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 資料収集・調査   リュートのサイズ

 

リュート製作のおおまかな歴史やスタイルはご理解いただけましたか? できれば弦長や弦の増加及びボディ形状の変遷を詳しく記したいところですがそんなことをやっていたら22世紀がやってきてしまいますから後に譲るとして、なるべく最低限知っておいたほうがいいことを優先して説明していきましょう。ここではひとまずリュートのサイズとかかわりの深い「音域別の楽器」について紹介します。また、今回は小型ボウルバック楽器を製作するわけですからそれによく似た楽器などについても調べてみることにします。

 


【まずはリュートの音域別分類】

リュートは16世紀初頭に最初のリュート出版物が登場するまでのあいだに弦の張り方や調律の点でかなり標準化されていました。つまりG,c,f,a,d',g'の調弦法で、一般に古楽の世界ではリュート調弦とよばれておりルネサンス期の調弦とのちのバロックリュートの調弦とはまったく異なります。リュート最盛期には音域別にサイズや弦の数の異なるリュートも多種にわたって製作され、リュートのみのアンサンブルも盛んに行われていました。例えばオクターブリュート(ソプラノリュート)、ディスキャントリュート、アルトリュート、テノールリュート、バスリュート、オクターブバスリュート。その他にも長いネックを持つリュート族の楽器としてはアーチリュート、テオルボ(キタローネ)がありました。

小型のボウルバック族の楽器としてはマンドリーノ(マンドーラを起源とする)、特殊なものとしてはアーチ・マンドーラといって7本の付加バス弦を持つ小型のアーチリュートも存在しましたが分類上でややこしいものも少なくありません。もしあなたが大きな楽器を製作する場合は出口の扉から楽器が外へ出せるかどうか?車に乗せて運べるかどうかも検討したほうがいいでしょう(笑)。事実大型リュートは宅配便で送れないと考えたほうがよく自分で手荷物として電車やマイカーで運ばねばならないこともしばしばあります。今回製作するのは音域的にはテナーに対して1オクターブ高い(弦長も半分ぐらい)のでオクターブリュートに近い小柄な楽器です。

 

・オクターブリュート:弦長約300mm  (テナーに対して1オクターブ上:ソプラノリュート)

・ディスキャントリュート:弦長約440mm

・アルトリュート:弦長約580mm

・テノールリュート:弦長約610〜670mm (フツ〜にリュートといえばコレ:テナー)

・バスリュート:弦長約780mm

・オクターブバスリュート:弦長約940mm  (テナーに対して1オクターブ下)

・テオルボ(キタローネ):最低音部の弦長約1300〜1800〜?mm

 

 


 

さて、つぎにマンドリンのようにリュートと混同されそうなボウルバック楽器について考えてみますが広範囲に民族楽器等を含めていくと莫大な数になりますのでひとまずオクターブリュート、ディスキャントリュート、パンドゥリア、コラッショーネ、アンジェリックなどの楽器に注目してみましょう。マンドリーノ(マンドーラ)、コラッショーネ、アンジェリックについてはジェイムズ・タルボットの文献に説明があります。マンドリーノやマンドリンに関する文献ではオクスフォードから出版されている「THE EARLY MANDOLIN」があります、私は紀伊国屋BookWebで見つけて購入しましたが、まだ全てを訳していないのでいずれはそれを参考にこのホームページの説明も更新していこうと思います、ご了承ください。

 

 

オクターブリュート

テナーに対してオクターブ高い。弦長300mm程度で1580年にベネーレの製作した4コース7弦の楽器が残されています。全長40cmほどの細身のカワイイリュートです。G.A.Lの季刊誌のバックナンバーに写真も掲載されています。

 

ディスキャントリュート

ディスキャントリュートは現代のクラシカルマンドリンよりもやや大きめのサイズです。ボウル自体は近代のマンドリンほど極端に深くはありませんしリブの厚さもかなり薄く、従って重量も現在のモダンなマンドリンの1/3〜1/2程度です。複弦で7コースなどが一般的で図面も入手可能です。

 

マンドリーノ(マンドーラ)

マンドーラは特に重要な楽器で少なくともその原型は10世紀以前にまでさかのぼるといわれます。小型リュートを指すマンドール・リューテ(mandore luthee)からゆえんする名称で、イタリア綴りのmandoraを基本としてフランス綴りのmandoreなどと表記されていますがラテン語名でテストゥード・ミノール(Testudo minor)と表記されることもあったようです。トゥリシェによると元々はマンドーラにフレットは無くのちに9つのガットフレットが付けられたとのことです。弦もメルセンヌの「宇宙のハーモニー」の挿し絵に見られるように4本の単弦が当初は基本とされていたようですが、のちにリュート族楽器の普及に伴い5番目や6番目の弦が追加されたと見られています。メルセンヌが4本の単弦を持つ楽器をマンドーラとして描いたのに対して、プレトリウスは5コースの楽器(c,g,c',g',c'' 及び c,f,c',f',c'')をマンドーラとして描いとしているようです。16世紀頃からボディは次第に細くなっていったようで楽器もいくつか残されており特に17世紀のイタリアでは広く普及していた弦楽器のひとつといえます。17世紀初頭にはさらに低い音域のそれが作られたために従来のマンドーラはあらためて「マンドリーノ(ちいさなマンドーラ)」と名前が付けられたという説があります。私も自分で説明を書いていて混乱します(笑)。

次の写真は博物館にあるバロックマンドリンで1735年製作のマンドーラ(展示ラベルはパンドゥリーナとなっていますが本来はマンドーラ)です。同写真右端に半分だけ写っている古典マンドリン(4コースナポリタンマンドリン)と比較するとサイズも丸みもボウル深さも弦の数も異なることがわかるでしょう。

 

パンドゥリア(パンドゥリーナ)

さて、パンドゥリア(パンドゥリーナ)ですが、プレトリウスはこう書いています「パンドゥリーナはg,d,g',d''の4弦を持つのが普通であるが、一部のパンドゥリーナは組の複弦をもっておりコートの中に入れて容易に持ち運ぶことができる。」さらに記述によるとこのパンドゥリーナは指でもプレクトラムでも演奏されたということです....。主にフランスで普及し舞曲や歌曲が一般的に演奏されたもよう。う〜〜〜んこれだけでは判断の材料は調弦とおおむねのサイズしかありませんね。もしマンドーラと前記のパンドゥリアが並んでいたら当時の人々は外見のみでは判断できなかったかもしれません...。このへんのことに詳しい方がいらしたら情報をください。

 

 

コラッショーネ

コラッショーネ(colascione)はフランス語でコラッション(colachon)と呼ばれたロングネックでボディは木を半分にしたものと羊皮紙の表面板を持ち24のガットフレットが巻かれていました。ナポリで作られた初期のコラッショーネが現存しますがそれは1535年製作となっています。まあ、これと現代のマンドリンを間違う人はいないと思いますがボディはかなり深く、ネックも長いところがどことなくサズに似ています.....。田代さん、そう思いません?

 

 

アンジェリック

アンジェリック(angelique)は別名アンジェリカ(angelica)、つまりエンジェルリュートのことで長いネックに2つのペグボックスを持ち16本または17本のガット弦を持つもののようです。ダイアトニックで調弦され演奏は容易だったもよう...。あいにく今回は写真(図版)は入手できなかったのですがティルケ作による装飾のハデなアンジェリックが現存します。

 


いちおう、マンドリーノを製作するにあたって似たような楽器との区別というかかかわりなどはこのように調べておくことで一安心というか落ちついて(無理矢理自分をナットクさせて?)取り掛かれる鶴田なのでありました.....。このへんの歴史的な話は緒論あろうかと思いますので上記内容は現時点のものと解釈して読んでください。追加情報や修正などが生じましたら逐次更新してまいります、お手柔らかに頼みます......。

 

 

 

 


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