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え〜〜〜、組立てに入る前にあれこれ下準備といいますか、有る程度の加工や工夫をこらしておくことでぐ〜〜んと音が良くなる(ハズ)のであります。以下に作業を挙げていきますが初めて弦楽器製作に挑戦していらっしゃる皆さんは全ての作業を行う必要はありません。難しそうな作業は無理をせず、その項目は読み飛ばしてください。
逆に経験者の皆さんはが熟読していただき、コッテリ濃い世界に入って脳血栓を連発しながら独自の工夫を施していただくとヨロシイでしょう。キットを3倍楽しむ! 骨の髄までキットをしゃぶり尽くす! 大いに結構でございます。ここに書いてあることは「私(鶴田)なら最低でもこんな感じにやってみます」という程度のものですから、かる〜〜いノリで紹介しているのです。当然もっと凝ったことをやることもあるワケです、いずれ私の作品も御披露しましょう。
さあ、しゅっぱ〜〜〜つ! (いつものごとくドリフの探検隊風に)
■ 表面板を削る(より鳴らすために)
表面板の厚さは古来より様々なものがあるわけでして、薄いものは1mm程度、厚いもので3mm なんてのも見たことがあります。問題は薄くすれば必ずしも「良い音で鳴る」というわけでは無いということでありまして、弦楽器全般でいえることですがボデイのサイズや形状、弦長やブリッジ・サドルとのバランスがとれている必要があるわけです(と、私は考えている)。
表面板の厚さを決定するのは表面板自身の堅さや重量(比重)やしなやかさ等の状態によるわけでありましてタッピングしながら厚さ調整する例を多くの製作家が行っております。私ももちろん弦楽器作りでタッピングすることはありますが、正直なところ「こういったふうに削れば良い」といったチューニングのセオリーを確立しているわけではありません。むしろバーを接着したりボディと組み上げていく作業の段階でコンコンやりながらおおまかな傾向を探りつつ作業しているのであります(修理も含めて扱う楽器の種類が多いのでカンに頼ることも少なくないです)。組み上げてしまった後からブリッジの素材を変えてみたりすることもあります。
まあ、面倒だなぁ..という方はこの行程は省略していただいても構いません。義務ではありませんし、極端に削りずぎると逆効果で鳴らなくなったり、作業を乱暴に行うと薄い板は亀裂を生じやすいのでくれぐれも御注意・御検討ください。でもやっぱり薄く削ったほうが音は良くなる傾向があります。でも壊しちゃったらモトもコもありません。でもやっぱり人より鳴らしたい....。でもやっぱり......。
・さっそく...というわけで部屋の片隅に置いてあるクマラエ2号の板の厚さを測ったところ、いちばん薄い箇所(部分的に厚さも同じでない)で約1.2mmしかありません (^_^)....。他のウクレレをあれこれ計ると、おおむね1.4mmとか1.8mmあたりが中心で、厚めのもので2mm程度のものもあるようです。今回のキットの表面板の厚さは約2.2mmでしたので厚い部類です(しかも手に取るとたしかに重い)。作業は最も手軽な方法は「紙ヤスリを角材に巻いてゴシゴシ法」でしょう。今回私は1.4mmまでサンディングしてみました。薄くしすぎるとタッピングしたときにブヨヨ〜〜ンと張りのない音になっちゃいます、私はその手前ぐらいでやめますが、削り過ぎたかな?というようなバヤイはアッパーブーツ(ボディの上部のこと)をバーやハーモニックプレートで締めてやることにしています(あえていえばこのへんがノウハウでしょうか)。ちなみに厚さはタッピングの音で決めることが多いわけでして緻密に厚さを測って均一にするわけではありません。測定器具を使って計るのは板の端部が薄く中心が厚く削られる傾向をチェックするのが目的なのです(私はそう考えてやってるのですが他の製作家は均一な厚さにする例もあります)。
過去にギター製作の記事などでも説明していますが私の場合は表面板の高音側をやや厚めに、低音側をやや薄目に削ります(再三述べていますように、ここにも鶴田の共振点の勾配 第一法則があったりするわけです)。
他にも書きたいことが山ほどありますが表面板だけで1つのコーナーになりそうなのでひとまずこれくらいにして、のちのち補足説明しましょう。サンディングの作業自体は退屈かもしれませんが#80とか#100のサンドペーパーは気が付けば「ありゃ?」というほど切削効果が高いので用心しましょう(経験者談)。ベルトサンダー杉山をお持ちの方は1〜2分削ってオシマイ......但し、サンディングの摩擦熱によって板が反ることがあります(この反りをムリヤリ逆に反るようにアーチのついたバーを接着するのです:私はそうしています)。
■ バーを削る(もっと鳴らすために)
で、そのバーを削ってアーチを付けましょう。この作業はチョコレートのお菓子を食べながら作業するのが正しいのです、推奨は「ロッテ・コアラのアーチ」。まあ、一言でアーチを付けるといってもドームを付けるのとはちょっと意味が違う(似てるけど)わけでありまして、以下に簡単に図に示します(他にもありますが話が長くなるので今回は省略)。スプルースなどのバーを棒材で買ってきてまずは A. のように切り出しますね(木目のとりかたやその他注意点もたくさんあるけど今回はシンプルにまとめます)。キットにも A. の状態で準備されています。一般に「アーチ (arch) 」といえば半円を含めた弓なりの弧を意味するわけですが文字通り B. の形状が弓のカタチをしていることにお気付きでしょう。19世紀のギターにもこういったバーを用いた楽器がたくさんあります。また、ヴァイオリン系の楽器やGibson系に代表されるアーチトップギター&マンドリなどでは厚い板材からノミやカンナでコンモリと彫り出すことによって裏板や表面板に独特のふくらみが形成されるわけであります。本来はこういった彫り出しによるものをアーチトップとかアーチバックと称するのでしょう。が、現実にはバーを弓なりに削っておき、グイグイと板に押しつけて接着すれば B. とはまた異なるリッパなアーチが得られるのも事実であります。 B. と C. とではその楽器を一見すると似たようなふくらみに見えることもありますが木材にかかる緊張のメカニズムが全く異なるのです。
また、多くのギターなどでは C. のようなアーチ(というかドームというか)を持つものが多く、その膨らみの度合いも様々です。
では表面板や裏板にアーチを付けると何がオイシイのか? どんな利点があるのか? 音色はどうなのか? といった疑問が当然のごとく沸いてきます.............。一般に掘り出しによるアーチを持つ弦楽器では深く力強い音が出やすいといわれ、アーチを付けない楽器では音が持続しやすいなどといわれているようです。擦弦楽器と撥弦楽器の特徴に見られるように、あるいはギターとチェロのように、おおまかな特徴を比較してみると何となくうなずける説ではあります。ところが音の鳴りかたと聴こえかたにはもっと複雑な関係があるようで、例えばボディの厚さと遠達性の問題、板の厚さ/堅さと音量・減衰特性の問題、のようないくつものパラメータが組み合わさって1本の楽器の性格を大きく左右していると考えたほうがよさそうです。つまり単純にアーチの形状だけで比較するのはちょっと短絡的であろうと思うのであります。表面板の振動モードは大別して3つもしくはいくつかの組み合わせで発生することが知られていますがバーやブレイシング(ブレイス)でモードコントロールを行う場合........あ、長くなるので今回はここまで。先を急ぎましょう。
で、結局のところ何をすれば良いのか? という話しですが、私は今回ちょっとだけアーチを付けました。最初にアーチの深さの目安のラインをエンピツで引きます。そしてカンナ(無ければみなさんはカッターと紙ヤスリでOKです)を使ってこんな感じに削りました。この写真において左から右へ順に........
C. 裏板上部のバー
B. 裏板下部のバー
D. 表面板のサウンドホール上下のバー
今回あえて表面板には逆アーチを付けます。
バロック期以前からのギターは基本的にアーチがわずかであるか、もしくはほとんど真っ平らなものが多かった(一部ではアーチトップギターやXブレイシングのギターは19世紀以前に、マーチンやGibsonよりはるか以前からすでに存在したようですが)わけですが、同じぐらい重要な構造としてボディの厚さの特徴を挙げることができます。次にこの話をしましょう............(以下へ)。
■ ボディ厚さの調整(もっともっと鳴らすために)
基本的にウクレレに限らずギターもそうですがボディを横からみると側面板の幅は同じではありません、つまり側面から見たときに側面板のオシリの部分の幅とヒール側の幅は同じではありません。たいていヒール側のボディ厚さを狭く、ボディ下部を広くして響く音の高さの幅を広くしているのです(たぶん伝統的にそうなのでしょう)。こういった構造を私は「共振点の勾配」と呼んでいます(鶴田が勝手にそう名付けている)。この厚さにもじつはいろいろありまして.....
a. 裏板が直線的で(つまり横から見てボディが台形)である場合と、
b. 裏板が弧を描いている場合などがあります(他にもある)。
このうち a. は作るのが簡単そうです、 b. は裏板に力を加えて側面に沿わせるのでそこに緊張が発生します。実際の楽器ではこのふくらみの形状や度合いもじつに様々なのです。
補足:ルネサンス期〜バロック期〜近代において平行なボディ厚のギターもあります。19世紀ギターでもラプレヴォットのようなフランスのギター、あるいはウイーン系のギターにもボディの平行なタイプを見ることはあります。
さて、ここでの作業ですが、小さな楽器だと全体が見渡せるので目測でカンナをかけて削っても良いのですが私の場合はギターのような大きな楽器でやる方法と同じ手順でウクレレも作業します。今回はヒール側を約5mm、オシリ側を約2mm程度削ります。まずはマスキングテープでおおむねのカット基準ラインを貼ります。このまま削りはじめるとテープがズレるのでエンピツ(4B以上)でそっと線を引いておきます(これがミソ醤油)。そしてカンナで削りますが、テープとラインはあくまで目安であることを忘れないようにしましょう。のちほどライニングを接着しますので多少浅めに削っておいても良いでしょう。横から見るとこんなぐあいになりました。
■ ネックを削る(も〜〜〜〜っと鳴らすために)
ネックの形状ですが。キットに付属のネック材をサンドペーパーでゴシゴシやる程度でおおむねカタチは整ってきますから、べつにそれだけでも構わないのです。........が、もしネックの重量が重い場合は楽器の重心が7〜8フレット位置ぐらいにきてしまうことがあります。キットというのは梱包されている木材はどれも同じ木材のセットではありませんから、商品ごとにパーツの重量が異なるのはアタリマエなのです。今回、私の購入したキットは過去に入手したもののなかではやや重い部類に入るでしょう。そこで、ヒールとネック部分を削って多少の軽量化とバランス調整を行うことにします。
ハワイのウクレレの起源とされるヌネスや老舗のクマラエ、カマカなどのメーカは様々なスタイルのウクレレを製作していましたがネックとヒールについて注目してみましょう(次の写真のヒール部分に注目)。クマラエ(ヌネスもほぼ同じ)はヒールが大きくなだらかであるのに対して、T.BやMartinは一般にくびれがきつい細いヒールの形状であることが多いようです。以前、全音社ウクレレの担当の方とお会いして話をする機会がありましたが、そのとき、このヒール部分をきつく削ってやると音は良くなるという話をされてました。このことはキットの説明書にも書かれていますね。ちなみに私はクマラエを過去に何本か所有していましたがよく鳴る楽器もあまり鳴らない楽器もすべて太いヒールでありました..........。
この作業はカッターでは困難ですから無理に行わなくともよろしいです。まったくの入門者の方はこの作業はお薦めしません.....。手短な工具で行うならノミを使ってグリグリと削っても良いでしょう、但し、ヒールのカドは鋭いですので手がすべってそのカドでひっかいて怪我をしないように注意してください(写真では撮影の都合上右手しか見えませんがクランプするなどしてしっかり固定し、左手はなるべく材料支持しないほうが安全です、もし左手で材料保持するなら軍手などを着用して慎重に作業しましょう)。この部分をノミで作業するのは危険なのです、むしろ小刀を使うほうが安全かもしれませんが左手の使い方は同様です。私はどうしたかって? こんな便利なモノがあるんですよ。ネックのある楽器の製作には必需品です(南京カンナでも可)。荒削りしたあとに#120程度のサンドペーパーでならせば御覧のとおり。
■ ついでに?指板を.....
カマカ風?の指板は私は決して嫌いではないのですが、どちらかといえばマーチンスタイルも好みなんです。もしあなたが糸鋸をお持ちであればこうやって形状の変更もおもしろいでしょう。私はこういった箇所の細工にはジュエリー・ソウを使います。一般の工作用と違って刃がこまかいので時間はかかりますがきれいに仕上げることができます(これもミソ醤油)。
この項では「下準備編」とか何とかいいながら、マトモにこれらを作業するとだいぶ時間も労力もかかりますね。さあ、お次はどこに手をつけましょうか?...................続きをお楽しみに。
【備考】今回の企画は楽器をいくつも平行して製作しながら、このウクレレキットの製作も同時進行し、なおかつ写真を撮影して記事を書いていますので、細部の文章の手直しなどは後日あらためて行っています。ですから随所に日本語のおかしな箇所や表現が適切でない箇所、あるいは鶴田の睡魔との戦いによる勘違いの記述もあるやもしれません。ご遠慮なく御指摘ください。
みなさん、どこまで進んだかなぁ?
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