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 資料収集・調査

リュートマンドリーノ古来のマンドリンモダンマンドリンの違いを探りどうしてマンドリーノが忘れられていったかを考察する。あ〜〜長いタイトル

 

さて、現時点で区別が不明確にされていると思われる「リュート」と「マンドリーノ(マンドーラ)」と「古来からのマンドリン」そして現代の「モダンマンドリン」とを明確に分類(あるいは同じモノ?)できないものかとあれこれ調べてみました。違いや特徴などに焦点をあててみます。そして、なぜマンドリーノがマンドリンにとって変わっていったのかを私なりに考察してみました。結論から先に書いちゃいますと以下のとおり...。

 

マンドリーノはマンドーラを起源とするリュート族の楽器

古来からのマンドリンは1700年代末(1800年前後)ごろには多様化していた。

現代のモダンマンドリン(というべきか?)は1800年頃にヴィナーチャによって開発されたまったく新しい楽器。

大音量のために考案された金属弦のモダンマンドリンに人気が集中したために音量の小さいマンドリーノは忘れられていった。

ガット巻きのフレットや木ペグの扱いが一般には敬遠され、やがてバーフレットや金属フレットへ移行した。

 

さて、以下のアヤシイ「鶴田論」の内訳を御覧ください。

 


先のページでも紹介したようにボウル状のボディを持つ小柄な弦楽器はヨーロッパにおいて10世紀ごろから様々なものが見られ、12世紀にはすでにマンドーラ、またはマンドル(マンドラ)と呼ばれた楽器は存在したようです。パンドゥーラとかパンドリーナと呼ばれた楽器が同時代には存在したようですが非常に類似していたような記録が残っています。果たしてパンドリーナがマンドーラと同じものを指していたどうかは疑問ですがむしろ同じ楽器であっても地域によって別の名前で呼ばれた可能性もあります。古来から17世紀頃までの小型リュートとマンドーラの共通点はボウル状のボディ構造、複弦(古いマンドーラには単弦有り)、ネックジョイント位置(9フレット)などです。逆に当時の小型リュートとマンドーラの違いはペグボックスの付き方で、ネックから延長されたようにほぼまっすぐにヘッドが付いているものがマンドーラ、対してほぼ90度近くまで角度が付いているものをリュートとして分類するという説があります(次図)。もっともリュートにはくねったヘッドを持つ大型のリュートもありますが長台形の箱形のヘッドが一般的と考えてもよさそうです。楽器辞典によってはヘッドの形状で大型リュートを分類しているものもあり、くねったヘッドを2段、3段連ねたものがテオルボで真っ直ぐで長いヘッドがキタローネだといいます............あっ、さっそく抗議の電話が鳴っているようです。

しかし、当時すでに似通った楽器はいくつか存在していたようで鶴田の解釈混乱に拍車をかけます。ヘッドの角度や形状についても類似したものは多く、さらに時代とともに改良が行われたために過去の楽器の分類が不明瞭になっていったことは容易に察しがつきます。ときとして小型リュートや古来のマンドリンが一般の演奏家や民衆にマンドリーノ(マンドラ)と混同されてきた可能性は高いといえます。現代ですらモダンマンドリンとリュートの区別は一般には混同されているでしょうし...。

 


 

リュートは時代とともにペグの数も増え、原則として複弦であったため調弦に多くの手間を要し、大型化してからは持ち運んで弾くには不便なものとなりました。さらに追い打ちをかけるように難しい曲も多く出現したこともあわせて考えれば衰退したのもうなずけますし、その後の歴史を見ると小柄でシンプルな楽器、あるいはピアノのように容易に演奏できる音の大きな楽器が普及していくことからも理解できます。多くの弦と長い弦長は多彩な表現とひきかえに一般の音楽愛好家を遠ざけ一部のマニアのものになっていきました。リュートはそうして一時は人々の記憶から完全に忘れ去られましたが、ようやく20世紀ごろから古楽器の復興運動とともに一部の研究家などから見直され、最近でもセミナーや演奏会、出版や楽器の製作、教室といった復興・普及活動が盛んになってきています。小型リュートは現在においてはディスキャントリュートが比較的お目にかかりやすいのですがオクターブリュートはまず見かけることはありません。

 

マンドーラ(マンドリーノ)は12世紀以前から存在した楽器で、バロック後期まで6コース複弦として奏でられたためにバロックマンドリンとも呼ばれます。そして1700年代になってもこの楽器のための曲が書かれたりしていましたが18世紀末には単弦化(この時点ですでにリュートではないという説もありますが)され、ミラノ式マンドリンと混同・同化されたあげく、近代においてほとんど忘れられてしまった......のではないかと私は推測しています、あくまで個人的憶測ですが....。マンドリーノはその多くが細身で小柄にしてボウルも浅く、重量もおそらく300g程度以下のものが一般的だったと考えられます。1700年代初期〜中期にかけてはベッコウや象牙の装飾化が進み現在残されている楽器も一般的に演奏された楽器というようりは飾っておくための?豪華な特殊な楽器がほとんどとなっています。いくつかの博物館でみかけることができるようです。

 

マンドリンという「名前」は17〜18世紀にはすでに見られますが、果たして当時の民衆にマンドーラや小型リュートを明確に区別されたていたかという点についてはちょっと疑わしいです。1600年代中頃から1700年代末のヴィナーチャ登場までのあいだにイタリアにおいてはナポリ式、ローマ式、フィレンツェ式、ミラノ式など地域ごとのマンドリンスタイルが多岐にわたって存在したようですが当時どのような定義付けで分類されていたのかは難しい点が多いといえます。現代において分類の基礎(それぞれの特徴)とされているものを以下に記しておきます。今でこそヴィナーチャが参考にしたのはナポリ式マンドリンであったといわれていますが、それのみの特徴をたんに拡張して製作したのではなく当時存在した様々なタイプのマンドリンについて検討した結果ではないかと私は考えています。現代ではレコードやCD、楽譜、曲集では日本語訳されるときにマンドリーノ(Mandolino)を「マンドリン」と書いてしまっているものがほとんどです。また、余談ですが言語的に見るとMandolinの複数名詞は通常はMandoliniの女性名詞ですが、使い方によって男性名詞になるときMandolinoになるとのことです、こうなってくると収束しませんね........ややこしい。

 

現代のマンドリンつまり現在広く普及するモダンマンドリン(という言い方が正しいかどうかはわかりませんが)は1800年ごろにパスクアーレ・ヴィナーチャ(リゾっチャみたいな名前だな)がナポリ式マンドリンを改修し、4コース8弦*1でヴァイオリンと同じ調弦とし、金属弦を張り、高音域のフレットを延長したものが直接の起源とされています(私の調査ではその父であるGaetanus Vinacciaによって4コース鉄弦マンドリンが以前に製作されている)。パスクアーレ・ヴィナーチャは古い楽器を参考にこそしたものの結果的には従来のものとはかなり構造も性格も大きく異なる楽器になりました。特筆すべきは真鍮弦から鋼鉄製の弦を採用し標準化したことで、これは当時普及しはじめていた大規模なホールでの演奏において必要とされていた音量の改善などに応えてのものだったと思われます。現在のコンサートなどでよく見られるモダンマンドリンはイタリアのヴィナーチャ、エンベルガー、カラーチェといったイタリアの御三家マンドリン製作家によってその原型が確立されたといわれています。今でこそそれらの楽器はオールドマンドリンと呼ばれています。

*1:ちなみに現代のマンドリンオーケストラなどで見られる4コースの各種サイズのマンドリンのうち、中音部を受け持つマンドラ、そして低音部を受け持つマンドセロ(mandolo-celloチェロ)、あるいはマンドローネ(mandolone*2)などは近代に開発されたさらに新しい楽器であって14世紀ごろから存在したマンドーラやリュート族の楽器とはまったく別物です。これらのモダンなマンドリンの楽器編成にならって20世紀中期からクラシックギターの世界でもバスギター、ギタロン、ソプラノギター、チェンバロギターといった音域ごとの新しい楽器(合奏用ギター群)の開発と命名、編成がなされました。

*2:マンドローネという名称の楽器は1700年代後期にイタリア南部に存在しましたが、ボディサイズもやや大きく現在のような4コースではなくたいていは6コース〜8コースの複弦だったようです。

*3:現代の演奏家や収集家のあいだでは1800年代にマンドリン製作家御三家時代に製作されたものをオールドマンドリンと呼び、それ以前のマンドリンはアンティーク、または古楽器の部類と考えられているようです。

 

 


 

【マンドーラ(バロックマンドリン含む)と各種マンドリンの見分け方】

 

マンドリーノ(マンドーラ):

6コース複弦で(g−b−e'−a'−d''−g'')または(g−b−e'−a'−d''−e'')に調弦するリュート族の弦楽器。1〜3(4)コースまではガット弦で、4(5)〜6コースは巻弦。全コースはユニゾンで調弦し、場合によってはリュートのように4(5)〜6コースをオクターブで調弦したもよう。1コース目のみを単弦とすることもあります。ひまわりの種のような細長いボデイ形状が多く見られ、後期のものほどヘッドはくねっているものが多いようです。右手の指、またはプレクトラム(ピック)で演奏されます。11世紀にはすでに存在したともいわれますが14世紀初期には4コース単弦の楽器をマンドーラとした挿し絵が残っており、少なくとも18世紀初頭までの長期にわたって6コースの複弦が一般的であったもよう。なお、近代になって当時のマンドリーノを3本弦で束ねた4コース=12本に改造?してしまった楽器も時折見受けられます。ネックとボディのジョイントは一般的なリュートと同じ9フレット位置が基本。

以下の写真は1700年代に製作されたマンドーラではリブやペグまで象牙でできているものもあります。A.ストラディバリ*4もいくつかのマンドリーノ(マンドリンも?)を製作していますがおおむねボディは細めで縦に長く、弦の数も様々.....。

 

*4:ヴァイオリンはAmati一族によって1500年代に現在のヴァイオリンの原型を作りました(Andrea Amatiやその孫であるNicora Amatiなどが大家)。A.ガルネリやA.ストラディバリ(1644?〜1737)はNicora Amati(1596〜1684)の弟子であります。

 

 

 

ミラノ式(ロンバルディア)マンドリン:

丸っこいボディで6コース。後期型は6本の単弦で調弦がヴァイオリンと全く異なります。6単弦の場合は3本はガット弦、3本は絹糸を鉄線で巻いたもので(g−b−e'−a'−d''−g'') に調弦すると記録にあります。ネックとボディは7フレット位置ぐらいでジョイントされその結果ネックは短くなります。指板は表面板より高く接着されているのが普通。ドイツ式のマンドリンはこれに近いですがボディはかなり真円に近いです。右手の指、またはプレクトラム(ピック)で演奏されますが現在ではほとんど見られず.....。ジェノバでは12弦(6コース)の広い指板を持つマンドリンが1700年頃にはすでに製作されており、そのヘッドにはペグが垂直に12本刺さっていますがボディのフォルムは現代のように丸っこいものです。なお、イタリアで作られたミラノ式マンドリンのうち、ヘッドのくねった一部の細身のマンドリンをフランスではパンドリーナと呼んでいた可能性が大きいです。ドイツ式のマンドリンはこれよりさらに丸みをおびた半球に近い形状のボデイが一般的だったようです。

 

 

 

ナポリ式マンドリン:

おもにボディは丸っこく、ヘッド部分から糸巻きの棒が垂直に飛び出していて、その棒に開けてある穴に弦を差し込んで巻きつけるタイプ。金属弦の複弦を 使いヴァイオリンと同じ調弦でプレクトラム(ピック)にて演奏されます。1700年代のナポリ式マンドリンは10フレット目でジョイントするのが一般的(以下の写真はGaetanus Vinacciaによる1798年製)。フレット数は当初は10程度だったと考えられますがのちに拡張され15程度に.......現代のマンドリンはさらにフレットが追加されています。指板は表面板と同じ高さのものが普通。ボディは時代とともに大音量を求められリブは厚くなりボウルも深くなったために現代のナポリ式マンドリンは800gを超えます、スチール弦を使いA=445Hzで演奏されることも珍しくないようです。

 

 

ローマ式マンドリン:

現代にも多く見られるタイプで一見すると上記のナポリ式マンドリンと同じに見えます。おもにボディは丸っこく、ペグボックス(ヘッド)は彫り抜いてあって現代のクラシックギターと同じように弦が巻かれたもの。金属弦の複弦を 使いヴァイオリンと同じ調弦。 プレクトラム(ピック)で演奏されます。これも時代とともに大音量を求められ現在ではリブは厚くなり重量もマンドリーノの4倍程度。特徴はナポリ式マンドリンとほぼ同様(上記参照)。

 

 

 

フィレンツェ式(フローレンス)マンドリン:

弦は単弦の4コース。高音側から2本目までがガット(ナイロン)弦、3本目と4本目の弦が金属の巻弦。ヴァイオリンと同じチューニング。指、またはプレクトラム(ピック)で演奏されますが現在ではほとんど見られません。

 

 


【さらにやっかいなネーミングが....】 

 

現代においてマンドリンの名称をさらにややこしくしちゃったのがブルーグラスです。その大罪?の多くはGibson社によってなされたと鶴田はにらんでおります。例えばマンドセロと同音域のフラットマンドリンに「テナーリュート」と命名したり(おひおひ)、複弦のマンドリンにフローレンスシリーズと付けてみたり.....歴史的に見るとGibson社の命名法では構造や調弦などの関連は全く見られません。たぶん他にもGibson社にはアヤシイ命名楽器が多くあるのでは? もっともこれらはフラットマンドリンとしての名称ですから現在ではたいていの方が認知していることだとは思います。ブルーグラスの世界の方々はちゃんと区別されていると思います。しかしGibson社が今後ボウルのマンドリンを製作し、大普及したら!?...........う〜〜〜ん?? 私はブルーブラスやGibsonの楽器自体は大好きなんですけどネーミングはもちっと考えてほしいですねぇ....。

 

 


 

● え〜〜〜〜、以下になんとなく年表的にまとめてみました。参考程度にとらえてください。

 

あっ! いつのまに「日本マンドリーノ協会」が!?

ああ.....長々と書いてしまいましたがこの記事をどなたかマンドリーノの専門家の方がお読みになって御意見をいただけるかもしれません...と期待しつつ.....。誤りや勘違いもあるかもしれません、お気付きの点は遠慮無くメールにてご連絡ください。

さあ! 今こそマンドリーノを製作して、それらの歴史的な名曲を弾いて楽しもうではないかというわけです!(と、あとから取ってつけたような理屈をこねる鶴田....)。そうです、頼まれもしないのにここに「日本マンドリーノ協会」の発足でありますっ! パオー〜〜ン!パオー〜〜ン!パオー〜〜ン!(三連発)。そして昨夜、「日本バロックギター協会」も設立を決意しましたのでここに宣言...え?そういうコーナーぢゃないって?

 

本ページの歴史的解説にあたり、石崎様、フィオレンティーノ石田様、はじめ国内外の各種関連ホームページのお世話になりました。また、いくつかの博物館目録、オークションカタログはじめ、黒沢隆朝著「世界楽器大事典」、ダイアグラムグループ編「楽器」、中野二郎氏著「いる・ぷれっとろ」などの文献より引用、参照させていただきました。国会図書館ではコピーサービスのお世話になりましたが肝心の文献名を記録するのを忘れました、あまりに多すぎてここに具体的な書名の記載が少ないことをお詫び致します。国会図書館もなんとかしてほしいもんです......あれじゃ戦争です、落ちついて読めませんよ、プンプン! おっと2000年1月5日の朝刊に国会図書館がインターネットで写真やテキストとして文献の検索ができるようになると報じています.....期待してます。

 

 

 


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