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■ 資料収集・調査 様々なスタイルを知っておこう
時代ごとに活躍したリュート製作家たちや地域によって楽器には傾向や特徴を見ることができます。あなたがどのようなリュートを作りたいかを検討するのであれば写真や図面はもちろんのこと、リュートの世界の全体的な流れをつかんでおいたほうがいいでしょう。これらを理解することで写真や図面には書かれていないこと(バーの配置や材料やリブの枚数など)を知る重要な手がかりになるのです。
【歴史上で活躍したリュート製作家たち】
中 世:中世リュートは現存せず明確に製作家の記名は確認しがたいです.....。中世のリュートはプレクトラム(ピック)でおもに演奏されました。
1414年頃 アムブロウズ・ハイリンヒ・ヘルト(ニューンベルグ)
1427年頃 ビルデル・ホーファー(シュトラスブルグ)
1447年頃 ハンス・マイジンガー(アウグスブルグ)
1523年頃〜1560年頃: ハンス・フライ(ボローニャ)、ラウクス・マーラー(ボローニャ)
マーラーは1527年没といわれており、現存する最古のリュートの製作家でもあります、のちのヨアヒム・ティルケもこのマーラーをコピーした楽器を製作しました。
1580年頃 ティーフェンブルッカー一族(ベニス)、セラス一族(ベニス)、ベネーレ(パドヴア)、ハルトン(パドヴア)、ジョバンニ・ヒーバー(ベニス)、ゲオルク・ゲルレ(フュッセン)、ハルトン、ビューツェンバーグ、チョックまたはコッホ(ベニス)、ライリッヒ(ベニス)、グライル(ローマ)など...。この頃がリュートの歴史上の最も華やかで盛んな時代とされます。しかし、やがてボディはかなり丸っこくなり装飾はハデにロゼッタは伝統的なものでなく製作家が独自にパターンを考案するようになり、そうこうしているうちに1600年代中期にかけて徐々に衰退し、リュート製作の歴史は幕を閉じてしまいます(1640年か1650年頃がリュートの衰退点と考えられます、あ〜〜あ.......)。
注1:ちなみにマノ・ティーフェン・ブルッカーとは商標であって人名ではない。マノとは「偉大な」という意味で、いわばグレートマジンガーZのようなもの。
注2:ちなみにベネーレとはベンデリン・ティーフェン・ブルッカーの製作した楽器の商標であって人名ではない。
注3:ティーフェン・ブルッカー一族とベネーレは親戚関係にあったとされる。
注4:1600年代にはバロックギターも多く作られ、知られるギター製作家としてはマテオ・セラスやジョルジョ・セラス、アレクサンドル・ヴォボアム、ジーン・ヴォボアムなどが挙げられる。
1650年頃 マルティン・ホフマン、ティルケ 他
1650年頃〜1700年代初頭にかけては「リュート界の新人類」の時代といわれています。リュートのスタイルはこの頃から大きな変化を迎えます、つまりそれまでとは別の方向へと向かっていったといわれています。マルティン・ホフマンとその息子、ティルケといった製作家たちはもともとヴァイオリンやガンバの製作家で、かつてのフライやマーラーのコピーモデルを製作しましたが古来からの製作作法とは異なる手法でリュートを製作したために雰囲気がガラリと変わっています。例えばホフマンのリュートは厚いリブで裏面は仕上げておらずロゼッタは小ぶりで専門家のあいだでは全体的に作りが雑とされています。テイルケはテクニカルですがロゼッタやボディは奔放なフォルム。これらの楽器は博物館に残っているので実物を見る機会は多いのですが....。ストラディバリも1650年頃〜後期はリュートを作ったりティーフェンブルッカーの楽器の修復をしていたようです。
1730年頃〜1740年頃 ジャーマンテオルボが登場したのはこの頃です。そして、そののちリュートは本格的な歴史の終わりを告げます。
【地域や時代に見られる傾向】
16世紀後半(1550年頃まで)活躍したマーラーやフライはいわゆるボローニャ派と称されます。特徴としては細身のアーモンド型ボディでロゼッタが小さめ(高音域が鋭くなる)。おおむね深いボウルなので多少暗い音色と堅い音。全体的にクールな?雰囲気の楽器。マーラーはおもに9枚または11枚のリブのボディ。フライは11枚のリブの楽器が多く6コースの楽器のみを製作したようです。この頃のリュートはスペーサが使用されずリブはカーリーメイプルやバーズアイメイプル、タモ(あるいはトネリコ)が使われました。
ボローニャ派
1500年代中期から1620年頃に活躍したティーフェンブルッカー一族やジョバンニ・ヒーバーはベニス派と呼ばれ大型のリュートも作られるようになります。トリプルローズもこの頃からで、リブはイチイが使われることも多く、黒檀のスペーサが用いられるようになります。木目の模様が2色(バイカラー)のリブも使われるようになります。特にティーフェンブルッカーはやや丸みをおびたボディで、ボウルは半円よりも浅いものです。
ベニス派
1580年頃からベネーレが、1590年頃からハルトンが製作した楽器は半円に近いボディ形状で、いわばまったりボウル型。トリプルローズは採用されませんでした。イチイのリブの場合はメイプルのスペーサが使われました。バイカラーのイチイリブも使われましたがその場合はスペーサは使われていません。ちなみにこの頃パドヴァでは長いヘッドを持つリュート(アーチリュートやキタローネ)は作られた記録が残っていません。
パドヴア派
ローマ派 1590年頃から1620年頃にかけてビューツェンバーグやグレイルはローマ派と呼ばれ主に大型のリュートを多く製作していました。アーチリュートやキタローネが歴史上に登場したのもこの頃です。トリプルローズも使われました。イチイのリブの場合はスペーサは黒檀が一般的でした。なお6コースや7コースのリュートは製作しなかったらしいです。
非イスラムスタイル?派 もしくは新ベニス派とでもいうべきでしょうか? これらは明確に年代で分けにくい方々です。1600年頃から1650年頃にかけて製作していたセラス、コッホ(チョックのこと)、ライリッヒたち。古来、ロゼッタは専門の「ロゼッタ職人」に依頼していたと考えられていますが、この頃になると、このニュージェネレーションたちは自らロゼッタの模様も勝手にデザインし自前で彫り抜くようになりました。古来からのユダヤ教的な、ケルト的なデザインパターンに込められた意味は風化し、簡易なパターンが多く見られるようになります。
備考:ちなみにステファン・バーバー氏のホームページによればこのコッホ(チョック)氏は、クリストファー・コックスというイギリス人でセラス(だったかな、チョック、いやチェックしてみて)の工房に入り、娘と結婚することによりギルドに入ることを許され、親方になった、とのこと......。
【製作する楽器を選ぶにあたって】
●6コースリュートを作るなら
現存する楽器を採寸した図面が入手できますのでグレートマジンガー...... おっと、マノ・ティーフェンブルッカー(弦長640mm程度)の図面やゲオルク・ゲルレ(弦長600mm程度の図面)のテナーリュートなどがいいでしょう。あとは絵画や個人蔵・博物館蔵の写真をもとに自分で作図するという方法もあります。参考までに、公立博物館の楽器は商用目的での採寸は原則としてできません、従って完成した楽器も販売するとロケットパンチをくらいますので注意してください。
●7コース、8コースリュートを作るなら
ベネーレ、ヒーバー、ハルトン、ティーフェンブルッカーなどの図面が入手できます。G.A.Lにはこれらの図面や季刊誌に写真もあって参考になります。
●ルネサンスとバロックの楽器は様式や作法がまったく異なり、いわば別モノと分けて考えるべきです。
●一般にリュートやバロックギターでは「重量の軽いのが良い楽器」といわれた時代があり、今でもその傾向があるようですが、必ずしもそうではないようです。セオリーにのっとって製作すると楽器の重量は軽くなることが多いものの、完成したいくつかの楽器を並べて重量で比較するというのは評価方法としては間違っているということです(1970年代ごろには盛んに軽さが競われました)。ギターでもリュートでもネックやヘッドの材料や構造によって重量を重く作ると音の延び等に影響しますがむしろボディとのバランスが重要と考えるべきでしょう。
その「伝統的ロータス1・2 ・3ロゼッタ模様」はこちらでダウンロードすることができます。これもまたMacintoshとアドビ・イラストレータによって描かれたものです。みなさんがロゼッタを彫る際には自分で描かなくてもここからダウンロードして印刷すればすぐに使えるというわけです。