■ サドル・ナット・フレットの調整
さて、本日はまず読者の方からのお便りが届いていますのでご紹介しましょう。
>【質問】
>弦高の目安、何か基準とか設けていますか?
>各フレットごとに高さの基準ってあるのでしょうか?
>いままでのはびびらなきゃ良いやと思っていたので、
>適当にすり合わせして終わりにしとりました。
【答え】
弦高の目安は「弾きやすくてびびらなきゃ良い」、そんだけ(をひをひ.....)。
● リペアが生じればそこには当然調整も必要となるワケでして、とかく弦楽器の場合はナット、サドル、フレットなどの調整は避けて通れない身近な課題でもあります。製作家やリペアマンだけでなく一般の演奏家であってもちょっとしたメンテナンス程度は知っておきたいところ........。
ホントはこれについてはあまり詳しく書きたくないんですよぉ〜〜......というのも楽器のタイプやコンディション、プレーヤーの好みでどうにでもなるワケです。できればラミレス70年代とかMartin D-28に限定して解説するとか....そうすれば実用的なコーナーとなるのですが、それはそれで片寄った話ですからなぁ....。
で、考えたのですが、ここではフレットを持つ楽器(このさいナイロン弦でもガットでもスチール弦でもいいや)の調整について基本となる事項を中心に解説していこうと思います。......今回はへりくつが多いなぁ....人間トシをとるとグチっぽくなるっていうけど.......あ、話が逸れそうなので解説にまいりましょう。
● さて、はじめにフレットを持つ楽器のパーツの構成を御覧くだされ。これ以外にもパラメータが多いので調整は困難と思われがちですが、実際はすごく困難です......はい。ここに記載していること以外にも弦長、ネックの角度やゆがみ、パーツの材質、指板の厚さ、フレットの形状、弦のゲージなどといった事柄を考慮したうえで、最終的には演奏者の好みに合わせていくのです。ところが、弦高を低くしてくれぃっ!と言われて、たんにサドルを低く削ってハイ、オシマイと思ったらオオマチガイ......テンションは下がるは音に力はなくなるわ、あげくのはてはハイポジションでビビるわ......。そして苦労の末、なんとか収束させて相手に渡してもその好みとはまた違って「う〜〜〜ん、こんな音になっちゃったのぉ?........」。そうならないようにビシッと調整法をマスターしたいところ.......じつはまだ鶴田も未熟です、サッと調整できず、ダラダラと時間をかけて(楽しんで?)しまいます.....。
ここではまず、ネックが反っていなくてよじれ等の問題が無いことを前提に調整していくことを考えます。
A(ナット):指板との高さを決定するa-1及び、弦が挟まる(埋まる)深さを決定するa-2の値。 B(フレット):フレットの先端部から弦までの高さb-1及び指板から弦までの高さb-2。このほかにもフレット同志の高さの比較やナット〜フレットあるいはフレット〜サドルの関係に注目します。 C(サドル):弦の固定部からサドル先端までの仰角c-1(シータと鶴田は勝手に命名)。そしてサドルの高さ(表面板から弦までの高さ)c-2。ほかにもブリッジの形状や弦の保持・固定方式は重要です。
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あと、一時的な(応急的な)ナットの高さ調整としてはシム(市販されてる)を使ってリフトしたり、テレホンカードで短冊を作って同様に調整することも可能です。もしあなたがナットを自分で作るなら、今まであったナットにこの処置を行って高さを決定し、そのあとで参考にしながら新しく買ったナットブランクを加工すればいいでしょう。ちなみに鶴田はこのシムはゴツいハサミでバリバリ切りながらサイズを合わせ、ヤスリで仕上げます。
B
のフレットについてですが、現在市販されているフレットでその頭の部分の高さはギター用だと0.91mm〜1.39mm、マンドリン用のフレットで0.81mmなどがあります。つまりフレットの種類にっよってはギター用の場合で0.5mmも高さに差があるのです。部分的に打ち換えられたものが他のフレットと同じ形状であることは希で、結果としてヤスリで全体の高さをならすと、そのフレット位置のみで弦に接する面積の違いから奏者にとってはレスポンスとサスティーンがココだけなんだか変?ということもあるわけです(大げさに聴こえるかもしれませんが敏感なプレーヤにはわかるんだそうですよ)。古い楽器では一見して明らかにフレットのサイズ(太さ)が異なるものが同居していることはよく見かけます。
フレット同志の磨耗を調べるにはその高さを測れば一発ですが......そうそう、八王子に壱発ラーメンというのがありまして......え? そんな話じゃなくて? 磨耗を手軽に調べるにはどこかのフレットを押さえた状態で隣の高い音のフレットをペシペシとかるくハンマリングして打ちつける音がはっきりしてれば良し、そうでなければ減ってる......このチェック法は一般的。
さて、弦高のチェックの手始めはフレット自体の磨耗の度合いです。次に12フレット位置での弦高、つまり開放弦の12フレット位置でフレットの先端から弦までのギャップが2.0mm〜3.5mm程度(楽器の仕様や奏者の好みのよる)です、その高さをチェックします。私の周囲には比較的低い弦高を好む演奏者が多いです、全国的にそうかな?
弦高を下げる方法については次のCで解説するとして、気になるネックの反り具合ですが、私の場合はナット〜12フレットのチェックと7フレット〜17フレットのチェックを行います。まずナット〜12フレットのチェックは次図のように1フレットを指で押さえ、もう片方の指で12フレットの右側(つまり13フレット)を押さえ、もう一本の指?で6フレット位置の弦高をチェックします。多くの場合は0.3mm〜0.7mm程度のようです。これがベッタリ密着していれば逆反り(あるいは1フレット〜12フレットが全体的に磨耗)の可能性が高い......逆にギャップが広すぎれば順反りの傾向があるというわけです。次に7フレット〜17フレットのチェックも同様ですが、7(場合によっては5)フレット位置を押さえて、18フレット位置を押さえ、そのときの12フレット位置のギャップをペシペシとかるくハンマリングしてチェックし、0.1mm〜0.2mm程度であることを確認します。現実には12フレット位置を境にして反ることがほとんどなので後者のチェックが現実的であります。まあ、弦長にもよりますし、1弦〜6弦各位置によってもギャップは異なります。というわけで上記のチェック法は(例外的な楽器もありますけど)目安にはなるでしょう。私の場合はなるべく現状を維持しつつ、フレットも個別に削って合わせていくことが多いです。フレットの切削はマスキングして弦はゆるめて外さずに作業します(このほうが調整がスピーディ)。
あれこれ押さえてチェックするよりもネックを照明にかざして弦の方向に目をやったほうが短時間でチェックできることもあります。そして何より演奏者自身が弾いてみて「ああ何となく高いなぁ」と感じたらそれは誰が何と言おうと弦高は「高い」のです(笑).........。
使用する弦によってもネックは反り具合が若干変わるので極限まで弦高を低く調整した場合などは弦を換えるとビリつきが発生することもあり得るワケです。ビリつきのノイズはほとんどがナットとサドルの削り角度によることが多いようですが弦高を下げるとフレット全体の高さやネックの反り調整がモロに出ますから9フレットを押さえて弾弦したとき8フレットからノイズが出るなんてこともあるのです(巻弦でよく見られる)。スチール弦の楽器ではロッドがネックに埋め込まれているものが普及しているようですが(カマーンバーとかね)ネックが反ることを前提に楽器を作るというのも反則?のようで不思議な気がします。一方のクラシックギターの世界では河野ギターや星野ギターや今井ギター.......など日本の楽器は気候変化に強いということで海外からも評価が高いようです.......大先輩に敬礼であります。
ネックの反りを戻す方法は? あります、あります。スチール弦の近代のギターやマンドリンはそのロッドスチュワートってヤツ(アジャスタブルロッド)をレンチで回すわけです(ここでは詳しく説明しません)。むしろ問題になるのはそのようなロッドが内蔵されていないタイプの楽器でありまして、リペアの文献を調べてみますと、たいていはクランプなどでベンドして加熱・放置(あるいはスチーム)という修正手段が一般的なようです。但しベンドは軽くでいいのです、締め上げてやろうなどとは決して考えてはイケマセン! 軽くやらないとバキッ!というニブイ音とともに悲劇を招くことになります....(経験者談)。ベンドしたまま放置しますが、はっきりいって元に戻っちゃうことが多いのです。ですから指板を剥がし、ネック自体をカンナでならして指板を再接着するのがいちばん良い方法ではないかと私は思います。ちなみにこのネックベンドによる修正法はみなさんは絶対マネしないでください、楽器を壊しますゾ....。指板を剥がすには「専用のヒーター」を使うのがベスト電器です、LMIなどで指板加熱用の専用ヒーターが売られています(高いけど)。ネックの反りをなおしてもジョイント角度が狂っていればネックのリセットということになります......これもまたいずれ紹介しましょう。
C
のサドルについて.........これが厄介なんだな。みなさんの周りで、ど〜〜〜もギターが弾きづらい......なんて話を耳にしませんか? 私がそんなことをツブヤクと「そんなの練習不足じゃ!」と笑われそうですが職業人プレーヤにとっては弾きやすさはトッテモ大事な楽器の条件であります。音量や音色はもちろんですが弦高・テンション・調弦のしやすさ・プリングオフやスライドの操作感・セーハやポジション移動の具合.....私たちトーシロでも気になることがプロにとっては本番で「フレットの調子が悪くて...」などと言い訳にはできないでしょうしね....。次図のようにc-2の高さ(弦高)は楽器のタイプによって様々です。そりゃまあ、サドルを削って調整しますがどうせならオリジナルには手をつけず新たにサドルを買ってきて行うほうがいいでしょう。私のバヤイはサドルが弦に接する部分の角度の調整は弦がどのように固定されているかによってその仰角をうかがいつつ作業することにしています。一般的なクラシックギターと19世紀ギターやスチール弦ギターのピンを使う方法、あるいはアーチトップやマンドリンのようにテールピースを使う方法などがありますがいずれにせよサドルに接する角度は接触面の状態とその弦高とのバランスを見ながらの調整作業になるわけです。単純に弦高を低くすれば仰角シータは浅くなり、弦を表面板に押しつける力は減少し、テンションは下がり、サスティンに影響が出る...というのが一般的な傾向のようです。削り具合によってはサドル位置からノイズを発生し、それが改善されるまでひたすら調整を繰り返す....楽器にもよりますし、限界まで弦高を下げるにはいくつかのリスクが伴うようです。弦高を下げて起こる各種の症状はテンション低下が起因するものと私は感じています。
ちなみに12フレット位置で弦高が3mmだったとして、仮にそれを1mm下げるにはサドルはその約2倍、つまり2mmも低く削らねばなりません(0.5mm下げたい場合はサドルは約1mm削って低く)。それだけテンションの変化も大きいといえます。
あと、表面板やブレーシングの状態によっては年月の経過に伴いドーム状のふくらみを持ってきますし、クラックが生じた場合にもブリッジ高さに変化が生じることがありますので若干弦高を下げたりサドルの削り角度を調整せねばならないこともあります。ちなみに私はどちらかというと高めの弦高が好きなので、気がつくと高めの弦高に自然と調整されていたりするわけであります.......。
● まだあります。そう、オクターブピッチの調整です。弦を張ってサドルも調整したはずなのになんだかフレット音痴.......。12フレット位置を押さえて弾弦した音と12フレット位置(真上)のハーモニックスそれぞれの音の高さが同じであれば良いワケですが、弦はその太さが増すほど押さえたときの張力の微弱な増加が生じ、実音がやや高くなる傾向があります。原因はフレットの打たれている配置間隔がおかしい場合、弦が不均質な場合、サドル位置がおかしい場合、ブリッジが交換されたりしている場合.....などが考えられます。これを解決するにはクラシックギターもチューンゼロマチックで一発調整すればハイおしまい......だといいのですが、一般的なクラシックギターなどはエレキギターみたいに手軽にはいきません。
これはサドルのピークを微妙にずらして削ることによって微調整が可能です。12フレット位置でのハーモニクス音と実音を弾きながら(そのたびに弦をゆるめてはサドルを削る)音の高さをチューナーで比較していきます。太さがわかってれば最初からサドルピークの寄り具合を決めておけばいいじゃん! と思われるかもしれませんが現実には微妙なのです.......。ブリッジが交換された楽器はとても多くみかけますが、その多くはサドル位置も狂っている場合が多いですし、たいていサドルだけでは済まなくてブリッジ自体を作りなおすか接着位置を移動せざる得ないこともあります。そして、まれに(量産品ではけっこう頻繁に)オリジナルのサドル位置やブリッジ位置が最初からズレていることすらあります(あ〜〜〜ぁ......)。
12fハーモニクス音 < 12f実音 サドルのピークはエンドピン側に寄るように削る。
12fハーモニクス音 > 12f実音 サドルのピークはサウンドホール側に寄るように削る。
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他にも書きたいことがたくさんありますが、今回はこのくらいにしておきましょう。
あぁ〜〜濃い、濃い.......。
最後に19世紀のフラッシュボードタイプのギターで象牙フレットが見事に磨耗しきったナイスショットをご披露しましょう........。エクステンションの14フレット〜17フレットです、ここまで弾けばギターも本望でしょうなぁ.....。