● リペアでおじゃる ●
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■ カポタストの修理(ペグ交換)
カポタストのリペアについては以前にも記事を書いたのですが、ガットの交換やソールの貼り替えなど掲載していないものもけっこうあるんです。
今回はペグ交換の作業を紹介致しまする。御覧の写真のとおり。
ツゲを染めたペグです。ツゲだから折れたのではなくて黒檀でも折れるときは折れます。
コレ、じつは最近販売したものです。スペイン式のカポタストはコツが必要な道具なので初めて手にする方は戸惑うことも多いと思います。
私も最初の頃はそうでした。
工房CRANEの新品のカポを納入してペグがすぐに折れた、というのは、じつは以前にも1件ありました。やはり初めての方でした。
また、市販のカポでもペグが折れたものを数回見かけたたことがあります。黒檀のペグでも折れることがあります。なかにはペグだけではなく本体にも亀裂が入っていたこともあります。初心者の方はどうしてもペグでガットを巻き上げようとしますが、本来はグッ!と左手で弦にカポを押しあてておいてから、チョイとペグで留めるという感じです。ガットは最初からほとんどペグに巻きつけておくのです。なかなか言葉で現すのは難しいですな。
● 作業内容
まずはカポの本体に折れたペグの軸が詰まったままですので、それを抜かねばなりません。
最初にソールを剥がします。
そして固定台に傷を付けない保護布を敷き、目釘抜き(日本刀の柄のピンを抜く道具)を使ってコン!コン!とやればカンタンに抜けます。
抜けないときは卓上ボール盤で穴を開けてしまうという方法がありますが、リスクも高くあまりお薦めしません。
摩擦で挟まっているだけなのでたいていはコンコンやれば抜けますので。
目釘抜きは栓抜きと同じく一家に一本はあるでしょうから .... え? 無いの? 日本人なら日本刀の2本や3本は押し入れにしまってあるでしょ?
話は逸れますが、いま、日本刀の価格が暴落しているんですね。もちろん一部の歴史的な名品はそうでもないのですが。
室町時代から現代刀に至るまで、程度がそこそこなら昔の1/10ぐらいの価格だったりします(モノによっては 1/20 ぐらい)。
文化庁の認める「文化財」なので登録証が付いていれば誰でも所有できます。
しかし .... ゲームの影響で近年見直されているとはいえ、「今月はボーナスが出たから兼光の脇差し1本買っとくかぁ ... 」なんて話は 世間では耳にしませんねぇ。昔は投資対象と美術品を兼ねていたので資産として所有する人も多かったのです。しかし昭和も戦後は私を含めた世代のように平和教育を刷り込まれていますから、買う人は限られるわけで ... 。それに日本の家屋では絵画や彫刻といったアートを屋内に飾る習慣は21世紀になった現在でさえ、さほど普及しておらず。
そしていよいよ21世紀ともなると、お年寄りの皆さんが次々と亡くなり遺品整理でドッサリ日本刀が市場へ放出。結果、国内に買い手はつかず、けっこう海外に流出しちゃっているのです。日本の伝統的文化財が欧米に渡り紙ヤスリで研がれて「これがジャパニーズ・スゥオードなのだ!」と売買されている様は、私には耐え難い。
え〜〜〜と、何の話でしたっけ? はっ、 ... ペグの交換ですね。
ペグはいくつかの形状やサイズや材料を在庫していますが、カポ本体の色やサイズなどに合わせて選び、色を染めて使います。
染める方法はたくさんありますが、工房クレーンにおける茶色系の染料は写真のようにジャム瓶に入れて寝かしてあり、カビを繁殖させて色味を深くした特製です。焼き鳥屋の秘伝のタレのごとく、減ってきたら継ぎ足すことはや十余年。
染まったあとは乾かして、ペグシェーパで正確なテーパをつけて太さを調整。ペグリーマでカポ本体のペグ穴をそれに合わせます。
それぞれ削ってはあてがいます。今回は少し太めに作り直します(折れないように)。
チタンコートされたペグリーマ、値段がお高いのですが耐久性も高く使いやすいです。
ペグのテーパと太さが決まったら弦穴を開けてこまごまと調整。
軸部分も茶色の染料で染めたのち乾かします。
色鉛筆 ... というか 色の付いた芯のシャーペン(3色持ってます)で長さをマークしてカット。カポの底面から突出しないように本体の厚みより少し短く。
長年使ってペグが留めづらいときは軸が摩耗してカポ本体の底面突き抜けようとしていることがあり、ソールがふくらむので判別できます。そのときはペグの先端を少しカットします。
続いてペグのノブ / ツマミ 部分を塗装します。塗料皿が必要なのでいつもようにハーゲンダッツを急いで1個食べねばなりません。
ここまでの作業で古いガットは付けたままでした。使えるものは残そうと思ったのです。
しかし、ペグの軸を少し長くしてモダンギターでも使いやすいように(本来コレは小型楽器用のカポですが)長めの新しいガットに入れ換えることにしました。
今まではドイツのキルシュナー社製キャットラインCDが付いていました(透明感があってキラキラしてる)。
今回はアメリカのGamut / ガムート社製の Pistoy です。キルシュナー社もガムート社も同じロープガットですが、羊と牛の違いですな。ストランドの構成と縒りのピッチも異なります。クリックして大きな画像なら違いがわかるかと ... 。
ライターでガットの先端を焼いて丸めます。
最後にソールの貼り直しですが、ここでも少し迷いがあります。新たな1mm厚の天然ゴムシートを用意しておいたものの、今までの2mm厚の天然ゴムシートの状態が良いので使える物は使う方針でいこうと。カポタストに限らずギターの修理もそうですが、私にはそういう習慣が身についておりまする。決してケチではありません ^_^ ;
古い両面テープを時間をかけて入念に剥がし、新しい両面テープを使って再利用しました。両面テープにも種類がたくさんあって ... とやりはじめるとキリがないので今回は両面テープの話は省略。
いったん楽器に装着してガットの長さを調整。カポタスト(セヒージャ)は使う楽器の指板幅とネックの胸囲/太さで仕様が決まるので、今回のように小型楽器とモダンギターを兼ねる設定ではいくつかの実際の楽器にあてがって調整するのがいちばん確実です。写真にはモダンギター(もちろんタムラ)しか写っていませんがネックの細い19世紀ギターや19世紀のポルトガルギターなど、いくつかのサイズの異なる楽器で装着してガットの長さを決定しています。
はい。コンポジットでペグ軸を少しならして作業完了。
ペグ軸とガット長を少し長くして初心者にも扱いやすくしました。
ペグの色は今までよりも濃い茶色にしていますが、このカポでは現物を手に取った感覚ではバランスがとれていると思います。
まぁ、 .... カタチ有るものはみな壊れる。諸行無常ですな。
CRANEのカポが摩耗したり折れたり切れたりしたら遠慮なく御連絡ください。ちゃちゃっとなおしますので。
素材や色や形状にもよりますが、おおむね10日間ぐらいです。元気が有るときは一週間ぐらい、元気が無いときは2年ぐらいかかります(ウソ)。
記事:2018年6月17日