■ クラックのリペア:その4(裏板・側面板)
● さて側面板の修理に引き続き、今度は裏板の修理例です。
このギターの裏板はハカランダであります。過去に割れた箇所をどなたか(その当時のオーナーかな?)が接着剤でペタペタと........苦労の痕跡が残っています。状態からみてたぶん10年以上経過しています、Aがその箇所です。そしてBの箇所はたぶんその後割れたものと思いますが何も手が付けられておらず、ホコリもさほど挾まっていません。写真ではAはちいさなスリ傷に見えますが実際にはBと平行にかなりの長さのクラックが生じているのです。幸いなことに両者ともかなりギャップは狭く0.1mm以下。今回はかつて私が若かった頃(今も充分若いが)とあるプロの製作家に教えてもらった方法でリペアを行うことにしました。
で、その方法というのが木工用アロンアルファでございます。その巨匠いわくこの方法こそがスピーディにして頑丈バッチリなのだそうです。このような極端にギャップの狭いクラックは密着状態に近いわけですから接着剤を流し込んでいくと毛細管現象でじわりじわりと浸透します。注意すべきは、硬化するまで両側の板に段差が生じないようにピッタリと押さえておくべきでしょう。ちなみに私は硬化するまでのあいだずっと指で押さえてます........ジ〜〜〜〜ッ........。
完全に硬化したらスクレーパで表面をならします。ここで深く幅広く削ってしまわないように注意。あくまで接着剤を除去するのが目的の作業。
サンドペーパーをかけます。番手は#320〜#800ぐらいまで。このとき周辺にあるオリジナルの塗装状態を見ながらサンディングの仕上がりをそれに近づけていくのが理想と考えています。
ここでは2箇所のクラックを同様に修理しています。塗装して研磨すれば終了。内部の力木もチェックしてしっかり接着しないと、また同じ箇所が割れます。
● 番外編:こんな修理をされた例.......の紹介
以下に紹介する楽器はまだ私が手を付けていない状態(私のもとへ届いた時点)での写真です。
(a)突き板の場合を見てみましょう。このギターの場合はすでに内部からシームが貼られて裏板のスプルースの割れをくい止めています。突き板でも割れているというちょっと珍しい例ですが、おそらく裏側から強打されたもよう.......。結局このようにセンターシームとその左側にもうひとつ太いシームが平行に(しかもボディの上から下まで)デカデカと貼られているものの、裏側から見ると亀裂が完全に密着されていません......いったんはがしてやりなおしてあげたほうがいいかな?
(b)こちらも突き板によるハカランダとメイプルの2層構造の裏板ですが、センターが分離してしまったものをニカワで再接着され、その上から紙テープが貼られている例です。だいぶニカワが黒ずんで汚れ、ひび割れており、かなり前に行われた修理のようです。裏板のバーもニカワで再接着されていますが作業中に綺麗に拭き取ってなかったようで、ちょっとはみ出しています。紙による補修は古い楽器では時折見かけます。
(c)こちらは1860年代(たぶん)のマーチンガット弦ギターで柾目のハカランダ材を裏板に使ってあるものですがセンターシームの両側に亀裂があり(つまりボデイの上から下に2列のクラック)、それぞれが内部からパッチによって再接着されたものです。この修理自体はおそらく1950年以降の比較的最近のものでしょう。この写真で見て向かって左側は問題ありませんが右側の小さな菱形のパッチは意味をなさず、裏板は割れて剥がれ、浮いています。補修してまもなくパッチ自体が割れてしまったものと思われます(このパッチは小さすぎ)。
裏板の場合は力木とのかかわりが大きく、単純なクラックでもよく調べると力木がかなり広範囲で剥がれていたりするわけです。