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■ Title: Dancing Begins /
Painter: Franz Von Defregger / Engraver: - / c.1892 /Photograve
● ひさびさに版画コレクションコーナーの更新です。今回はツィター(チター)の登場。
ここはダンス酒場でしょうか。描かれた衣装と帽子に付いた羽飾りからみてチロルの庶民の日常を描いたものと思われます。気の合う仲間が集い、お酒と暖かい料理を囲んで談笑。田舎料理のシチューの香りがただよってきそうな作品です。中央には腕をくんで今か今かとダンスを待ちこがれる地元青年団?の皆さん。そして左のテーブルでは伴奏コンビが最後のセッティング。パイプで煙る店内の右奥には一組のカップルがこちらを見て参加したそうな気配。
表題のとおり期待と緊張が感じられ、まさに今ダンスが始まろうとしている空気を感じますね。ギターは調弦も終わって準備オッケー。相棒のチター奏者は右手でプレクトラムを使って弦をはじきながら左手のレンチで巻き上げて調弦している最中です。楽器や人物のデッサンもなかなかのもので、服のヨレ具合や人々の視線、ポーズなども表情豊かに描かれています。左から光が射していますが、実際にはかなり暗いと思われる右奥の店内の様子までトーンを落とさず巧みな描写です。
もとの絵はドイツ人の画家フランツ・デフレッガーによる油絵。1835年にストロナック(ドイツ)で生まれPilotyに師事し、コロンビアの展覧会で賞を受けたほか、世界中で多くのメダルを獲得した画家です。出版社FRANZ HANFSTAENGL。1892年に刷られた緻密なフォトグレイブ(Photogravure)です。印刷面サイズ 279mm x 209mm
テレビやゲーム機やインターネットの無かった時代。こういった集いの場は現代の私たちが想像するよりずっと貴重な時間だったのかもしれません。アコガレの相手と手を取り合って踊る。きっと出会いの場でもあったのでしょう。皆さん楽しそうじゃありませんか....... ん? でもよく観察すると踊り手の皆さんは早く始めたくてウズウズしているようにも見えます。版画をよく御覧ください。店内のほぼ全ての人の視線を集めているのはツィター奏者であり、彼自身もどうやら必死に調弦を終えようと努力しているようです...... 。