Copy of G.B.Fabricatore1806
LastUpdateMonday, 29-Dec-2014 04:23:24 JST 
(C) Makoto Tsuruta /
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- Historical copy model -
Made by Makoto Tsuruta in 2003.


 

【写真】

PIC 001 : シマウマのネック
PIC 002 : サドルレスのブリッジ
PIC 003 : 一枚板の裏板
PIC 004 : オール・セラック塗装
PIC 005 : ハーフビンディング
PIC 006 : ペーパーライニング
PIC 007 : バーフレット


 

当時の楽器と今回のコピーモデル製作に関して

さて、2003年はいくつかの楽器を製作したのですが、とりわけこの楽器には強い思い入れがあります。御覧のとおりモダンギターとスタイルがまったく異なるのはもちろんですが一般的なロマンチックギター(19世紀ギター)とも一線を画しているユニークなギターです。ファブリカトーレ一族に関しては当クレーンホームページの研究論文 " Research on Fabricatore family "を御覧いただけますと、ワタクシの熱い思いが御理解いただけるでしょう。

 

上の写真の右側の楽器が当クレーンホームページの研究記事にも登場するジョバンニ・バティスタ・ファブリカトーレが1806年に製作したギターです。19世紀ギターというより1700年代後期6単弦ギターの創成期にあって同仕様のギターがいくつも見られることから、分類としては18世紀ギターと呼ぶほうが適切でしょう。そして写真の左側のギターが今回私の製作した、いわば右の楽器の復刻版ともいうべきレプリカ(コピー)の楽器です。とくと御覧あれ。外観だけ御覧になると、おそらく「ふ〜〜ん、そうなの」でオシマイかもしれませんが(笑)........ 。


上の写真右のオリジナルのギター、さすがに200年を経過していることもあってメチャメチャに壊れているんです。一見するとごくフツーに表面板の剥がれた楽器なのですが、細部はじつに凝ったつくりのユニークな仕様のうえに過去の修理痕でかなり汚れていて着手した時点では少しパニック状態でした。今回、製作の前段階の調査ではこのボロボロのギターを細部にわたって観察・採寸しました。問題になるのは見えない箇所(ネックジョイント内部やボディジョイント、カバードのヒール内部など)ですが、当サイトを御覧のお医者様に協力をいただきX線写真やCTスキャンを用いて徹底解析することができました。あらためて、この場を借りて御礼申し上げます。また、海外の製作仲間や訪問者からも情報を寄せていただきました。ありがとうございました。ファブリカトーレ・ファミリーの楽器については現在進行形で調査中であり、今回の X線撮影の結果もまじえていずれまとまったカタチで資料を整理しなおしてあらためて発表したいと思っています。

 

ダメージの度合いや修理・改造・再塗装の痕跡などをつぶさにまとめ、材料を調達し........ なにかと手こずって作業が進みませんでした。いざ製作にとりかかっても謎めいた構造や理解困難な箇所も続出し、シンプルな外観とは裏腹に悩む日々が多かったのも事実です。調査開始からまる1年、充実した仕事でした。多くのことをこの楽器には勉強させてもらいました。

今回のコピー楽器はこだわりをカタチにしたつもりです。ヒストリカル・コピーと呼ぶにふさわしい楽器と自負しております。手元に資料が蓄積され、Web上の私のマイナーな論文が評価されつつあるのか? 最近ではファブリカトーレの修復や鑑定に関する相談のメールが海外から多く寄せられます。同時に未確認の楽器の所在が徐々に明らかになり相乗効果をもってファブリカトーレの研究が成果をあげていることに満足しています。永遠に続きそうですが(^_^)......。

さて、以下に今回製作した楽器のトピックスを御紹介しましょう。

 

 


 

今回のコピーモデル製作のトピックス

 

薄い裏板と側面板:一般の19世紀ギターの全重量はおおむね900g前後です。800g以下だとかなり軽い部類で珍しいのですが、写真右のオリジナルのギター、なんと650g程度しかありません(紛失しているブリッジ含まず)。私がコピーできなかった点として重量を同程度にできなかったことです(700gを超えています)...... しかし各種パーツの強度等を考慮して最終的にギターとしてのバランスは忠実にコピーできたと思っています。

表面板と同一面の指板:すでに御存知の方もいらっしゃるでしょう。フランスの19世紀ギターではリュートのような表面板高音部が延長されて指板が9フレットまでしかありませんが、1800年前後のナポリタンは表面板と指板面が同一面という構造でありながらサウンドホールまで指板が至っています。これは製作が面倒で、表面板を指板の形状と同じに浅く彫り、ピッタリ納まるようにせねばならないのです。強度確保も難しいスタイルですが当時のG.B.Fabricatore はじつに合理的な手法でこれを解決しているのです(このへんは面白いのですが長くなりそうなので詳しい話はまたいずれビールでも飲みながら....)。

ペーパーライニング:Fabricatore 一族が製紙業を営んでいたことは研究論文にも書いておきましたが、マンドリンで内部に紙を貼るのと同様にこのギターの内面には紙が貼られています。おそらくは薄い裏板と側面板の強度確保が目的と考えられます。実際には音への影響も多大なものがあるようで、こういったアーキテクチャに基づくギターは今回はじめて製作しましたが、今まで弾いた6単弦としては他のどの国や地域・時代にも無いリゾネーションが得られます。ちなみに紙はレストア専用の液体ニカワで貼りますが紙が吸い取ってしまって早く乾きすぎ、均一に貼るのに苦労しました。紙は水分を吸収すると伸びるのでボディ形状に合わせてカットした紙の寸法が合わなくなり、どうしたものかと悩んでみたり........。

サドルレス・ブリッジ:18世紀以前のリュートやバロックギターがそうであったようにサドルを持たないブリッジで、じかに弦が巻き留められます。このためネックの仕込み角度とブリッジの弦穴の位置は弦高も考慮してじつに微妙な関係を保持する必要があります。

ブレイシング(バー配置):表面板の強度を確保しながら振動を伝える役目です........ が、問題なのは極薄のボディ強度と未知のテンションのバランスをいかにしてうまくまとめるかという点でしょう。なんといってもギターは完成して弦を張って弾いてみないと最適なテンションは見つからないのです。オリジナルと同じ配置・木目方向はいいとしても表面板やバーの柔軟さが同じではないのでバーの高さや峰の長さは検討を要します。まぁ、最後はタッピングしながら「なんとなく」近づけますが(笑)。

ボディシェイプ:コピー楽器の製作というと、似たような木材をもってきて同じ寸法でボディを組み立てて、そこに裏板と表面板を貼ればいいと思うでしょ? 甘い! そこには意外なコトが行われていたのですよ。このギター、表面板の大きさと裏板の大きさがぜん〜〜〜〜〜〜〜ぜん違うんです。また悩む........ 。この理由がわかるまで3週間悩むのでありました。結局、ヒール内部の構造と深いかかわりがあり、それはネックの仕込み角度と表面板の形状とがフクザツにからんでいるのです.......それに確信を持ったたのはさらに4週間後。

音について:一般のギターはある特定のテンションでひとつの共振周波数を境によく鳴ることが多いのですが、このコピー楽器、ごく低い3kg台のテンションから5kg近い高めのテンションまで非常に良く振動します。音量は高めのテンションのほうが増大するものの、音色や和音バランスなどに関してはどんな弦でも敏感に反応するようです。紙の効果でしょうか? わかりません(笑)。ともあれ弾いていて心地良い振動です。

 


製作の流れ

Making 001 : オリジナルの楽器を採寸しつつモールド(木型)を準備します。
Making 002 : 私はバンドソーを所有せず、なんでもかんでも糸鋸盤で切ります。
Making 003 :
シマウマネックの正体はストリップ(脱ぐほうぢゃなくて帯板)。ひたすら切り出します。
Making 004 : 裏板はブックマッチせず大きくてしかも高価な一枚板です。(オリジナルは少々はじっこを接いである)
Making 005 : バーは木目方向にきをつけて、ラフな箇所はラフに、寸法を同じにすればいいというものではありません。
Making 006 : 問題のペーパーライニング。ニカワで接着します。見た目よりはるかに難しい作業です。






Making 007 :
ネックだって糸鋸盤....
Making 008 : ストリップをネックに貼っていく作業です。根気のいる仕事.....
Making 009 : ネックは完成まで結局2ヶ月ぐらいかかりました。
Making 010 :
バーフレットの溝切りです。


NEW!!
後 編

・内部が気になるところでしょう? 紙を貼った(Paper Lining)ことによって音がどう変わるのかも興味深いことだと思いませんか? 過去にこういったギターのコピーモデルを製作した例を知りませんからなおさらです。ワクワクしますなぁ........。





Making 011 :
表面板のブックマッチ
Making 012 : サウンドホールをルータで空けます。
Making 013 :
ヒゲ飾り(Mustache)でもなく唐草模様(arabesque)でもなく。まさに時代の狭間。



・現物があるのならまったく同じ寸法で作ればいい?............. いえいえ、そうじゃないんです。木材は予想以上に収縮します。痩せた割合を検討しながら最終的な加工寸法で製作し、1806年当時に完成した時点での寸法を目指すのです。




Making 014 :
このヒール部分は厄介なんですよ..... とても。でもうまくいくとシアワセ気分にひたれます。
Making 015 :
ボディとネックをニカワで接着してピンを打ちます。角度注意報が出ています。
Making 016 :
唐草模様はいったん塗装を仕上げて接着後にまた塗装してはがしてまた塗ります。




・ハーフビンディングも最近はすっかり慣れまして......... サクサクと作業を進めます。




Making 017 :
エンドピンは小型のもの
Making 018 :
フレットは今回はやや高めにしてみました。



・約200年を経て蘇るジョバンニ爺さんの魂............. うぅ〜〜〜らぁ〜〜〜め〜〜し〜〜やぁ〜〜......(謎)



Making 019 :
塗装途中の写真です。塗装はオリジナルがどういったものか判別が難しく、もちっとアンバーでもいいかもしれません。



 

振り返って

2003 年はこの楽器の製作に没頭しました。多くの時間と費用と労力を費やし、ようやく完成したときは嬉しかったですねぇ..... こう、達成感といいますか、さんざん苦しんだだけにこみ上げてくるものがありましたよ、ホント。このコピー楽器は2003年10月開催のアコースティックフェスティバル(大阪の吹田)に出展しました。なにせアコギ系の展示会のため、こういった復刻モデルのようなものは場違いかと思われたのですが .............. さすが大阪、なかには非常に関心を寄せてくださる方もみえて嬉しかったです。


楽器を入手した当初は単純な作りに見えたのでコピー製作も「楽勝!」....... なんて思っていたのです。何しろこの製作者のおそらくは晩年の作で、お爺ちゃんだから手ぇ抜いて装飾も省いてらくして、とっとと仕上げたに違いないと考えていたのです。

 

 

甘い!
(ヒ〜〜〜!)

 

 

 

 

製作途中で比較のために内部の紙張り(ペーパーライニング)をやめようと思ったのですが、今回調査を続けているうちにペーパーライニングは当時のイレギュラーではなくナポリでは時として製作家のあいだではよく行われていた手法であることを確信しました。ボディ内部に紙を貼ったギターは1785年のG.B.Fabricatoreが現存するほか、なんと1798 にGaetano Vinacciaが今回とまったく同じ仕様のギターをやはり紙張りで製作しています。また、意外にも1785年のG.B.Fabricatore作のギターは1806年G.B.Fabricatore作と全く同じ仕様であり(1806年G.B.Fabricatore作と区別が困難なほど内部も外観もよく似ている)、このことはジョバンニ爺さんが少なくとも31年間同じモデルを製作していた可能性を示唆するものです。

冒頭でも書いたようにこのギターは一見するとフツ〜の仕様ですが、楽器のワカル人が見るとなかなかのクセモノであることに気付くでしょう。深いネック角度、極薄指板、独特のヒール構造、ゼブラのネック(極薄ツキ板)、独特のマウスターシェ、独特のネックジョイント方式、バーフレット、裏板の接ぎ、継ぎ目の不可解なハーフビンディング...... などなど、特筆事項は数限りなく.........。

200年後にこのギターのコピーモデルを作る日本人レア物弦楽器製作家に試練を与えることになろうとは知らず、ジョバンニ爺さんが匠の技をふんだんに盛り込んだのでしょう。いまごろ爺さんは得意気に笑っているに違いありません....... 。

ちなみにGennaro Fabricatore ファミリーの紙張りのギターは現時点ではまだ確認されていません。

 

 


by Makoto Tsuruta, TOKYO JAPAN.
Dec. 13, 2003


 

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