■ ガット弦について
● ガット弦は羊腸ともよび、いわゆる羊の腸を取り出して(もちろん生きたままではない)、内包物を除去し、薄い膜の状態にしたものです。これに肉を詰めればソーセージとなり、引き延ばしてねじって寄り合わせると弦になるわけです。ガット弦の製造方法は古来より秘密にされていることが多く、文献などを見ても製造の詳細に関してはあまり詳しいことは出ていないようです。ともあれ、現代でも海外にガット弦を製造・販売するメーカーはいくつも残っています。
● ガット弦メーカーはイタリアのAquila社、サバレス社、EMS(アーリーミュージックショップブランド)、キルシュナー社、NRI(ノーザン・ルネサンス・インストゥルメント)社、ピラミッド社などがあります。日本ではギタルラ社(東京古典楽器センター)に行けばガット弦やリュート弦は店頭で販売されています。近年では通販でいろんなお店がガットを扱うこともあるようです。私はいつも個人輸入しています。
弦の製造でより方によって比重の高いハイツイスト弦やさらに工夫して比重を高めたガットもあります。一方ではバロックギターやリュートのフレットに使うガットもあり、「フレットガット」として売られていますが「より」がゆるい構造のようです。
次の写真はイギリスのNRI 社から取り寄せた19世紀ギター専用セット弦。1弦と2弦はLow-twistでガットをよりあわせて研磨したもの。3弦はHigh-twistのガットでやはり研磨弦。4弦だけはキャットライン(Catline)と呼ばれるロープ状のガット弦。5弦と6弦は銅線に銀メッキの巻弦で芯はシルク。太さは、
e':22.5thou
b:27thou
g:34thou
d:45thou
A:60thou
E:80thou
この「thou」はthousandths of an inch の意味です。1inch = 25.4mm なので、え〜っと、それぞれ25.4をかけたものを1000で割ればmmへ換算できます。22.5×25.4=571.5 だから0.5715mmが1弦というわけ。同様に2弦:0.6858mm、3弦:0.8636mm、4弦:1.143mm、5弦:1.524mm、6弦:2.032mm てなぐあい。
ちなみにキャットライン(Catline)とは船のイカリに結びつける頑丈なロープから由縁する言葉のようです。この4弦は3本のガットの子ヒモ(Strandといふ)を寄り合わせて編んであるロープ状のものです。写真には3弦、4弦、6弦が写っています。
しかしまあ、インターネットのおかげでロープ依りのガットやガット芯の銀巻弦などといった、かなり濃い弦ですら入手するのは難しくありません。これらについてもいずれ詳しくご紹介するつもりです。個人的には弦計算尺を販売しているメーカーということもあってピラミッド社やキルシュナー社製をよく使います。
● 戦後のセゴビア時代からナイロン弦が普及したことを考えれば、それ以前はガット弦だったわけです。もしよろしければガット弦も試してみてください、ちょっと高価ですけど....。私もガット弦を張ることはありますが長持ちしません。というよりヘタった音のほうが人気があるようで、余分な倍音成分が少ないせいか独特の響きが味わえます。19世紀ギターはガット弦に変えたとたんにみちがえる音色に変貌する楽器もあるようです。但し、スチール弦のギターやモダンなクラシックギターに慣れている人にはガット弦は響きが乏しいように感じるかもしれません。
● ガット弦には、指ではじく楽器用のワニス仕上げと、弓で弾く楽器用のオイル仕上げの2種類があります。弦メーカーによってはこのニスまで販売していることもあります。ピラミッド社などではガット弦に塗布するオイルも販売しています。
● 古楽器の世界ではあまり頻繁に弦を交換しません。プロの演奏家でも1年に1回とか、2年に1回というのも珍しくないようです。ほどよくこなれて手になじむ? 対してモダンなクラシックギターの世界では毎週交換とかプロではステージのたびに交換ということもあるようです。私は学生の頃は切れるまで使ったもんです(バキッ!)。今でもめったに交換しません(そりゃ練習せんからだろ?)。
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