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■ ロゼッタへのインレイは準備から
● 私の場合は修理を除いてインレイのような装飾はあまり自分の楽器には採用せず、どちらかといえば地味な外観の楽器が多いのであります。素朴で男らしく、音が良くて弾きやすいのが優先.....とはいえ、見事に飾られたバロックギターの写真や現物を目の前にするとついウットリしてしまう正直な鶴田でもあります。 はっ! ようするに面倒なコトはイヤなワケね、私は?!
インレイといえば皆さんは何を思い浮かべますか? やはりD-45とかMartinの記念モデルのギターでしょうか? イタリア家具の埋木細工、リュートやマンドリンにもじつに素晴らしいものがありますね。弦楽器用のインレイワークは貝を模様で切り抜き、木材土台を彫り込んでそこに埋め込むといったスタイルが一般的です。埋め込んだ貝にさらに模様の彫り込み(エングレイビング)を伴うものもあります。貝のほかにアバロン、アワビ、M.O.P(マザー・オブ・パール)、ベッコウ、象牙、木材、金属、石なども素材として用いられてきました。土台となる木材も指板・ヘッドプレートの黒檀やローズウッド系、あるいはスプルース表面板、ベッコウピックガード、糸巻きの象牙ノブなどが挙げられます。過去にこのクレーンホームページで紹介した記事のなかからインレイの例(だじゃれではない)を挙げてみましょう。どうです、ウットリするでしょ?
ちなみにインレイを螺鈿(らでん)と日本語訳されることもありますが、一見すると同じ貝細工に見えるものの、日本の螺鈿は薄い貝を貼り付けてその周辺を漆で塗り重ねたのち研磨して表面を同一とするようですから必ずしも欧米でいう「インレイ」とは同じ技法ではないようです。
● イタリアをはじめとするヨーロッパの家具・調度品・宝石箱等に見られるインレイワークとそれらの周辺にまつわる文献を見ていきますとなかなか興味深い資料もあり............あ、イカン......さっそく本題から逸れつつありますね.....。軌道修正してインレイの基礎技術をここでは紹介してまいりましょう。技術といっても私に言わせれば慎重に丁寧にやりましょう...の一言に尽きるわけですが、綺麗に仕上げて失敗しにくいコツというのは当然あるわけです。最近はコンピュータ制御の加工機でバンバン量産する例もありますが、ここでは鶴田らしくのんびり手作業でまいります....。
そう、最初はグー....サーチエンジン はGoo、じゃなくて、最初はインレイの準備の話から......なんと気の長いコーナーでしょうか(笑)。インレイのいちばん簡単な例は指板のポジションマークか、もしくはロゼッタでしょうね? ここではウクレレ製作の記事の途中でもありますからサウンドホールの周辺を丸く囲むロゼッタをインレイでやってみましょう。写真で紹介しているのはサウンドホールの溝切り工具である「ルーター」です、もちろんドレメル社製。写真に写っている回転加工用の治具はStewmacで販売しているルータガイドですが、じつはこの治具は回転直径が6cm(半径約3cm)程度であるためにそのままではウクレレのサウンドホールには使えません。伝統的なウクレレの直径は約45mmですから、くり抜きとロゼッタを考慮しても最低直径45mm(つまり半径22.5mm)の円加工が要求されます。
そうです、これの改造が先決なのです。しかしまあ、改造といっても単純で、治具にボール盤で穴をあけてヤスリでならし、ストッパーの限界を拡張してやるだけです。改造の様子はこの写真を御覧ください。
■ ひたすらていねいに....誰にでもデキル(たぶん)
● というわけでインレイによるロゼッタの装飾過程を紹介します。
まず、今回のウクレレはキットですので最初からサウンドホールをくり抜いてあり、円の中心部分がわからない状態です。ですからルータの回転軸を固定するためにダミーの表面板を敷くか、接着する必要があります。私は今回表面板をサンディングして1.4mm程度まで薄くしていますので補強を兼ねてスプルースのハーモニック・プレートとすることにしました。写真のようにスプルースの薄板をカットして表面板の裏に接着します。
そして中心に3mmの穴をあけたのちわずかに拡張してルータの回転軸となるピンを打ちます。あとはルータを回転させて溝を切るわけです。ことのきスリップしないように滑り防止のマットを敷いて作業するのがミソ醤油です。
ロゼッタの溝の幅は手元にある装飾用の材料の厚さにもよります。今回はヴァイオリンなどでよく用いられる「黒/白/黒」を使います。貝は大和マークさんから購入したインレイ材のピースです。実際に溝にあてがって幅を確認してからサウンドホールをくり抜きます。ルータをお持ちでなければデザインナイフや彫刻刀でも可能です。ルータで加工すると溝が直角に素早く彫れるので作業ははかどります。先にくり抜いてしまうと溝幅の調整ができなくなるので注意しましょう(笑)。
今回私が用意した貝のインレイ材料はストレートの短い貝ですが、広く平たいアバロンも入手可能です(ピックガードでも見かけますね)。色ツヤを見ながら必要個数だけ選抜します。天然素材の偶然性を伴う輝きと文様が美しいのであります。
貝材を溝に埋めていきます、このときはまだ接着剤は使わず押し込んでいくだけです。インレイ職人のなかには接着しながらこの作業を行う人もいるようです。私はのろまですからのんびりやります。
高級ウクレレの最高峰とされるマーチン 5K のロゼッタインレイ
を見るとストレートのままで溝にムリヤリ埋め込んでありますが、鶴田の場合は小さな棒ヤスリ(半丸)を使ってストレートの貝材にアーチをつけます。美しく仕上げるためには1個づつの貝を隣にキッチリ詰めてやることと、この扇子状の(あるいは長崎出島状の)形状をしっかり湾曲形状に合わせて削ることです。
ちなみに大和マークさんでは最初からこのアーチのついた貝材も販売されてます、MartinのDなどにはピッタリ合うはずです。まあ、私はいつも作る楽器の仕様が異なるのでそのつど円のRも変わり、こうやって手作業で削ることになるのですけど...。面倒がらずに丁寧に時間をかけて..........はっ! このページの冒頭を読むと、鶴田って面倒なコトがイヤだったんじゃないのか?!
面倒に思うこととニガテであることは必ずしも同じではないのです(笑)。はい、1周分を根気よく加工したらいったん全てを取り外します。この写真のように貝材の順番を間違えないように並べておかないと次の作業で失敗しますぞ! クシャミで吹き飛ばしたらパズル状態で発狂するので要注意です。「黒/白/黒」の巻物も内側と外側では全く長さが違うので注意されたし。
あとは順番に接着剤を充填して貝材を順番に埋めていきます。私はタイトボンドを使いますが透明度の高い合成接着剤(いわゆるセメダイン系やエポキシ系など)でも良いでしょう。 え? 接着作業の写真は無いのかって? 接着剤はどんどん乾いて硬化するのでそんな余裕は無いのです。カメラを構えて露光を調整しているあいだにコチコチに堅くなり木材も水分を吸って膨張するので若干ですが狂いが出ます。じつは今回もちょっと失敗というかマズイ部分があるのです(このページの最後の写真をよ〜〜っく御覧ください)。
1周できたら半日乾かし、木工用のアロンアルファでわずかな隙間を充填してやるのがミソです。
接着が終わって硬化したら(丸一日置きます)、150番〜180番程度の紙ヤスリでサンディングしてオモテ(面:ツラ)のレベルを揃えます。周辺を誤って削ってしまわないように注意しましょう。心配なときはこの写真のように薄いマスキングテープで周辺を覆っておきます。粉塵を避けるためにマスク着用が良いでしょう。
はい、サンディング終了。まだ塗装していませんのでこの写真では色艶がいまひとつですが塗料をのっけると輝きがグッと増すのです。一説によるとロゼッタを埋める溝に前もって銀箔塗料などを塗っておけば綺麗に輝くらしいです。
こちらの写真は照明を変えて撮影したものです。
さきのマーチンのウクレレ5K のロゼッタにも負けません象! パオ〜〜ン!
● というわけでインレイのキホン編はオシマイです。難しくはありませんが根気はいります。私は今回、この作業に4時間半を費やしています。ヘッドや指板のインレイなどもいずれ紹介しましょうね。
あ、.......キット初心者の方々にはこれらのインレイ作業はお薦めしませんが手先が器用でねばり強い精神力をもってすれば初めてであってもうまくいくはずです、がんばってください。
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