Concept-8 製作過程 その3
LastUpdateSunday, 10-Mar-2019 23:00:18 JST 
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- My original concept model -
Made by Makoto Tsuruda in 2019.


2019年3月2日公開:最新更新日Sunday, 10-Mar-2019 23:00:18 JST


 

CRANE コンセプトモデル 2019
  前回(その2)に引き続き第三弾です

 

【その3】



さて、コンセプト8 の製作記事の三回目です。
昼のシゴトのあまりの忙しさに連日帰りが遅いので、ここ2週間ぐらいは製作がストップしています(#繁忙期ともいふね)。
毎年12月ぐらいから5月までは昼のシゴトは繁忙期なんです。2月から4月は「超」がつきます。ワカイ頃は夜中の12時に帰宅しても2時間や3時間は製作やら修理やらをやって、翌朝は6時に起きて出勤していましたが、さすがに寄る年波には勝てませんな。土日も出勤、たまの休みに製作がはかどるかと思ったら、このところなぜか葬儀が続いたり国内や海外からのメール対応やらで時間を取られっぱなし(面白い質問とかにはつい返事も濃くなって時間をかけてしまう)。それでもホームページは定期的に更新しようと努力はしますが、こういう人が早死にするんですな。毎日が電池切れな感じです ....

で、製作は止まったままですが記事は続きます。写真と記録は撮り貯めてあるので以下つらつらと書くことにします。
(#実際の進捗に記事が追いつきそうで困るねぇ ..... )

 

裏板はシープレスの3ピースです。本黒檀のスペーサ入り。一般的な2ピースじゃないところが通好みなんです。
しかも今回はメイプルではなくシープレス。
切り出して接ぎ合わせまでの作業は長くなるので割愛。ここでは厚み調整のカンナをかける写真を掲載しておきます。右下に見えるのがマグネット式のシックネスゲージ。
シープレス(糸杉)は樹種としてはヒノキに近いため独特の香りがします。削るほどに心地良い。このままずっと死ぬまで削り続けたい ......
西洋では棺桶にも使われていますね。私も死ぬときはスペイン産シープレスの棺桶がいいなぁ。でも、それが叶うとしたら火葬する直前に棺だけ盗られるんでしょうねぇ ... 稀少材ですからな。

 

ネックは自分で作ったもの以外にプレメイドもストックしています。昔入手したネック材などあれこれ工房から発掘。スペイン式、ドイツ式、アコギ用、18世紀スタイルとか、いくつか作って工房の片隅に保管してあったりします。いちばん手前のネックはホセ・ラミレス I 世の忠実なコピーです。マホガニーのネックは今や高級品になりつつあります。

 

今回はマホガニーのネック&ヘッドを使いましょう。エボニー(黒檀)やカーボンの芯材は使わず、アジャスターロッドも無し。
ネックを重くしない方向で、プレーンな造りで参ります。ここではセドルを芯材として埋めていますが、ポプラやペア、リンゴ、ライムなどを使うこともあります。

 

 

一方のボディはサイドシームの接着。写真に写っているように細長くてクサビ状に広がっています。セドルをカット&整形していますが、伝統的なスペインギターではチューニングフォークスタイルといって表面板側に溝を切るものもあります。
ボディ周囲には木型が見えますが、赤い矢印の先に木片が挟まっています。これはボディシェイプの修正用。木型を使わなくてもギターは作れるのですが、描いたシェイプからごくわずかに変更したい場合にはこういった方法も有効です。ほんのちょっとでも印象はだいぶ変わります。

 

この日はやっと終日フリーな休日。あれこれ雑用も多く、連休なんて年に数回しかありません。困ったもんです。
幻の「連休」では作業がはかどります! 写真はペオネスを側面板に接着している工程です。ウチの工房ではサイズや樹種の異なるペオネスを造り貯めてあり、製作や修理でいつでも使えるようにボトルに保管してあります。あとで表面板を膠で接着したあと、再圧着するときに霧吹きで膠をゆるめるので、ここではタイトボンドを使います。ニカワと比べてタイトボンドは接着がゆるむまでの時間が長いので時間差を利用して作業がしやすいワケですな。これもあとで紹介しましょう。

 

2つのサイドサウンドホールのエッジの補強材を接着しています。これは低音側。
左下に移っている高音側補強はこのあと接着しまする。

 

 

あれこれ部材を同時進行で作業しているので話が飛びますが、こちらの写真は裏板にバーを接着しているところです。
バーの接着方法は地域の伝統や製作家によっていくつも方法があるので、これが正しいとか良いとか悪いとかいうわけではありません。これは底に養生した角材(必要に応じてこれにもRを付ける)を敷いてクランプを掛けています。写真では隠れて見えませんがバーの両端もクリップで挟んで圧着してありますから最低4ポイント加圧してます。

 

裏板の3ピースの接ぎ部分を柾目のシームで補強します。端材を使うこともありますが、ここでは表面板用のジャーマンスプルースから切り出しています。
今回のConcept8 では重心を右手寄りにしたいので裏板を厚めに設定しています。

 

 

これもドイツ松のランバーからバーを切り出しているところです(表面板用)。糸ノコ盤がフル稼働しますな。

 

いよいよトップ材のブレーシング工程です。前もってカンナをかけて厚みを調整しておきます。表面板の工程は長くなるので途中は割愛。

 

ここで工房クレーンのオリジナルブレイシングを試すのですが、手始めに黄色のマスキングテープでレイアウトのパターンをいくつか試します。
貼ったり剥がしたりしつつ、ブリッジは弦長を変えた場合も想定して配置を変えてみます。
そうなんです。今回のモデルでは一般のギターに見る表面板中央のサウンドホールがありません。

一般的なギターでは表面板の中央にサウンドホール(響孔)があって、その補助的な意味でサイドサウンドホールを追加するのが世間で見られるスタイルなのですが、鶴田の場合は目的が異なります。表面板のブレーシングが自由に設定できるという理由で採用しました。

 

メインのバーと Xブレイシングのバリエーションを思案中。タッピングしながら接着と切削を続けます。試行錯誤の楽しい時間です。
まだ表面板は側面板と接着していません。このあとブレイスの追加や変更があります。

 

 

【なぜTOPのサウンドホールを廃したのか】

従来の伝統的なギターのサウンドホールは奏者の前方に効率良く音を伝達するがために考案されたと思われますが、その大きな穴がゆえに弦の張力が掛かって表面板の割れを防ぐため太い二本のバーをサウンドホール上下に設置せざる得ませんでした。ルネサンスギターもバロックギターもリュートもそうですが、サウンドホールの上下にはたいてい平行なバーがあります。そしてサウンドホールの周囲 / 左右は何らかの補強がなされたりするわけで ... 。同時にブリッジ周辺のブレイシングはサウンドホール下のバーで遮られるのが一般的。

19世紀のギターや18世紀のシターン(イングリッシュギター)の一部に X ブレイシングが見られることや、Jose Ramirez III 世の片側貫通バーのスタイルにも見られるように、古来から製作家はこの問題に向き合ってきたと考えて良いでしょう。アコギの世界ではXブレイシングはもはやスタンダードと呼んでもおかしくないほど普及しています。製作家達はサウンドホールをどのように避けるか、それに悩まされ続けてきたのだと鶴田は解釈しています。
それで、今回はサウンドホールの呪縛から解放されるべく、表面板の伝統的なサウンドホールをあえて排除したのです。
表面板に穴が無いと前方に音が出ないのではないか?
果たしてそうでしょうか? バンジョーや三味線や太鼓は振動面に穴は開いていません。また、伝統的なサズの表面板にはサウンドホールは無くお尻にロゼッタがありますな。

 

 

一部のプレートにはこっそり署名したりなんかして .... 。200年後に修復されるとき、このプレートはオリジナルか後世の改造か? 研究家達がこれを見れば単純明快な答えが出るでしょう。弦楽器製作家は死んでも革を残すと .....

 

ブレイシングもバーもまだ接着しておらず、この時点では仮組みして置いてあるだけです。

つづきは「その4」にて掲載予定です。

 

 

 

2019年3月2日公開

by Makoto Tsuruta, TOKYO JAPAN.
 
  

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