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好評につき「私的素敵頁」コーナーから独立した「弦楽器系歴史的版画の世界」です。じつは近年、国内の訪問者の皆さんだけでなく海外からもこの版画のコーナーを楽しんでいるというお便りが届くようになりまして、それに加えて私のコレクションも熱が入ってしまい(なんでもかんでも熱をあげる体質ナノダ)、結局はこうやって堂々と? CRANEのひとつの独立したコーナーとなりにけりですよ(日本語テキト〜)。
● 私の弦楽器系版画コレクションを紹介しましょう。
■ Lustige Liederd (A Merry Song)
■ Liebessehnen (The Love Song)
■ MEZZETIN
■ Castile
■ LUTHERIE
■ Art study (Anselm Feuerbach)
■ The Rajah's Daughter
■ PEASANTS OF CORDOVA
■ PAYSANS DE MURCIE
■ Luteplayer
■ Apres une aubade
■ エジプトの壁画模写らしき版画
■ バリトン [ビオラ・デ・ボルドーネ(Viola di Bordone)]
■ 蔵書票1:ギターを弾いて歌う天使 / スタニスラウス・クルハネク
■ 蔵書票2:ハープと角笛で歌う天使 / スタニスラウス・クルハネク
■ 蔵書票:酔っぱらった天使 / フランツ・フォン・バイロス
■ 蔵書票:嵐に立ち向かうギタリスト / Gennady Aleksandrov
■ Katherine (キャサリン/じゃじゃ馬ならし) / ウィリアム・フリス
■ Miss Fordyce (ミス・フォーダイス) / ジョシュア・レイノルズ
■ 槍試合シリーズより:「モワ侯 アンリ・ド・ロレーヌの入場」 / ジャック・カロ
■ 槍試合シリーズより:「侍従長 ド・ブリオンヌ伯の入場」 / ジャック・カロ
■ 「貧者のバベル」 1985年 河原田徹 / トーナス・カボチャラダムス
※ 同作家による「BANBOO BABEL」及び「高等御下宿 ピース荘」も併せて掲載
■ 浮世絵 仮題「月琴を弾く女」 明治時代中期 NEW!!
いずれまた気長に紹介していくことにします。
● 版画の楽しみのススメ
美術館や博物館めぐりは大好きで、自分でも幼少期から絵を描くのは好きでした(今でも版画はたまに彫ります)。以下、独断と偏見に基づく版画のたのしみかたを御一読あれ。そして機会があれば身近に絵を飾るという楽しみを味わおうではありませんか。
・版画を入手する:
国内の版画店や画廊や美術関連のお店で直接購入するほか、海外のお店に直接コンタクトをとって探してもらい、購入するというような方法もあります。絵画のなかでも油絵や水彩画などに比べればこういった単色インクの版画のたぐいはかなり安価で入手することができます。
国内のネットオークションでも版画の類は多く見られますが、インクジェットプリンターで印刷したものや工業印刷された画集からの切り抜き、後の時代の複製品といったものも多いので注意が必要です。
できればオリジナル作品を入手したいですな。 銅版画は安価なものは19世紀のオリジナル作品が数千円から入手可能です。
私の場合は「少し状態の悪いものを入手する」ということに躊躇しません。 元々有名な作家の版画には興味が薄いこともありますが、著名なほど贋作/ニセモノもおびただしい数が出回っていますからね。状態の良いものは高額なのは当然。
相場をちゃんと調べることも重要です。ネットオークションに出品されるものよりも画廊で買ったほうが安い場合すらあります。存命の作家であれば作家本人から購入するのが安価で安全な場合もあります。
ドイツのデューラー(木版画・銅版画)とかピカソ、ゴヤ、マティス、ダリ、..... 量産の工業印刷だらけです。安く買えることのほうがおかしいですな。
・版画のあれこれ:
版画とひとことで言ってもじつに様々なものがありまして、原始的な木や石を彫ったり、エッチング、シルクスクリーン、リトグラフ、エングレイビング、フォトグラビュール........。私はこのうちエッチング、フォトグラビュールを好みます。PHOTOGRAVURE
とは語としてはグラビア印刷技術のことですが現代の写真撮影のカタログ冊子とは異なります。ENGRAVINGが細い金属の針などでひっかいて銅板や鋼板に傷をつけて輪郭のはっきりした版とするのに対してフォトグレイブは松脂の粉を銅版に振って粉体の面をなす点が特徴です。スミ部分のグラデーションや淡い描画やぼかしの表現などが活かされます。
エッチング、フォトグラビュール、いずれも版を紙にローラーで押しつけて版の溝にインクをのせて不要な部分を拭き取り、紙に圧力をかけて刷るという点は共通です。多色刷りなら版は複数必要です。当然ながらアミ点は生じません。日本伝統の浮世絵の世界でも絵師、彫り師、刷り師と分業されていたように西洋の版画も原画の作家、彫り師、そして印刷作業は分業されていました。もちろん個人でこの3つをまとめて一人で制作することも可能ですが、作品のディストリビュート / 配給の都合を考えれば分業したほうが効率的で理にかなったものといえます。
19世紀以降の版画は印刷面の余白部分に絵のタイトルと原画の作者名(printer
のように絵の左側に記されることが多い)、彫り師の名前(sc または sculp
あるいは Engraver
などと絵の右側に記されることが多い)、印刷・出版会社などが余白に記されているのが一般的です。刷数が少ない場合はエンピツなどで通し番号が書き込まれていることもあります(近代〜現代の版画に多い)。
・ニセモノじゃないの?:
有名な画家の作品はReproduct(近年の複製品、アートプリント)が広く出回っています。一点モノの油絵と異なり写真製版してオフセット印刷してしまえばいくらでも印刷可能です(ジクレーとかね)。しかし作品には著作権(数十年の期限のある財産権だけでなく永久で期限の無い人格権)があり、PD作品であっても場合によってはイタズラに印刷できません。制作された当時に連番や年号の刷り込まれたものもありますが上に紹介したような小規模作品や単色モノでは直筆サイン入りは限られます。版画は当時まとめて大量に印刷され、保管状態の良いものも多く現存します。今日でも用紙の白い、黄ばみや傷のないものが入手可能です(いわゆるデッドストックは版画ではけっこう多い)。うまく探せばまったく同じ作品を2つ以上入手することすら可能です。私も過去に偶然1844年印刷と1845年印刷の同テーマ作品を手に入れたことがありますしモノによっては3つ同じタイトルを入手したこともあります。まあ、版だけが当時のもので近年刷られたものであったにせよ「当時の絵」の彫りによるオリジナルの版画であるわけです。
現代において写真からフィルムを起こして写真製版で制作した現代の絵ハガキ的複製品(ArtPrint)とは別モノです。もっとも100年以上経過したような歴史的ArtPrintというものも広く存在し、一般にはそれをアンティークプリント(Antique
art
print)と呼んでいます。アンティークプリントの場合は当時の雑誌やグラビア誌などからの切り抜きの場合も多く、裏面に本文の記事が印刷されていることもあります。
多いのが「画集」として制作され、のちに1ページづつを切り離して販売する例。ピカソやミロなどの版画やポスター作品でもしばしば話題になりますが、本来の単独の作品として刷った工房で縮小版を刷って画集にすることも多かったのです。ムルロー工房などが典型ですね。ですから、果たして冊子にしたものには価値が無いのか?といわれると、これがまた微妙だったりします。では直筆サインの有無は?これも本物を保証するとは考えにくいなぁ..... 。最後は信頼できる売り主から購入するとか、自分が納得できるかどうか、ということなのでしょうね。
2008年2月説明追加:
サイズ違いの作品も紹介しておきます。原画やテーマが同じでありながらも版画になってサイズの異なるものを時折みかけます。たとえば私もそういった例のいくつかを所有していますがPRELUDEは好例でしょう。当時も非常に人気の高い作品で、印刷面に原画の画家と彫り師それぞれの鉛筆サインがあります。
背景違い、なんていう珍しいものもあります。ANGIOLINAは描かれている女性はまったく同じでありながら背景がまったく異なります。原画作家も彫り師も出版社も同じですし、印刷面サイズも同じです。こんなものもあるんですね。おそらく当時はこういった背景をあえて様々なものに交換してバリエーションとして販売していたものと思われます。
・なんか変?:
版画と接する機会が増えると、なかにはちょっと変だなあと思われるものに遭遇します。私の場合は弦楽器系の版画が多いのですが、左右逆に楽器を抱えた作品を見かけることがあります。ははぁ〜〜〜ん、左利きの奏者なのかぁ......まあ、たしかに左利きの例もあります。左利き奏者、あるいはモデルさんがギター楽器を弾けなくてテキトーに抱えたらたまたま左に楽器を持っていた....無きにしもあらず。しかし、じつは版画における原画は油絵であることも多く、それを模写して版画とし、刷版(さっぱん)の時点では右に構えて彫られたものが紙に刷られると左利きになるというワケです。デッサン画から直接版画に模写することもあります。現代の印刷業界の「裏焼き」みたいなものですがこれもれっきとした作品であり、こういった左右逆の版画は有名な作家の作品にも見られます。ここに挙げる「リュートを弾くイザベラ/
Isabella Plays the
Lute」ですが左が版画(エッチング)として現存するもの、右側は私が画像処理でミラーリフレクト(鏡像反転)させてみたものです。
注:この絵で弾いているのは表題の「Lute」というよりはロンバルディ(6単弦ミラノマンドリン)マンドリンのたぐい。17世紀〜19世紀中期頃によ見られるスタイルの楽器ですが、これはおそらく18世紀以前の楽器でしょう。
・額/フレーム:
板絵やフレスコ画やキャンバスに描かれた油絵類と違って版画は薄くて保管がコンパクト。必ずしも額に入れて部屋に飾らずに「まくり」の状態で、ファイルして保管しておき、時々虫干しを兼ねて開いて楽しむのもよし。額に飾る場合ですが、私はとてつもなく有名な作家の版画を持っているわけでもありませんし、豪華ロココ調装飾額の似合う住まいでもありませんから、一貫して地味でシンプルな額を好みます。様々なサイズの額が安価で市販されていますので絵のテーマ、マットの色、お部屋のカラーなどと照らしてコーディネートすればいいでしょう。ときどき風通しを兼ねて額を開いて絵を差し替えて楽しむというのもよろしいかと... 。
・マット加工:
飾っておくと、当然ながら陽を受けて、あるいは室内照明だけでも蛍光灯の紫外線によって絵は傷みます。美術館の絵が薄暗い展示室の照明下にあるのも保護のためですね。楽器と違って絵は置いておくだけですから、摩耗したりすることはありませんが(油絵などは剥離・亀裂を生じる)、版画などでは紙がアイボリー風に退色したりホシと呼ばれる点状のシミが生じることがあります。まあ、それはそれで味だと私は考えていますが額に入れて飾る場合はヤケを防ぐため直射日光を避けるように私は心がけています。額に入れて飾る場合、印刷された作品をそのまま額に納めてもよろしいのですがマットで囲むことによってグッと雰囲気が良くなります。
マット加工は比較的大きな文具店や美術用品店で扱っています、私はもっぱら身近な東急ハンズに依頼しています。マット加工と額縁選びを一度にすませることが多いのですが、寸法を測って準備してからお店に出掛けるのは基本。できれば現物を持ち込むのが良いでしょう。印刷面と用紙サイズ、そしてマットの窓サイズ(つまり脇をどれくらい覆い隠してどの程度露出させるか)のバランスが重要です。マットの端部から2cm以上の幅を確保するのが一般的。このとき、なるべく額サイズも窓サイズも大きめにとっておくことをオススメします。従って作品の印刷面のサイズに対してマットや額は余裕をもたせてかなり大きめのものになることが多いです。私は版画の下に小さく印刷された作者の名前・版元の会社名・タイトル、こういったものが見えるように、かなり大きめにマットの窓サイズを設定することが多いです。
● 楽器の登場する版画
星の数ほどたくさんあります.......が、描かれている内容もレベルも様々です。むさくるしいオジさんが、むさくるしい部屋で、むさくるしい仲間と酒を飲み交わし、むさくるしくヴァイオリンを弾いている.....とか、恐ろしく暗く貧しい部屋のなかで、お年寄りがチェロを弾きながらお迎えを待っていている、とか.....一転して、裸体の女性達が天使と共に笛やハープを陽気に奏でている、とか....。テーマもさることながらデッサンの力量の差もまちまち。版画としての彫りの品質や技術的表現法もめちゃくちゃなものから国宝レベルまでじつに多彩。テーマも神話や宗教、説話、図鑑、挿絵、静物、肖像などさまざま。
ギター系の版画は比較的多く現存していますが、シターンやリュートギターのようなものも時折みられます。マンドリンはリュートと混同されていることが多いです。楽器のカテゴリーでは、たぶんハープやフィドル/ヴァイオリン系の描かれた版画がいちばん多いでしょう。もちろん価格もお財布と相談して、その気になって探せば消しゴム級からスペースシャトル級までピンキリ.........。
何がタイヘンか? 過去数百年にわたるおびただしい版画(たぶん数千万点以上)のなかから、自分のお気に入りを探し出すことほど楽しくて面倒な作業はありません。運良く見つけてもサイフが及ばす.....。紙自体の傷みについては目をつぶりますが、デッサン力がイマイチで楽器や奏者の描画が貧弱でガッカリすることもしばしば.....。版画と思って購入し、手元に到着したのは近年の雑誌断片だったとか...... (商品説明もビミョーだったりする)。それにもメゲず、今日も夜更けまで世界中を探し続ける涙ぐましい努力の鶴田でありました....。
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