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世の中はとっくに次の時代を謳歌しているのに、鶴田ときたら、わけのわからない理屈をこねては古い時代の遺物に愛着を抱き、奇妙なものや忘れられた古物に興味を示しては、今夜もポチッ!っとやってしまう。まったく反省しない。まったく学習しない。しまいには浪費は甲斐性なのだと自己弁護する。それが鶴田の私的素敵頁。
ジャングルのような連日の暑さにも負けず、しぶとく白熱!ナイス・ペイっ!
■ 今回の私的素敵PAYは「エクサクタ ヴァレックス / Exakta Varex」 1950年 です。
毎朝、愛車Smart で峠道をドライブするのが日課です。
ついでに出勤して窓際の席についたら仕方なくPCの電源を入れて起動を待ちます。あれこれネットワーク経由でロードするので時間がかかります。起動までのあいだ、コーヒーでも飲んでボンヤリ待つとします ... 。
今日は御覧の写真のように鉄製のオモチャを持ち込んでいます(#まったく働く気が見られません)。
What Game Shall We Play Today? チック・コリア&ゲイリー・バートンのアルバム「クリスタル・サイレンス」にそんなタイトルの曲がありましたな。
さて今日は何をして遊ぼうか ... (← #仕事しなさい!)
はい、久しぶりにフィルムで撮影するカメラのお話です。このコーナーでは マミヤ16 AUTOMATIC 以来でしょうか。
カメラや時計の世界を得意とする方々も多いかと思いますが、ここでは初級から中級ぐらいの方々を前提で書いておりますので、「そんなこと知ってるよ」というベテランの方もいらっしゃるとは思いますが、まわりくどい説明をなにとぞ御容赦くだされ。
備忘録みたいなもので、誰かがこの記事を読んでお役にたてれば本望です。
このカメラ、昔の人はエキザクタ、もしくはエギザクタと呼んでいましたが、現在ではエクサクタと発音するのが一般的です。時計の業界でも昔は Vacheron Constantin をバセロン・コンスタンティンと発音して表記していましたが、現在では ヴァシュロン・コンスタンタンと表記するのと同様、現地発音するのが21世紀ということですな。昔は多くを一様に英語読みしていたってコトでしょう。
1950年頃にドイツ・ドレスデンのイハゲー(Ihagee)社が作ったこの鉄カメラ、じつにユニークなんです。
パズル系カメラ、あるいは知恵の輪系カメラと呼んでもよいぐらい操作がややこしい。余計な機能だらけ。わざと間違えやすく作ってある? こんなに頭を使う道具も珍しいです。でも、歴史的な名機のひとつとして知られています。根強いファンも多いのです。
日頃からこれで撮っていればボケ防止になりそうなカメラです。
日頃から都合の悪いことを積極的に忘れる私には必需品になるかもしれません。
※ 以下、写真をクリックすると大きな画像を表示しまする。
【世界初の交換式ファインダー35mm一眼レフ】
ウエストレベルファインダーとプリズム入りアイレベルファインダーをセットで入手しましたが、現代においてウエストレベルファインダー(写真右)を使うことはまず無いでしょう(理由は後記)。二眼レフカメラのように上から下にのぞき込むスタイルは撮影に少しばかりコツと手間を必要としました。今みたいに動画から1コマ抜き出すようなせわしい時代ではなく、1枚づつのんびりじっくり撮っていたのでしょう。写真のとおり、こういった合体ロボ的な作りが昭和の男の子にはたまりません。思わず心拍数が上がります。
キネ・エクサクタという初期のモデルはウエストレベルファインダーが標準でした。後継モデルもたくさん出ましたが、やはりヴァレックス初代のコレが個人的にはいちばん魅力的だと思ってます。
【飛び道具:フィルムカッター】
撮影の途中でフィルムを切って取り出すことができるギロチンカッター付き。エキサクタといえばこれを思い浮かべる人も多いはず。
10枚ぐらい撮影してすぐに現像したい。そんなときはボディ下のツマミをゆるめたのち下に引けば、内部に仕込まれたギロチンでフィルムをカットするという仕組み。
例えば36枚撮りフィルムで10枚撮影して早く現像して結果を見たいけど、まだ26枚以上が未撮影 .... そんなときに重宝します。フィルムがまだ貴重だった頃に考案されたのですが、今となっては再びフィルムは貴重なものになってしまって再び脚光を浴びて .... いると思うのは私だけでしょうか? 御覧のとおり奇妙なギミックでしょ? でも、昭和の男の子はこんなの見ちゃうとコーフンして血圧が上がります。
撮影するに従ってフィルムは右から左へと巻き上げられていきます。通常は左側に巻き上げるスプールが付いていますが、かわりに空のケース/パトローネ(マガジン)を入れてフィルムをくわえさせておけば、数枚撮影したあとに日中でも途中でカットして取り出せます。左側が通常のスプール(巻軸)の場合は暗室かダークバッグで撮影済みフィルムを取り出します。
【超スロー/ロングシャッター】
スローシャッターが右側のサブダイヤルで設定できます。スローシャッターといえば 1/15秒とか 1/2 秒(0.5秒)ぐらいまでが一般的ですが、エキサクタの場合は2秒とか6秒とか10秒とか1秒刻みで12秒まで設定できます。スローというよりロングシャッター。つまり花火の撮影で8秒間シャッターを開けておきたい場合などに重宝します(# バルブ撮影Bがレリーズ不要ともいえるね)。なお、この超スロー設定機構は一般的なギア式スローガバナではなくゼンマイ式です。
ただ、ちょっとややこしいのはセルフタイマー(一定時間経過してシャッターが切れる)の機能と兼ねたダイヤルになっているので、時々頭が混乱します。
【非常に使いづらい】
独自の操作体系です。慣れればどうってことはないさ!? でも、しばらく使わないと忘れる。だからこのページに備忘録として書いておくのです。
使いづらいことが最大の特徴のカメラ。たった1枚撮るのにも頭をフル回転させて設定することになるので、ボケ防止には良いカメラだと思います(# 2回言った)。
さて、使ってみましょう。戦車のようなゴツイボディは製造から68年を経ても快調です。過去に幾度かメンテナンスされているようです。フィルムの装填までは一般的な当時のカメラと同様です。
フィルム巻き上げはシャッターチャージを兼ねます(#セルフコッキングともいふね)。巻き上げレバーは右側ではなく左側についていて、左手でレバーを約300度巻き上げねばなりません。1回じゃ指がまわりきらないので2回きざみで巻き上げる必要があります。3回でもいいけど。
高速シャッター速度はダイヤルを引き上げて矢印方向に回転させながら1/25秒とか1/500秒に合わせて落とします。
シャッターボタンは右手ではなく左手で押します(しかも軍艦部の上面ではなくボディ前方に突き出した構造)。レンズのピント合わせも自然と左手になります。あとはレンズの絞りを選び、焦点を合わせてシャッターを押します。もちろんオートフォーカスや手ぶれ補正なんかついてません。気が緩むとあっというまにピンボケ、手ぶれの写真を量産してくれます。
右手はいつもヒマですが、セルフタイマーを使うときと超スローシャッター(1/10秒〜12秒)を設定するときだけ右手を使います(すごく重いゼンマイを時計方向へ巻き上げねばなりません)。あまりにも重いので最初は壊れているのかと思いました。私の個体だけではなく基本的に重い構造なのです。
・スローシャッターの設定方法:
左のレバーでフィルムを充分に巻き上げ、その隣にある高速シャッター速度ダイヤルを引き上げて矢印方向に回転させながら T (Z)に落としてセットしたのち、右側のタイマーダイヤルを力を入れて時計回りに巻き上げたのち、引き上げながら黒文字の1/5〜12秒に落としてセットします。そしてシャッターロックを外してシャッターボタンを押せば数秒間シャッターが開いて1枚撮影完了。
なお、黒文字はスローシャッターで赤文字はセルフタイマーです。スローシャッターとセルフタイマーを1つのダイヤルが兼ねているので、間違えないように。
・セルフタイマーの設定方法:
セルフタイマーをセットするには左のレバーでフィルムを充分に巻き上げ、その隣にある高速シャッター速度ダイヤルを引き上げて矢印方向に回転させながら好みのシャッター速度(1/25秒とか 1/500秒とか:TやB以外とする)に落として合わせます。次に右タイマーダイヤルを力を入れて時計回りに巻き上げて、引き上げながら赤文字の3秒とか6秒に落としてセットします。そしてシャッターロックを外してシャッターボタンを押せば数秒後にシャッターが切れて1枚撮影完了。みんな、ちゃんと付いてきてる?
なお、超スローとセルフタイマーが有効になるのは1回の撮影のみ。毎回超スロー撮影したい場合や毎回セルフタイマーを使いたい場合は上記の操作をそのたびやらねばなりません。そのたび設定しないとシャッターボタンを押して指を離すとすぐにシャッターが降りてしまいます。ちなみに強いゼンマイを使ってあるために、正しく整備された状態でもたまに噛むことがあります(異常ではありません)。そんなときは巻き上げが不充分な場合が多いです。ひとまずシャッターを切ってしまって、再トライ。無理に超スローダイヤルを回すと壊れる恐れがあります。
最大12秒もの超スローシャッター(ロングシャッター)は顕微鏡撮影や資料複写のために装備されたものと思われます。昔はフィルムの感度が低かったので絞り込んで長時間露光する必要があったのですな。フィルム巻き上げが左に付いているのも顕微鏡台に設置することが前提という説があります(すごく力が必要なので右利き前提とした説も有り)。
露出計は付いていないので明るさは自分の目が頼りです。このカメラに限りませんが昔のカメラにはメーターが付いていないのでまさに「野生の勘」で撮影します。
そのときの環境光を見てレンズの絞りと本体のシャッター速度の組合せをそのつど手作業で設定します。よく言えば、「写真撮影の醍醐味」です。もちろん背景色等の条件によっては露出補正も必要ですが、それも経験則です。心配なときは段階露出(明るめ/暗めで数枚撮る)ですな。
さっそくモノクロフィルムを入れて撮ってみました。使用フィルムは FUJIFILM NEOPAN ACROS 100 です。
ウチの冷蔵庫に10年ぐらい 放置 ... 厳重な管理下で保存され、使用期限の2011年をとっくに過ぎていますが問題無く使えます。
数枚を撮影して場所を変え、さらに撮影しようとしたら ... ん!? シャッターボタンが押せないっ!
はい、これは誤操作防止のカバーが降りた状態で、自分でかぶせておきながら自分で忘れるんですね、これが。
昔はキャップを付けたまま撮影したり、フィルムが入っていない状態で撮影したりと、今では若者たちに話しても信じてもらえなくて笑い話にもならないことがよく発生したものです。撮影終了後に巻き戻さないで裏蓋を開けちゃうことも珍しいことではありませんでしたな(笑)。昔はレンタカーでクーラー付きは料金が割高だったと話しても、いまどき誰が信じようか ....
フィルムの全てを撮影して終了。さてフィルムを巻き戻そうとしたら ... ん? 動きません。今度は何だ!?
シャッター速度設定ダイヤルの隣にクラッチボタン(リリースボタン)があって、それを押しながらボディ右底のツマミを回せば良いハズですが、空回りして巻き上げられません。う〜〜〜ん、.....
じつは右底のツマミの中央がボタンになっていて、これを押し込むことで巻き戻しが可能となります。第2クラッチです。これをやらずに巻き戻そうとするとフィルム(パーフォレーション部分)がバリバリと音をたてて破けます。
まるでパズルです。プリズムファインダーで撮影していてもこんな調子ですから、これをウエストレベルファインダーに交換すると左右逆像で見ながら撮影することになります。ふだんおとなしい人でも発狂するに違いありません。
とにかく予習をして試験用フィルムを入れて動かしてみたり、事前に訓練しました。
露出に関しては単独の露出計を携行して1枚づつ測りながら撮影すればいいのですが、今回は野生の勘です。
そりゃ〜〜もちろん、私のような天才写真家はめったなことでは ....
露出設定は合っているはずなのですが、クセの強い操作体系に慣れず、加えて現像液も慣れないヤツ(ADOX FX39)を初めて使ったので大失敗!
しかし、スキャンしてみると個人的には気に入ったので「朝イチの幻想」と立派なタイトルを付けて悦に入り .... 上機嫌。
他のコマには多重露光は無く、全体的にかなり濃いめに現像しちゃったのでした。何が悪かったのか考えます。呆け防止にこれ以上のものはないでしょう。 (#また言った)
さて、気をとりなおして翌朝フィルムを入れ再トライです。撮影ののち、現像液も1+9ではなく 1+14で希釈して氷で20度に保ち、今度は完璧。
ネガもコントラスト良く焼けています。露光については鶴田の野生の勘は間違っていなかったのです。野生の照明/証明ですな。
フィルムで撮る写真 ... ハマりますな ...
撮影したフィルムを現像して定着・洗浄し、吊して乾かしていると ... 私には版画づくりの感覚が蘇ります。
作例でもわかるとおり、シャープな描写です。私の腕が良いのではなくレンズを作った人がエライのです。
レンズはカール・ルイス製、100mを10秒で走る人が開発しました ... (ウソ)。
1960年代前期のカール・ツアイス・イエナ(Jena)による設計の50mm F2.8 です。レンズ構成は1902年に開発されたテッサー/Tessar 型です(#カール・ルイスはまだ生まれていません)。
第二次世界大戦によってベルリンの壁で分断されたドイツ。西ドイツは Carl Zeiss Opton(カールツァイスオプトン)、そして東ドイツはCarl Zeiss jena(カールツァイスイエナ)になりました。このレンズは Jena の刻印があるので東ドイツですな。Φ のようなマークはこの時代特有で東ドイツ人民公社(VEB=VolksEigene Betriebe )の刻印。
1990年にはドイツ再統一で分裂していた両者も合体(オプトンがイエナを吸収)。しかし、今でも東ドイツを意味する Φ マーク、 Jena、aus、DDR の刻印のレンズは多数現存します。おかげで価格もだいぶこなれてきました。
シャッターボタンを半押しすると絞りが連動するので被写界深度(ピントが合う距離範囲)を確認しながら撮影できます。今となっては 市場では5000円程度の安価なレンズですが「鷲(わし)の目テッサー」とツアイス社が宣伝していただけあって非常にシャープです。ヘリコイドもスムーズでピント合わせも楽です。カメラ本体側のファインダー内にわずかに傷が有りますが撮影には影響せず、レンズやミラーやプリズムが綺麗なので思いのほか快適に撮れます。
最短撮影距離 50cm とあって結構寄れます(1960年代後期のゼブラ以降は最短撮影距離は35cmになる)。
今回の例ではカメラが1950年頃に、レンズは1960年代に作られたものです。マウントは発表当時は独自のエクサクタマウント。すぐに世界中でエクサクタは人気を博し、トプコン / マミヤを始めとする他のメーカーの多くがエクサクタマウント方式のレンズを採用しました。
■ 今日のPAY
というわけで、今回の私的素敵頁です。1950年頃に作られたエクサクタとファインダー2つとテッサーのレンズのセット。多少のクリーニングと調整は自分でやりまして、全体的に良い状態にあります。
2009年8月に購入。そう!かなり前に入手していたのです。忙しくていじるヒマもなく10年過ぎるのか?という今頃になってようやく楽しんでいるワケで ... 。
15,500円
貧乏だった若い頃にはとても手が出なかった夢のような歴史的カメラが今ではかなり安価に入手できます。(#果てしなく処分価格なモデルも多い)
ある意味、デジタルカメラの普及のおかげでもありますな。
あとはフィルム代とか現像液の費用が少々かかります。むしろ近年はこちらが値上がりして心配なのですが。
ウチの冷蔵庫にあったフィルムを見ると2008年か2009年に購入したもので当時は400円ぐらいでしたが、2018年8月現在は1本で 1050円です。
ちなみに富士フィルムは写真用フィルムと印画紙の製造を今年限りでやめてしまいます(#ずっと作り続けると言ってたハズなのだが)。2018年4月製造中止、10月出荷停止だそうです。
手元で現像しない場合はフィルム現像とスキャンとCDに焼くサービスも安価で普及しています。カラーネガフィルムだと1本300円ぐらいですが、モノクロフィルムだと1本700円ぐらいで少し高いです(2018年8月現在)。しかし白黒フィルムを受け付けてくれるお店はだいぶ減ってきました。
私の場合はフィルムで撮影して現像まで自分でやりますが、プリント(紙に焼く)はやらずにパソコンでスキャン。それをPhotoShopでゴミをとったりして補正しながら画像を出力して保管し、一部はWebで公開。といった流れです。
プリントをやるとなると機材や印画紙などの調達や管理もさることながら、鶴田の場合は何百回でも焼き直す性格だと自覚しているので、あえて手を付けません。廃液処理の問題もありますが、近年では eco・proシリーズのような環境に優しい薬品も売られています。昔とは変わりましたな。
じつは今回のカメラは売却するつもりだったのです。
譲渡するなら正確に状態を説明したほうがいいし、なにより実写の作例を見てもらうのがいちばんだろうと考えて、フィルムを入れてみようかな〜〜〜〜なんて忖度したのが間違いの始まり。
撮っては現像して、ギロチンでバッサリ切って、また撮っては現像して....
いまやパズルを解くような操作にも磨きがかかり、呆け防止には良いカメラだと思います。 (# 5回言った)
・エクサクタ(Exakta ) :Wikipedia
・エクサクタマウント :Wikipedia
・テッサー(Tessar ):Wikipedia
・カール・ルイス:Wikipedia
記事:2018年8月1日
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