■ ビンディング/パーフリングのリペア
● さて、お次はビンディングやパーフリングでございます。といっても矢羽やロープ模様やフクザツな装飾モノはまたいずれの機会にとっておいて、ひとまず簡単なものをここでは紹介します。矢羽といってもかなり種類はありますしね....。ギターにおいてこの部分は昔から様々なパターンがありまして、参考写真をまずはご紹介しましょう。
参考写真1 参考写真2 参考写真3 参考写真4 参考写真5 参考写真6
ビンディングやパーフリングは装飾の意味もありますが楽器のカドをテーブルなどにぶつけた際の保護の役割も果たします。事実、中古の楽器でここの部分が損傷を受けているものもよく見かけます(傷みの程度もさまざまですけど)。そしてまた楽器店に修理を依頼した場合、よほど歴史的な楽器でもないかぎり交換されることがほとんどだと思いますし、事実そのほうが仕上がりも美しいです。以下は例によって鶴田の遠回りにしてメンドクサイ部分修復の例であります.....。
これはスペイン(たぶん)の18〜19世紀頃のギターで、表面板の厚さのうち上半分にパーフリングが重なるように装飾されるハーフビンディングです。リュートやバロックギターなどによく見られる手法です。
パフリングの幅は以外と広く約5mmありますから黒檀板を曲げるのはちょっとたいへん(厚さは1mm以下)。そこで今回は欠損箇所に沿って黒檀板をカット(つまり型どおり切り抜く)する方法で試してみました。まずは破損部分をノミでならし、古くなったニカワなどを除去します。そしてやや大きめの黒檀板を準備してカーブの内側を表面板のシェイプに沿って削ります。
240番のサンドペーパーで接着面をならしておき、タイトボンドで接着します。
接着剤が乾いて硬化したらノミで外側(つまりボデイ輪郭)に沿ってノミで形状を整えていきます。木目の方向に注意しないと奥深く亀裂が入ることがります。
というわけで、作業は単純ですがピッタリフィットさせるために慎重に行います。あとはセラックで周囲に塗装を合わせれば完了です。
● この楽器は表面板があちこちで剥がれていまして、ここではついでに他の問題箇所の対処についても紹介しちゃいましょう。
・ショルダー部分の表面板ハガレ。細い彫刻刀でゴミや古いニカワを除去して再接着します。
クランプをかけられる部位ですので、接着剤を塗布したのちこうやってしばらく放置します。
ビンディングのハガレががボデイの両側にある場合や他の修理箇所の具合に応じて様々なサイズのクランプを使います。この長〜〜〜いヤツ(シャフトはカーボン製)は重宝しまっせ〜〜〜!
なにかと問題の多い、手のかかるギターですが気に入っています.....。
● ついでにもひとつ。古い時代の修理でパフリングが塗料で埋まってしまったものを元に戻す作業を紹介します。古い塗装をノミとサンドペーパーで丁寧に剥がします。
そしてセラック(最近はだいぶ扱いに慣れてきました)で周囲の塗装に合わせていきます。元はこんなに鮮やかだったんだなぁ.....。
● さて、ビンディングやパフリングのデザインには当時のスタイルというものが反映されているわけでありまして、以下の楽器(おそらく18世紀後期のバロックギター)の場合はパフリングは斜めにカットした黒檀と象牙の細工がボデイの輪郭を飾ってあります(ロープ模様)。そしてその脇に沿って側面板と裏板にはいくつもの帯がひかれているのがわかると思いますが、これは木材によるストリップの埋め込みではなく顔料で色づけして描かれたものです。当時はこのような幾本ものラインを正確に描くという手法も発達していたようで、以下の写真のような細く正確なドローはプリントやデカールを使わなかった当時としては高度な技能を必要としたことでしょう。現在これをやるには木材へのにじみ対処と正確な線引き治具が無ければ困難と思われます.........というわけでこういったものは恐れおおくて手を出さないのが無難。いいんです.....下手に描いて汚くするよりはこのままで弾きましょう。手をつけない勇気もこれまた鶴田式リペアであります。
● スチール弦の楽器やエレキギターでは樹脂製のビンディングが広く使われていますが、やわらかくて取り扱いは比較的容易です(色や厚さや模様に注意が必要です)。ネックやヘッドにも使われ、例によって鶴田の場合はあえてミットモなくても可能な限りオリジナルパーツを残すことがありますが古くなったビンディングと新しいそれの色を揃えるのはなかなか難しいです....。そのため色のわずかに違うビンディングを何本か買ってそのうちの最も近い色模様を使うようにしています。ビンディングの材料はL.M.Iなどで販売されているほか、日本国内では大和マークさん(もう当サイトではおなじみ)などが得意とされる分野です。