のクラシックギターはボディの厚みや表面板の面積が拡大するものも多いです....。私感ですがラミレスのブレイシングに長い斜めのバーを使ってあるのは音色の狙いもあるとは思いますがそういった張力に耐えるべく考案されたものなのでしょう(以前からラミレス以外にも斜めのバーを用いた構造はいくつかの製作家に見られますし、現代でも例はたくさんありますが......J.ラミレスはこれで特許を取得しているらしいです)。複弦のスチール弦を張る楽器、例えばGibsonタイプのマンドリンや世間でいうところの12弦のフォークギターなどはかなりの張力がかかっているもよう....。Gibson社の弦は平均してやや強めのテンションのようです....。
■ サドルやヘッドの角度(仰角):つまり弦が支持される部分の角度に注目せねばならないということです。弦の張りの方向と支持固定部とのなす角度が大きいほど表面板への押しつける力は強くなります(その逆もしかり)。張りが強いと音は大きくなる傾向がありますが当然左手は押さえるためにより大きな力を必要とし自然と右手も強く弾弦することになります。ある世界的な製作家は19世紀ギター(フレンチタイプを指して)はモダンギターのように8kgも張力をかけると確実に壊れると述べています。19世紀ギターでは弦1本あたり4kg前後〜6kg前後の張力で張り右手も左手も演奏が敏感に表現されるように楽器を調整するほうが結果は良いようです)。当時強い張りで使用されたとされる楽器でも注意は必要でしょう。楽器のタイプ(国や時代や構造)によって弦長が同じでも適切な張力は全く異なることが多いのです。
弦長が短くなるのであればモダンギターの650mmの弦を19世紀ギターの630mmに張れば張力は小さくなるから何ら問題はなさそうに思えるかもしれませんが、実際には弦が太く感じ、張りも強く感じます。じつは19世紀ギターの多くはピンで弦を固定する方式をとっていたり、あえてサドル位置を高くしたものも多いため630mm程度の弦長でもナットやサドルにはモダンギターよりもかなり大きな力がかかることがあります。ピンとサドルのなす角度には注目すべきです。
・この写真は2つの異なるタイプの19世紀ギターのブリッジを撮影したもので改造されておらずオリジナルコンディションです。リペアの際にサドル調整したときの写真です。左側のギターは弦を張るとほとんその仰角がつかない構造です。対して右側はかなり高めのサドルで仰角も大きく設定されています。当時からこういった違いがあったのです。
・次の写真は1820年頃のスペイン(あるいはポルトガル)のギターで、リペアの際に弦を張り替えている様子を撮影したものです。この構造だとブリッジはサドルを兼ねる形状で磨耗が進むとアングルも変わりテンションも若干変化します。現代のギターの構造に近いといえるでしょう。
■ 力木の構造:扇状の楽器は張力をやや上げたほうが鳴る(らしい)。
モダンギターの多くは扇状ですが19世紀ギターの多くは数本の平行したバーのみで構成されています。パノルモのブレイシングスタイル(扇状)を持つ楽器はやや強めの張力をかけてやったほうが良いという人がいます。しかしパノルモといっても楽器は様々で、表面板の非常に薄い楽器も多く現存しますから個体差があると考えるべきです。パノルモのようなファンブレイシングであっても弱いテンションで張ったほうが良く鳴る楽器はあります。最近のモダンなクラシックギターやスチール弦のギターはブレイシングが複雑なもの(カシャ理論とか)も多く、多くはより強い張力をかける方向に設計される傾向のようです。表面板の拡大に伴い、厚さも増してボディサイズも大型化傾向といったところでしょうか....。
■ 弦の比重:つまり重量の重い弦は低い音を出しやすく、軽い弦は高い音を出しやすい。
重い順に金属系巻弦、フロロカーボン、ガット、ナイロンです。フロロカーボンは釣具店で呉羽化学の「シーガー」というブランドで売られています。同じ釣り糸のナイロンでも条件が合えばもちろん使えます。ガット弦は古楽器専門店などで入手できます。最近はナイロンを研磨したものやプラスチックの高音用巻弦もサバレスなどから販売されています。モダンなクラシックギターではプロアルテやオーガスチンが人気を集めていますが、ハナバッハは張力の基準が異なるようで「ノーマルテンション」と書かれていても実際には他社のハードテンション以上の張力だったりします。特殊なものとしてはガットを寄り合わせたものやガットにワイヤーを巻いたり金属粉を練り込んだりして比重を増したもの、あるいは金属溶液をガットに浸したローデッド・ガットなども古楽器弦のメーカーから販売されています。ガット弦はツイストをきつくして比重を上げたものをハイツイストと呼びます。。ウクレレの弦にもドブロ用に4本すべて巻弦というのもあります。
■ 調弦ピッチ:モダンピッチはA=440Hzだが、19世紀当時はA=430Hz(現代より1/4音低い)またはA=435Hzで調弦するのが慣習だった。
私は以前はハナバッハの「スーパー・ローテンション」をA=415Hz(ちょうど半音差なので)で張ることもありましたがやはり合わせモノを演奏するときなどは現実的でないので現在では古楽器用の弦で440Hzに張ることが多いです。A=440Hzが現在では一般的ですのでアンサンブルではそのピッチに合わせて弦を選ぶほうがいいでしょう。絶対音感のある聴衆にとっては440Hz以外だとつらいものがありますね(笑)。
■ ツメか指頭かの奏法:ツメで弾く場合は強めのテンションで、指頭で弾く場合は低いテンションで弦を張ったほうが良いようです。
これはいろんな人が傾向的に述べたものですが、やはり弾き易さや音色・音量に関しては奏者の個人的な好みが大きいようにも思えますので単純な問題ではなさそうです。私は複弦ギターも単弦ギター(19世紀、モダン、フラメンコ)もウクレレもスチール弦の楽器もすべて極端に短くしたツメを使います。しかしそのつどタッチを使い分けるほど器用ではありません。リュートもギターも当時の演奏家はツメと指頭の2派に分かれていました。よく「リュートはツメは使わない」と書かれた文献などがありますがそれは誤りです。ただ、複弦を弾弦するのに指頭を使ったほうが鳴らしやすいかもしれませんが.....。
■ 1弦(1コース)は伸びやすい:細いゲージのナイロンは特に....。
1弦には他の弦よりやや張力を上げて比較的太めの径を選ぶほうが結果としてもヨロシイようです。メロディラインが鮮明になるといった効果はあるようです。
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