■ クラックのリペア:その2(マンドリン表面板ほか)
● じつは亀裂の断面も様々で、なかには厄介な割れ方をしている場合があります。次の写真はマーチンのSTYLE-Aですが、一見してフツ〜〜のクラックに見えて、実際には内部でいりくんだ割れかたをしています。それにしてもキタナイなぁ.....長年放置されたと見えてホコリだらけ......ダメじゃん.......。
● つまり次図のように木の繊維がふくらみを持つような断面になっている場合です。基本的には前項で紹介している方法と同様ですが、作業の途中で繊維の凹凸を埋めるようなストリップを作り、奥部まで上手に埋め込んでやらねばならないのです。なんだ、こんなの幅を広くとって厚いストリップ1本でいじゃないかと思われるかもしれませんし、おそらく多くの方はそうしておられるでしょう。でもこのめんどくさい(クラックの幅を拡張しない)のが鶴田流なんですなぁ....はははははは...。おおまかに作業をまとめると以下のような手順になります。
1. まず亀裂の状態をよく観察し、作業手順を考えます。
2. 亀裂内部の汚れや古い接着剤などを薄いナイフ等で除去し、奥部の亀裂を整えます。
3. 小さな三角柱のストリップ、あるいは割れに応じたストリップを作ります。
4. 亀裂に接着剤とともに埋め込みます。
5. 接着剤が乾いて硬化したらノミとスクレーパで平坦にして染めを行いニスで仕上げて完了。
● 割れてすぐに持ち込まれれば余計なゴミなどは挟まらないのでしょうけど、たいてい割れたままで長年放置され、あるいはそのまま弾かれていることも多く、どうしても亀裂部分が汚くなります。この楽器は1920年製作ですが亀裂の断面の退色から見ると10年以上割れたままだったようです。この楽器の表面板のクラックは全部で3箇所ですがひとまずここでは2箇所を修理することにします。木目に沿いつつ、奥深い部分のえぐられた凹凸に注意しながら作業します。
今回はイチイ(こっちのほうがねばる)を使ってストリップを作りますがこのように幅の広いものを一枚板から切り出し、1/3の幅でセパレートして片方を奥部に埋め込み、残りの2/3部分を表面板に垂直に埋めます。
ときどき仮組みして具合をみながらストリップを整形していきます。割れの幅は平行ではなく細い笹の葉のように端部はかなり細くなっているので根気よく合わせていきます。
タイトボンドで満たした溝にストリップを埋めて押し込みます。奥部の三角ストリップの写真がうまく撮影できなくてスンマセン(我が家のデジカメの限界)。そして硬化したら突起部分を削って除去します。
この写真を御覧になればクラックの先端部が細く、次第に幅広くなっていることがおわかりいただけるでしょう。周辺の木目の間隔や方向に注意します。私の場合は0.2mm以上のギャップであればストリップを使って埋め木を行いますが0.1mm以下のギャップであればニカワ等を流し込んで圧着します。
というわけで、あとは染めの作業と色合わせを行い、表面(埋め木部分)の塗装をセラックで仕上げていきます。染め作業前の左の写真をよく見るとクラックは木目に沿って湾曲していることがわかります。従ってストリップも一定の幅ではなく割れ口の形状に合わせて作っているのです。
ふぅ〜〜〜〜、この作業で丸二日かかってしまいました(あいかわらずトロい鶴田.....)。
● ついでに表面板ではよく見られるクラックの例として指板周辺に注目してみましょう。
ホームページ上から楽器を購入する場合などに、掲載写真やメール添付の写真だけではなかなかこういったクラックには気付かないものです。私は実物を見ない限りは「たいていの場合、必ずどこか壊れている」と心得て購入します。売り主が個人であれ専門店であれ同様です。外国のショップでニアミントコンディションと書かれていても実際にはこういったクラックや塗装や部品(欠品)といった問題を抱えていることがたまにあります。入手するときは多かれ少なかれリペアを考えておいたほうがいいかもしれません。100年も200年も昔の楽器に新品同様のコンディションを求める日本人が多いという話も聞いたこともあります。19世紀以前の楽器でデッドストックとかミントコンディションなんていうのは皆無に等しいはずですが表面板やネック・指板を交換して新品同様に近づけることは不可能ではありません。
おっと、話が逸れていきそうなので本題に戻りまして、表面板にかかる指板の両脇のクラックはじっつに頻繁に見かけます。私なんかこんな楽器ばっかり買っています。いいんです、ちゃんとなおせばバッチリ復活しまっせぇ〜〜!
こちらの古いギターの場合は表面板がネックまでフラッシュしているタイプで、指板は9フレットまでしかないわけですが弦を張って表面板にかかるストレスは他のタイプのギターと大差ありません。特にブロックのあるAの周辺に割れの生じた楽器を多くみかけます。Bの部分もそうですが、割れて剥がれて交換されていることもよくありますから木目や色合いをチェックしてみるといいでしょう。まあしかし、この部分の板が入れ替わっていても音には影響ありませんし、傷みが激しい楽器では仕方がないのです。ゼ〜〜タクいっちゃダメっスよ。
一見すると4箇所の真っ直ぐなクラックで「楽勝」と思いきや、よく見ると素直な割れ方ではなく交互に入り組んで割れています。従ってこのリペアでは7本のストリップを使っています。
● 内部のバーを再接着する方法のひとつとして、私は硬質ウレタンを使います。ニカワを剥がれた力木に塗布し、素早くはみ出した部分を拭き取りこのウレタンを裏板と表面板に挟んで力木を押し上げるようにするわけです。ウレタンの挟み込む角度を変えて弾力を調整します。できればちっちゃいクランプで内側から、大きなクランプでボディ外側から、つまり内外両側からクランプしたほうがいいのかもしれませんが下手すると割れます(笑)。だから私はたいてい手でずっと押さえるかウレタンを使います。
鶴田の場合は割れがかなりひどくても表面板を交換することはありません。