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■ Title: The Prisoner(囚人) /
Painter: Gerome Pinx /
Engraver: F.Laguillermie / Print:1885年頃 / Publisher:Selmar Hess
NewYork / Steel Engraving
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弦楽器系版画シリーズ2008年の第二弾(2月)は「囚われ人」に登場するサズです。
原画はジェロームの油絵で、おそらくはアラビアンナイトの1シーンをテーマに用いたものでしょう。広々とした湖面の遠景には港町らしきたたずまいがうっすらと霞んで見えます。少し傾いて立つ帆柱と斜めに漕ぎ出したパドル、そしてわずかに手前に傾いて描かれた甲板、絶妙な構図ですね。写真でこういった状況を撮影すると左端のお役人が水平線で首チョンパになったり、櫓が手前に張りだしてウルサク見えたり、甲板が向こうに傾いて囚人の顔が見えなくなったりするのですが、ちゃんとそのあたりも計算されて配置されています。櫓をこぐ2人の肉体や奏者の姿勢など、おそらく原画は高度なデッサン力を持つ画家によるもので、版画もまたそれを忠実に再現しています。波打つ湖面や遠景〜空の表情まで丁寧かつ巧みに描かれていることがわかります。
多くの版画(19世紀以前の書籍も含めて)にはモノクロ及び茶色や紺色の単色インクによる刷りと、さらにそれに絵の具で彩色したものが数多く制作されました。これは濃褐色の単色刷りですが、この版画にもまた別に手塗りの彩色版が現存します。印刷面サイズ218mm
X 124mm
さて、タイトルが示すとおり「囚われ人」が描かれていますが、この人いったい何をやらかしたのでしょう? 両手には板の手錠がかけられ情けない表情の罪人、泣きそうな表情は深い反省の現れでしょうか。左端で杖を持つのは護送するお役人でしょう。2人の黒人が櫓をこぎながらなにやら互いに語っているようです。船尾の男性はまるで罪人の不自由をからかうように楽しげにサズを弾いています.......。