■ 打痕・虫食いのリペア
● 立てかけておいた楽器が倒れたり、譜面台やマイクスタンドにぶつけたことはありませんか? 初心者で楽器の取り扱いに慣れないうちはともかくとして、長年弾いていてもやはりタンスに「ゴン!」とやっちゃったり、ひどいときには買ったばかりのギターをゴゴンゴ〜〜ン!(始め人間ギャートルズ風に歌いながら読むべし)とコタツに打ちつける事故は起こるものです。これは昔の演奏者たちも同様だったらしく、弾き傷(スクラッチ)以外の傷は多くの楽器でみうけられます。ボデイの打痕のほかネックの折れ、ブリッジ下部の弦の跳ね傷もよく見かけます。古い楽器では保管状態が悪くて虫喰いのあるギターもいくつか見たことがありますが、なんとも風格があるというか?情けないというか?ギターが木材でできていることを再認識したりなんかするわけです。小傷ならたいていほっとく鶴田ですが長い目で見て破損部が広がったり演奏や音に影響が現れるような場合は補修を行います。
ここでは虫喰いの補修例を挙げます。次の写真はこのコーナーでもたびたび登場しているスペインの古いギターですがブリッジの間近に小さな穴が確認できるでしょう。まずは問題の部分に光をあてながら爪楊枝などで探りをいれてダメージの具合を確認します。すると、表面には小さく見えた穴もよく調べると内部に細長い虫喰いであることがわかりました。まさしく氷山の一角....。
穴は木目方向に沿ってやたら細長い形状です。これに合わせてスプルースの埋め木を削り出して埋めることにしました。大きな帯状の板で貼り替える方法もありますが飴色になった表面板を広範囲に処置するのは気がひけます。この写真のように埋め木は2つに分割し、さらにノミやナイフで成形したのち座薬のごとくグイグイと押し込んで埋むわけです。木目の幅や方向に注意しながらの作業です。ぴったりフィットするまで何回でも抜き差し成形を繰り返します。
成形が終わると虫喰いの溝の全長にピッタリになるように長さを切り詰めてタイトボンドで埋めます。おっと、その前に穴を綺麗に綿棒で清掃しておきます。次の写真で最初に埋めた木片がかなり奥まで刺さっているのがわかるかと思います。
残りの木片を埋めますが、剥ぎ取った表面板の古い塗装膜(実際には表面板と塗装膜)は捨てずにとっておきます。
そして元の木目に合わせてさきの塗装膜を埋めたスプルースの上に貼り付けていきます。最初から古いスプルースの埋め木を使うのもひとつの方法でしょう。
表面板の平面に合わせて平ノミ等でならし、顔料とセラックニスで染めを行います。そして塗装が乾いたらサンディングして、さらに塗装を重ねながら色を合わせていきます。
一見しただけではわかりにくい補修箇所も光の照射ぐあいによっては次の写真のように痕跡を確認することができます。まあ、もう少し塗装と顔料は調整できますがひとまずここまでにしておきましょう。
ストラディバリのX線写真でかなり広い範囲でクネクネと這い回った虫食いを見たことがありますが、あれはどうしようもないでしょうね......あそこまでいくと下手にいじらないほうがいいのかもしれません。