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■ 9. 表面板の加工 バーは表面板に密着っ!
正確にいえば表面板や裏板の表面に横切る数本の太い材をバー(Bar)といい、表面板の扇状やX状の細い材をストラット(struts)といいます。これらの総称をブレーシングと呼ぶようです。古来から世界の製作者達はこのバーの配置ひとつに様々な試行錯誤と実験を繰り返してきました。スペインを中心として古来から現代にかけて扇状配置(Fan strutsまたはFun bracing)が広く世界中に普及してきたわけですが、それ以前のシンプルな横バーのみの配置方法が決して劣っているというわけではありません。
さて、オリジナルのラコートの力木の配置にもいくつかのパターンがあるようなのですが私の見たもののひとつは以下のような構成でした。バーを傾けるという意味については高音側の振動特性改善のためと考えられます。ルネッサンスギターやバロックギターなど古いギターではバーは表面板に2本しかないのが一般的で、そのかわり表面板は厚め(2.5〜3.0mmとか)という傾向があります(もちろん他にも例外的な本数や配置もあります)。
さて、ギターのボディのシェイプが円や直方体ではなくひょうたんのような形状をしている理由も表面板が様々な共振を得るためであろうと推測できます。チェンバロやピアノやハープもそうですが音の高さと弦の長さとそれらを鳴らすためのボディ形状とは深いかかわりがあるわけです。
今回製作するギターでは表面板に配置するバーは横方向に4本にしました。さきに準備した図面とテンプレートを参考にして表面板にバー配置の正確な位置を鉛筆でマーキングします。
バーはさきほど若干のアーチを形成して作りましたので表面板との接着は単純に上から押さえるだけでは完全に密着しません。そこで以下のように自作クランプを使ってみました。製作家によってバー接着にはいくつかの方法(Go Barとかウレタンとか型を使う方法とか)があるようです。
比較的短いバーであれば以下の写真のようにL型クランプなどを使ってもいいでしょう、両脇はしっかり密着しないと隙間から湿気が接着剤に侵入して後々のトラブルとなる恐れがあります。
バーの接着では反対側にクランプの跡や傷を残さないように気を付けたほうがいいでしょう。私はコルクを挟んだり右下の写真のように鉄板にテープを貼ったものを挟んだりして対処しています。楽器に限らず木工では接着とクランプは頻繁におこなうわけですからクランプは必需品。また、完成時点で美しく仕上げるには作業中の全般にわたって余計な傷をつけないような工夫が必要でしょう。作業するテーブル上に毛布を敷いている製作家が多いようですね。
接着剤はニカワやタイトボンドを使います。いずれにせよクランプしたらはみ出した接着剤は早めにふき取っておきます(私はそうしています)。接着剤のふき取りは水かお湯に濡らして堅く絞ったタオルがいいでしょう。ティッシュはくっついてしまうのでオススメできません、タオルなら洗って何回でも使えますし....。私は古いTシャツを小さく切って使っています。
バーの接着が終われば乾燥を待って削りにはいります。バーの断面をどう削るかは様々ですがおおむね切妻型が多いです。先端もとんがっていたり丸い場合があるわけですが今回は表面板のバーはオーソドックスな?放物線に似た形状にし、一方の裏板は鋭利なピークを持たせた形状にします。ナポリタンの18世紀〜19世紀初期のギターは一般的にものすごくバーの先端は尖っています。必ずしもなだらかに丸く削るというわけではありません。ミニカンナのほうが楽ですね、この作業は....。
はい、そういうわけで軽くサンディングして以下のように4本のバーができました。
次はバーの両脇にスカロップをつけます。以下のように彫刻刀の平刃か平ノミを私は使いますが小刀でもかまいません。どれくらいの深さと長さに削りを付けるかは法則めいたものを私は知りませんが削りながらタッピング(コンコンと表面板をたたく)しながら響きを感触で確かめつつ削ればいいでしょう(慣れないとわかりにくひ)。私の場合はブリッジ位置を集中的に叩きます。コンコン!.....入ってますかぁ?
このスカロップの形状や長さは楽器の表面板のサイズや素材の種類やバーの材料とサイズ、配置にもよります。そしてこの作業の次はバーの両端を表面板の長さにひとまず揃えて切り落とします。以下の写真ではわかりにくいのですが高音弦側の削り幅はやや少なく、低音弦側のスカロップはやや長くなるようにしています。
全体はこんな感じです。上の2つのバーは指板のフレットの位置に合わせたほうがいいです。そうしないと高音部のフレットを押さえて弾いたときに延びのないつまった音になります。私はハーモニックプレートを貼ることもあります。
楽器が完成してたあとにサウンドホールからミニカンナや小刀で内部のバーの高さを削って変更し、鳴りを調整していく場合も製作家によってはあるようです。