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■ Title: SANTA LUCIA /
Painter: G.L.Seymour / Engraver: R.Taylor / July 18, 1885 London Illustnews /Lithograph
● これまたしばらくぶりに版画コレクションコーナーの更新です。今回はシターンの登場。
原画は G.L.Seymour 氏によるもので R.Taylor 氏によって彫られた版画です。おそらく原画は油絵で、銅版かスチール版へのエングレイビングで版画化されたようですが、これはそのリトグラフ版です。 1885年7月18発行の「ロンドンイラストニュース」誌に掲載されていたもの(というより付録ですね)。やや茶褐色の単色で刷られていますが130年以上経ていることを考えれば非常に状態が良い部類です。
楽器は9単弦?のシターンに見えますが、本来は複弦楽器でしょう。シターン系の楽器は時代や国や地域によって呼び名やサイズ、弦の数、構造、調弦も様々です。現代においてバロック時代以前のオリジナル シターンを目にする機会は希ですが、18世紀末のイングリッシュギターは当CRANEでも幾度か紹介したことがありましたね。現代でもポルトガルギターやアイリッシュブズーキ など、その流れをくむ楽器をみることができますが、日本ではあまり一般的にはなじみが薄いかもしれません。今回の版画に登場するシターンのスタイルは18世紀のイタリアによく見られるもので、ティアドロップ(両肩2ポイント)のフラットボディに鉄弦あるいはブロンズ等の金属弦を張って弾かれたと考えられます。現存するシターンの多くは改造や修理によって装飾ロゼッタ部分が失われていることも珍しくありませんが、ギターやリュートがその昔ロゼッタに革や木の装飾彫りを持っていたようにシターンもまた昔は装飾ロゼッタ(金属鋳物製もしくは木製彫抜など)をサウンドホールに備えるのが基本でした。オシャレですねぇ。
現代のポルトガルギターやアイリッシュブズーキはギターと同様、装飾ロゼッタを持たないのが標準的な仕様となってしまっています。 なんでも簡素になっちゃったんですねぇ.....。
この版画、よく見ると右手のフォームをみるとピック(プレクトラム)で弾弦していますが、ストラップが付いていないので、おそらくこのままでは楽器保持はツライ体勢。小型楽器では右腕で楽器のボディを抱えたり押さえたりして安定させますが、絵のモデルさんは右腕の内側(手首より少しひじ寄り)で抱えているのがわかります。え? ハラでも楽器を支えているように見えるって? レディにそんなコト言うたらあきまへん! バシッ!! 両腕はよく脱力されており、おそらくはけっこうな腕前で弾ける方のようです。
ちょっと話は変わりますが、今日、私は眼科へ行ったんですよ。飛蚊症(ひぶんしょう)ってヤツ。目の前に点とか糸とかクモリがチラつく症状です。ここ数年のあいだに悪化したような気がして、このところ目の疲れも激しいし、ひょっとして網膜剥離か? と、心配になって病院へ行く決心をしたワケさ... 。
様々な検査を終えたあとに、医者が一言「こりゃ老眼ですな」。
おひおひ! 飛蚊症の話じゃないのか? え? 歳とって目玉おやじの中身が縮んだ自然現象だってぇ? これも立派な老化とな? 網膜は問題ないから気にすんなって? はいはい、わかりましたよ。トシをとったのだと自分を納得させながら、特殊な目薬で瞳孔を開きっぱなしにしたままで帰宅したのさ... 。それで、この記事を書いてたら版画に蚊が飛んでいるじゃないか! はっ!? カモメ?
さて、今回も楽器について細部を観察してみましょう。
原画の時点ですでにペグが1本欠落していたのか? 不自然なペグボックスとして描かれています。指板はラウンドしており、サウンドホールまでは忠実に描かれています。おそらくは金属のフレットが打たれていたと思われますが、低ポジションの1fと2fが描かれることなく省略されています。 指板には穴が空いているのがわかりますが、これは当時のカポタスト(T型ネジ付き)用であり、指板側からバーで弦を押さえ、ネックの裏側でネジを締めるというしくみです。ヘッドをさらによく観察すると、少なくとも9本のペグ穴があるように見えますが、ひとまず8本のペグが刺してあります。そのうち6本のみに弦が張られているようです。さらによく見るとストラップと思われるヒモの断片が描かれており、奏者は本来ストラップを付けて演奏していたのかもしれません。彫り師は忠実に原画を再現するのが基本ですので、これらはおそらく画家がデフォルメして描いたことが原因と思われます。
イタリアの田舎町、よく晴れた日、丘の上の井戸端で洗濯していたおかみさんが一休みして一曲興じているというふうに見えなくもないですが、ネックレスやフリルの付いた衣装/身なりからして職業人演奏家にも見えます。おそらく当時の原画を描くにあたって、画家は音楽を奏でる港町の素朴な聖母をテーマとして想定したものの、雇った恰幅の良いお母さん役のモデルはバリバリ弾く達者な演奏家(歌い手)だったとか...... 。まぁ、そんなことを思い描きつつ鑑賞するのもヨロシイかと....。いずれにせよ明るい陽射しがよく現れている陽気な雰囲気ですね。大好きな1枚です。見下ろす背景の港町はやはりナポリでしょうか。印刷面サイズ 228mm x 312mm
● 今日のオマケは次の画像。
この版画には当時刷られた同じ原画のカラー版(着色版リトグラフ)が残っています。このページ最上部のモノトーン版と比較してお楽しみください。