■ 番外編:リコーダー関連
さて、今回はなぜかリコーダーです。え? CRANEさんトコは弦楽器工房じゃないの?
ハイそうです。しかし考えてもみてください。ギターを作ったり修理していると案外、他楽器分野の皆さんと交流があるものです。例えば古楽器でリュート弾くお客さんがヘッドが折れたからなおしてください、ということになるとそのお友達でチェンバロとかトラベルソやってる人とも一緒になったり、あるいはギターを譲渡した本人とか奥様が鍵盤楽器や管楽器もたしなむ方であったりと、考えてみれば自然ななりゆきでいろんな楽器の皆さんとお友達になったりするわけですね。
それで、私の畑違いの楽器であっても可能な範囲であれば修理の機会が発生することになりにけりですよ。
日頃、いろんな楽器の修理をやっているにもかかわらず、忙しさもあってこのコーナーはなかなか更新されないのですが、今回久しぶりに掲載してみることにしました。
● アルトリコーダーのコルク張り替えと欠損補修
一般的なリコーダーでは次の写真のように頭部管(とうぶかん)、中部管(ちゅうぶかん)、足管/足部管(そくぶかん)の3つに分割できるわけです。コルクが巻いてあって専用グリスにてなじませてあります。これが季節や環境や使用を重ねることによってゆるくなったり、剥がれてくることが多々あります。ゆるんだ場合はグリスを塗ってライターで加熱することで膨張させる方法もあるようですが、私がやると確実に燃やすのでやったことはありません。剥がれてきたら貼り替えます。コルクは障子やフスマと同じく消耗品ですな。ギターでいえばサドルやフレットのようなものでしょうか。
(1)はじめにハガレはじめたコルクを綺麗にすべてはぎ取ります。ポロポロと容易に剥がれていきますが、部分的に古い接着剤(何を使っているのか不明)が残っていて、管にへばりついています。中部管の上下両方を丹念にはがしまする.....
(2)ここは少し水分を加えて接着剤がゆるむのを待ちますが、どうやらニカワではなく化学合成の接着剤?のようです。部分的に硬くて白っぽいカタマリがへばりついています。それを小さいクラフトノミで丁寧に剥がします。
はい、御覧のとおり綺麗になりました。
(3)新たなコルクシートをこの溝の幅に合わせて切り取り、一周巻いてみて厚みの具合をみます。ここで使うコルクシートはホームセンターで見かける集成コルクではなくモノシートのコルクです。以前、同じようなリコーダーの調整で買っておいた管楽器用のシートが手元に残っていたので、それを今回も使います。ピゾーニ・エクストラクオリティの3種類のコルクシートですが、今回は必要ピッタリの厚さではないので自分でサンディングして厚みを調整しました。
(4)古いグリスをアルコールで拭き取ります。ついでに頭部管と足部管の内面も古いグリスをクリーニングしておきます。あとで新しいグリスを塗りなおします。
(5)カットしておいた新しいコルクシートを貼ります。このとき私の場合はニカワを使いますが、専門家の皆さんはどんな接着剤を使っているんでしょうね? ちなみにこのコルクの表面に見えるまだら模様は接着剤のシミではなくコルクの杢です。
ニカワでコルクを接着するときには、むらなくしっかり密着させるために「ずっと指で押さえておく法」を使ってニカワが乾くまで待ちますが、厚みのあるコルクを使うときはナイロン弦かガット(羊腸)弦をこの上から数回巻いて周囲を引き締め、クランプしています。
(6)翌日、乾いたコルクの表面をチェックして頭部管及び足部管それぞれをつなぎ、調子をみます。若干きつめにしておき、グリスを塗って丁度良い具合になればOK。グリスはほんのわずか、塗らなくても良い程度です。
というわけで両方のコルクを貼り終えました。
もうひとつ問題があって、このリコーダーでは頭管部(頭部管)のリング装飾の一部が欠損しています。もっとこまかくいえば唄口(うたくち)またはジェフ・ベック(笑)といふ部分の装飾ですな。写真のように見事に欠けてます。このままでも楽器としては支障が無いのですが、まぁ、なおしてみましょう。
(1)欠損部分を代わりの材で補えばいいわけですが、手元にツゲの材があるので、それを加工して使うことにします。なにしろ2mm程度の小さい部位なので雑にならないように。ひとまずは欠けた部分を拡張しない程度に丸くならします。細い丸棒にサンドペーパを巻いてゴシゴシ。傾かないように、かつ周囲を傷つけないようにやります。実際にはテープでマスキングして作業します。
(2)ツゲはギターのペグの軸の先端を使います。木目の方向も同じく、ミカンの1房のごとく三日月型に切り出して補修ピースとします。つまりこんなかんじ(拡大写真)。
(3)精密加工用のヤスリは各種揃えてあるので、片側面に刃の無い平ヤスリで成形作業を行います。もとは旋盤を使ったひきものですから、それを手作業で違和感無くフィットさせるのは難しいです。だいたい、老眼の始まった私には小さくて見えないっての(笑)。
(4)そしてコピックで色合わせを行いますが、なにしろ良く使い込まれたリコーダーで、経年による色合いに合わせるのは難しいです。端材であれこれ試してみますが、ピッタリにはいきません。ここは無理をせず、ほどほどに。ひとまずこんなカンジでしょうか。光のあたりぐあいによっては目立ってしまうかな?
というわけで、比較のために作業前後の写真を以下に並べて掲載しておきます。
そういえば、過去のリコーダーの作業だと、MOECKを扱うことが多くて、元の塗装を削ってウレタン塗装されてしまった楽器を染め直して再塗装したこともあったり、バスリコーダーのキーの調整などもやりましたが、管楽器も奥が深いです。弦楽器の世界からみると「なるほど」と思うところも少なくないです。管楽器系の皆さんと話をする機会にも弦楽器作りや修理の参考になることはけっこうあるものです。私ももっと勉強しないといけませんなぁ...... 。
【リコーダーの基本情報など】
ヤマハ:鳴るほど♪楽器解体全書 : リコーダーの種類と構造
http://www2.yamaha.co.jp/u/naruhodo/01recorder/recorder1.html