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弦楽器工房クレーンホームページの 私的素敵頁 / Shiteki Suteki Pay のコーナー(#備忘録ともいふね)。
地味に好評なのがこの、めんどくさくて楽しい鉄カメラシリーズです。前回のオリンパス・ペンの拡張に引き続き改造第二弾。
■フィルムの端っこの穴まで写るカメラが欲しい
...... というコンセプトでしたな。パーフォレーション愛好会。拡張カメラを作ろうシリーズともいふね(#コロナひつまぶし応援企画と呼んでもいいよ)。
今回の拡張カメラは、ちょっとマニア好みというか、通好みというか、う〜〜〜ん、好みが分かれるモデルです。ワカル人にはワカルというヤツ。
リコー35 デラックス / Ricoh 35 DeLuxe
リコー社の発売した1953年のリコレットや1954年のリケン35の流れをくみます。それらのレンズは三群三枚でした(富岡光学のレンズなので写りは悪くない)。
レンズを進化させ、ついでにイボイノシシみたいにゴテゴテしていたレンズ周りをスッキリさせて登場したのがこのデラックスなのです。
1956年3月に発売された Ricoh 35 De Luxe の初期モデルです。レンズはリケン・リコマット / RIKEN RICOMAT 45mm F2.8
当時としてはやや広角気味でかなり明るいレンズ。富岡光学製の3群5枚の高級レンズでした。シャッターはセイコー社のMX で 1/500秒まで切れます。
しかも二重像合致式のレンジファインダー機構搭載。 距離に連動してピントが合うしくみですな。
このカメラ、改造なんかしなくても非常に良く染ルンです。あ、いや、写るんです。
しかしまぁ、改造してもしなくてもこの写りは変わりません。写り込む範囲が広がるだけですからね。
というわけで作業開始。
分解して整備してカメラとしての全体の機能がしっかり働くことを確認。外観の腐蝕や部分サビなどを綺麗にしたのちマスキングします。
そのあとはヤスリでゴシゴシ ..... ひたすらゴシゴシ ....
このモデルは露光窓の上下のガイドが長い(幅が広い)ことと、暗箱内部に余計な突起などがほとんど無いので拡張するには理想的なつくりです。
ひとまず露光窓を削り終えたら試写。タテとヨコで構えて撮影。もちろん fomapan を使うのでフィルム枚数やメーカーコードは写っていません。
現像した結果を見ながら修正して、あとは反射しにくい黒塗料で切削部分を塗装します。絞りやシャッターや巻上げ、巻き戻しなどカメラの基本機能も良好。
光線漏れやコマ送り間隔も均等で不具合も無く、レンズも健全でまだまだ使えます。45mmはなかなか使いやすいです。
ライカ判の35mmフィルム(135フィルム)ではノーマルだと 24x36mm で写るのが標準的。
市販のフィルムスキャナでスキャンすると上下のパーフォレーションだけでなく左右も若干トリミングされて狭くなります。
なんとなく損した感じです(#私がケチなだけなのか?)。
これをほぼ36x36mmの正方形 / スクエアで写るように改造するわけです(※ 正確には35x36mm)。
もう、フィルム幅めいいっぱい! お徳です。大サービス!
そんなわけで、フラットベッドスキャナとLEDパネルライトでフィルムの1コマ全体を無駄なくスキャン。以下の比較画像で確認されたし。
冒頭で書いたようにこのモデルはレンズシャッターをカバーで覆い隠してスマートなデザインとしたので、シャッターチャージレバー類が隠れてスッキリ。
そのかわりボディ底部に大きなレバーを付けて、フィルムの巻上げとシャッターチャージを兼ねた特別な構造になっています(#ピストルレバーとも呼ばれている)。
当時、かなり無理して作ったと思わせる奇抜な感じがヨロシイ。
裏ブタは底部の2つのダイヤルを O にして分離して開く方式。昔の一時期のカメラは国内外を問わずこれが大流行するんですね。
前回の拡張オリンパスペンも初期のモデルはこういった二分割方式でしたな。
構造を略してコストを下げる目的でほとんどのメーカーがのちにヨコ開きへ移行しますが、私は二分割のほうがクラシカルで好きです(#無駄に凝ったギミックがたまらん)。
それにしても細部までじつに丁寧に作られているカメラです。当時の高級機だけあって、ライカやローライにも負けない日本の製造業の意地を感じます。
■レンジファインダー機構はアリガタイ
拡張改造のベース機は基本的にレンズシャッター機です。一眼レフのようなフォーカルプレーン機は難しいのです。
リコーに限らず、せっかくの距離連動機構が付いているカメラであれば正確であってほしいものです。
しかし、実際の中古市場ではなかなか難しく、二重像こそ明瞭であっても肝心の距離が狂っているものは多いです。
今回の個体はアタリ。
距離計が正確であればボケ味という楽しみが膨らみます。
拡張カメラで撮っているときはファインダーの標準的な範囲しか見えないので、現像してみたら意外な範囲まで写り込んでいた!という楽しみもあります。
撮るときは周囲も見渡すべく、両目で被写体をとらえるのもいいでしょう。
一方、カメラに慣れてくるとパーフォレーションをどこに配置するか、考えながら意図的に入れるのもまた面白いのです。
ハーフ判のオリンパス・ペンと違って1コマでほぼ真四角になるところもフルサイズ拡張の特徴。
タテにするかヨコにするか、これもまたパーフォレーションの配置を選べます。
このカメラ、あえて難をいえば重量が 680g あります。当時はでっかくて重いお父さんの大事なカメラであったのです(#この時代は他社も重かったのだけど)。
個人的にはこれでフツーに写るのであれば持ち歩くのはツライですが、拡張の写りが楽しいので気持ち的には2割ぐらい軽くなります(#500gと信じて使おう)。
あと、言い訳ですが、今回の作例はスキャンの方法がまだ自分的に未熟で試行錯誤していた頃のものです。
フィルムの両脇が反るので画像では端はボンヤリですが、実際のフィルムにはしっかりピントは合って写っています(#フィルムを探してスキャンしなおすのが面倒だったのでこのまま掲載 ... すまぬ)。
35mmカメラは中判カメラや大判カメラと違って、ホントにレンズはイメージサークルギリギリに作ってあります。
他の機種でもそうなのですが、拡張改造すると四隅が少し暗くなります。カドマルなんていいますね。まぁ、これも味といえば味。
■富岡のレンズは素晴らしい
富岡光学製のレンズは素晴らしい。知ってる人はみんな知ってる日本が世界に誇るレンズメーカー。
そういえば古フィルムの記事で紹介した16mmフィルムを使ったビスカワイド16( VISCAWIDE 16 )という首振りパノラマカメラも富岡光学のレンズ ローザーでした。
ちゃんとしたフィルムを入れれば16mmカメラとは思えない写りをします。以下の2つは ORWO 16mm モノクロネガフィルムでの作例。
※ 富岡光学器械製造所は 1972年 / 昭和47年 からカール・ツァイスブランドのレンズも製作していました(# あの 100mを10秒で駆け抜けるレンズだね!)。
やはりカメラはレンズありきなのだと痛感するワタクシでありました。
● 今日のPAY
前回も書きましたが、ジャンク扱いで膨大な数のフィルムカメラがタダ同然で売られている今日この頃。なんて幸せな時代でしょう。
私が学生の頃はまだデジタルカメラなんてものが無かったので、フィルムカメラは中古であっても気軽に買えるものではありませんでした。
ビンボーな私には残念なぐらい遠い存在であったのです。
しかし時は流れ .... 今なら自分で整備するスキルも身につけたので「昔のオイラと一緒にするなよ」状態です。フフフフ ......
・FUJICA SIX と Ricoh 35 De Luxe の2台まとめてジャンク ヤフオクにて 送料別 約¥1300おおざっぱに1台で考えると 約¥700
※ 見た目が良いだけでアタリとは限りません。ヤフオクやeBAYでハズレの個体を引かないためにはコツがあります
1956年発売のこのカメラ。昭和31年ですから、まだ東京タワーもありません。大卒の初任給が1万円ぐらいの頃に 17500円で売られていたのです。
あくまで単純な感覚でいえば、現在の大卒初任給を22万円ぐらいとして、およそ40万円のカメラでした。ひゃ〜〜〜〜!
今やなんと恵まれた時代であることか。もう、こうなったらテッテーテキに拡張改造してやる!
● あとがき
拡張カメラを作ろうシリーズ。次回はロウソクの光でも写る国際的な歴史的名機 YASHICA ELECTRO 35 CCN の予定です。
旧モデルと新モデルとがありますが、レンズがカラー対応となり、小型軽量化を成し遂げた新モデル(後期モデル)を拡張します。
しかもワイド判の CCN です(#ワイド物が好きやなぁ ... )。
じつは、このカメラは拡張改造できない構造なのですが .........
記事:2020年6月5日
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