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● ほとんど鶴田のマイブームを公に向かって強引に紹介しているコーナーです。
さて、今回の「私的素敵頁」はデッカイ掛時計を紹介しましょう。その昔、私の実家(九州)にはゼンマイ式の柱時計がありまして、黒い箱形の大きなケースは居間の柱に堂々と掲げられ毎週ゼンマイを巻いては振子をコチコチ鳴らしながら時を告げていました。私の幼少期にはまだテレビも電話も無い時代(というか田舎)でしたからこういった機械モノには一種のアコガレのマナザシでウットリしながらアリガタク使っていたものです。どうして休まずに時を刻み続けるのか当時の鶴田少年は不思議に思ったものです。たぶん今の30代以上の世代のみなさんは幼い頃ほとんどゼンマイ式の柱時計だったかと思います(そうですよね?)。
柱時計(掛時計)は当初8日巻きといって巻いたゼンマイが1週間駆動するものが広く普及していましたが、やがて30日巻きというような長い駆動のものも開発され、全国へひろまっていきました。クオーツクライシスを迎えるまでのあいだは、どこの家庭でもゼンマイ係というのが決まっていたものです(たいていこういった重要な任務は長男の仕事)。考えようによっては毎週ゼンマイを巻くのが面倒ですが、30日巻きは便利そうに見えてかえって忘れられることもしばしば.......1ヶ月後のある朝こっそり時計が止まっている........そのおかげでお父さんは何回会社に遅刻したことか......思えばのんびりした時代。家庭用の掛時計は多くが細長い箱形でしたが、駅や役場や公民館や学校に行くとそこには丸くて大きい、堂々とした時計が掛かっていたものです。私も子供ながら「ああ、僕は一生かかってもあんな立派な丸い時計は家に置けないだろうなぁ...」なんて羨望のマナザシでながめていました(はい、ここで「ニュー・シネマ・パラダイス」風の回想シーン)。
当時は時刻を告げる音からボンボン時計と呼ばれていて1時間ごとにその「時」の回数だけゴングが鳴ります(3時なら3回、11時なら11回てなぐあい)。これに加えて半時打ちという機能が付加されたものはさらに各時の「半」つまり30分ごとに1回ゴングが鳴ります。ゴングは金属棒を蚊取線香のように渦巻きにしたタイプや真っ直ぐな金属棒といったタイプが一般的です。子供の頃、夜中に眠れないときは柱時計の時刻を告げる音が布団の中でやけに気になったものです。
日本に掛時計や柱時計が伝わったのは明治時代といわれており、当初はセス・トーマス社(アメリカ:メトロノームでも有名)やユハンス社(ドイツの老舗)のような輸入に頼っていました。やがて国産の掛時計は名古屋を中心に長野(諏訪)などで急速に発達していきます。今回紹介しているこの丸時計は明治末期に国内で製造されたものですがマークが見あたらないので明確にメーカーがわかりません(やはりこんなところでも怪しいものを好む私)。ケースの裏に墨で明治の年号(贈呈年月日)が書かれており、間違いなく明治末期のものです。古いものですがゼンマイを巻いて振り子の長さ(振れ周期)とボディ自体の掛け角度(傾き)を調整するとけっこうな精度が出ます。
木製のボディ(ケース)は非常に良いコンディションで木目が深い味わいを出しています。ハンド(針)も当時のオリジナルで遊びは少なく、さびてもいません。この時計は滋賀県のアンティークショップからインターネットを経由して購入したもので、すでにオーバーホールされ調整済みの状態で購入しました(ぬわんと!おまけに1年保証まで付いているのだ)。このコンディションで価格はというと14000円。東京都内や近隣の専門店もだいぶ前から探し求めていたのですが、コレは都内の相場よりもはるかに安かったのであります、嗚呼! 私的素敵Pay!
そうそう、音の話をしましょう。私の周囲の人々に「振り子時計」の話をして気付いたコト.....。ゼンマイ式の掛時計は基本的に振り子と脱進機で歯車を回転させるためコチコチと音を発しているわけですが、この音、男性には心地よく感じて女性にはうるさく感じるという傾向があるようです。ウソだと思ったらお試しあれ。この駆動時のコチコチ音(正確に表現するならこのタイプの時計はコチカチというべき)は時代とともに抑えられ、だいぶ静かになっていきます。購入をお考えの方は外観や機械の傷み具合でけでなくゴングの音色やコチコチ音もチェックされたし....。
■ 写真1:時報と駆動はもちろんゼンマイ
2つのゼンマイが内蔵され、文字盤の穴からゼンマイ軸を巻き上げます。向かって左側が時報のゴング駆動用で、向かって右側が時刻指示の駆動用ゼンマイです。どちらも内側に向かって巻くのが一般的です。私は毎時のゴング音は嫌いではないのですが夜中にトイレに向かうときに鳴るとビックリするので現在のところ左は巻かずに右側のゼンマイだけ巻いてゴングは鳴らないように使っています。振り子はボデイの内部にぶら下がっているので外からは見えませんが、機械装置として考えれば長方形の箱形の柱時計と同じしくみです。
■ 写真2:ペイント文字盤とオリジナルハンド
ガラスの風防は真鍮のリムで固定され、ほとんど無傷できれいなものです。文字盤もオリジナルのペイントで、描きなおしたものではありません。丸時計が欲しくてだいぶ前から柱時計を物色していましたが、状態と値段のバランスの見極めにはちょっとした迷いが生じます。ケースの傷や文字盤の状態、針のラフな度合いやコチコチ音で状態がおおむねわかります。壊れても古時計を扱うお店ならたいていなおしてくれます。ご安心あれ、製造から約100年経過してもまだまだ使えますぞ。文字盤は磁器のものや金属板にペイントしたもの、あるいは紙に描かれたり印刷されたものなどがあります。こういった時計のローマ数字のインデックスは一般的には4時に相当する表示が IV ではなく IIII である点に注目。
■ 写真3:堂々とした風格(デカい.....)
御覧のとおりかなり大きなものです。そのサイズは直径410mm x 厚さ105mm。木製のケースは年代のわりに綺麗で亀裂や傷もほとんど無くツヤも残っています。私は毎週土曜か日曜日にゼンマイを巻き上げる「儀式」を行いますが約7回転ぐらい巻いてやると7日巻きですが約9日間は動き続けます。ゼンマイは最後までトドメを刺すごとくギチギチに巻かないのが長持ちさせるコツです。まあ、ゼンマイが切れても修理できますけどお爺ちゃんですからヤサシク扱ってあげましょう。ちゃんと面倒をみてやればいつまでも動き続けますし、逆にほったらかしにするとやがて止まってしまいます......時刻合わせも針をぐるぐる廻して合わせるだけ(デジタル時計みたいにたくさんのボタンで迷うことはない).....このフクザツな現代社会においてなんてわかりやすいヤツなんでしょう! ビデオやパソコンもこれくらい単純に操作できればいいのに。
クオーツ時計が世の中に普及すると人々は面倒なゼンマイ巻きの儀式から開放されました(長男はゼンマイ係を解雇されたわけだ)。しかも電気の時計は精度がぐっと向上したためにお父さんも遅刻の回数がぐっと.....減ったかどうかは不明ですがひとまず正確な時計がアタリマエの時代がやってきたのであります。現代では数千円で電波時計(電波少年みたいで私はこの呼び名が好きではない)なるものがディスカウントショップで容易に入手でき、JST(日本標準時)の電波で自動補正するため年間を通して理論上の精度は限りなくゼロに近いという時代です(こりは冷静に考えるとすごいコトだぞ)。
みなさんは長野県:諏訪湖のほとりの「儀象堂」にある水運儀象台を見たことがありますか? 水力で動く大型天文観測時計塔で、11世紀の中国に実在したものを再現した時計台ですが、気軽に居間に置けないぐらいバカバカしく巨大な、しかし堂々として男らしい時計です。ウットリ度300%といったところでしょうか。もちろん精度は980円のディズニーウォッチ以下.......それでも当時は画期的でみんなが時計塔をながめては鶴田少年のようにウットリしていたんでしょうね。機会があればぜひ諏訪湖畔にて一度現物を御覧あれ、ウットリすること間違いなし!?
http://shinshu.online.co.jp/museum/gishodo/
我が家の丸時計なんてその時計塔に比べれば(くらべるなよ)小さい、小さい.......。私としてはいつも忙しくてあわただしい日常において、さりげなくこういった旧式の(言い方を変えれば恐ろしくアナログな)モノとつき合うゆとりって大切だなぁ......なんて思う今日このごろなのです(まるで自問自答)。私は骨董趣味があるわけではなくデザインや機能といった点でなかなか現代の工業製品や雑貨に気に入ったものが見つからないことが多いのです。自動車や携帯電話や家電製品を店頭でながめていても、カッコワルイとか余計な機能が多いとか使いづらそうとか色がどうもねぇ......なんて......そこでついつい手のかかるアンティークや怪しいモノにひかれちゃうわけですなぁ......ああ、悩ましい私的素敵Pay........。
■ 参考:一般的な箱形の柱時計とその構造
■ 写真その1:これは老舗「明治時計」社の後期のモデルです。文字盤の中央に書かれているように21日巻きです(実際には28日間ぐらい駆動する)。柱時計にはこういった箱形のほかに上記の丸形や八角やダルマ型など各種ありますが特殊なものを除きほとんどの構造は同じと考えてよいでしょう。昭和の時代のものですが、コチコチ音はかなり静かです。
■ 写真その2 / 写真その3:この写真は内部のメカニズムです。文字盤の2つの巻き穴の下にはこのように2組のゼンマイが設置してあります。中央の金属棒(高い音と低い音の2本)が時刻になると叩かれてボ〜〜ンと鳴ります。上記に紹介している丸柱時計のような場合は金属棒がケース内に納まるように蚊取り線香のごとく渦巻き状になっています。
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