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クレーンホームページの 私的素敵頁 / Shiteki Suteki Pay のコーナー(#備忘録ともいふね)。
地味に好評なのがこの、めんどくさくて楽しい鉄カメラシリーズです。オリンパスペンとリコー35デラックスに続いて今回もカメラの拡張改造のお話です。
■ 暗くても写るカメラ
ヤシカエレクトロ35は1965年から1975年にかけての10年間、暗くてもよく写るカメラを目指して作られました。
キャノンの キャノネットQL 等と並んでコンパクトカメラの代名詞のようなモデルです。使い方は簡単で高画質のベストセラー。
むかし、皆さんのお宅にもあったでしょ?あぁ、懐かしい .....
室内でも写る。夕方でも写る。いまどきのスマホだったら暗くてもフツーに写るので「あんた、何言ってんの?」とバカにされそうですが、当時は写真というのは基本、天気の良い屋外で撮るものでした。
室内では撮っても暗くて人の顔が判別できずムーリー。夜景なんて、撮れば必ず真っ暗にしか写らないのがあたりまえだったのですな .........
1960年代中期にはすでに、フィルムカメラの撮影の基本性能はほぼ完成されて、あとは電子技術系の機能が盛んに付加されるようになります。
カメラメーカーもたいへんだったと思います。競合する他社をリードする優れた製品を常に求められたのです。
以下、「たぶんこだったんじゃないか劇場」
開発者A「ねぇ、次の新製品どうしよっか? もう、ネタは尽きちゃったよ。次は何が売れるかな? 」
開発者B「う〜〜ん、レンズもこれ以上良く写っても大差無いし、小型化も限度だよね。自動露出も実用上は充分だし .... 」
開発者A「コンパクトカメラのカテゴリーだと、キャノンとかオリンパスもウチとたいして変わらんしねぇ .... 」
開発者B「そうだ! まっ暗でも写るカメラ! これでどうよ!?」
開発者A「何言ってんだ! 真面目にシゴトしろ! 」
開発者B「じ、じゃぁ ... ロウソク1本の光でも写る、これでどぉ?」
そんなわけで? 発売されたのがヤシカエレクトロ35だったのです(たぶん)。
実際、ISO100のフィルムを使って夜間や室内でも手持ちで撮れるようにできています。やたらシャッター速度が長い傾向があります。シャッターボタンを押して10秒ぐらい待ってもシャッターが切れず、壊れたかな?と思ってカメラのレンズをのぞき込むと ぺちゃ! と情けない音でシャッターが切れる。
極力、手持ちで撮れるように工夫してありますが、さすがに夜景は三脚が必要です。
■フィルムの端っこの穴まで写るカメラをつくる
前置きが長くなりましたが、今回も露光面積を拡大するためにフィルム室を拡張します。ライカ判の 24 x 36mm に対して今回は 31 x 36mm です。このモデルは上下がキツイのでこれが限界。
1960年代以降から露出のためのセンサや巻き上げの工夫や高度なシャッター制御のためにフィルム室内にいろんな部品や突起が配置されるようになります。
エレクトロ35シリーズのCCNは広角レンズモデルであり1973年発売なので、エレクトロシリーズとしては末期の製品。レンズ室は狭くて窮屈です。本来なら拡張改造は無理なモデル。
でも写りの良さには定評があるので、ぜひトライしたい。
程度の良さそうな個体を調達して、いつものようにまずはひととおり整備します。
ファインダー関連の汚れを大掃除、モルトは全滅で全交換、しかもレンズにわずかなカビがあり、なんとか綺麗にしました。
歴代エレクトロ35は明るすぎたり暗すぎたりしたときのランプが点灯する仕組みで、これがなかなか当時としてはカッコ良かった。旧モデルは軍艦部分の上面でウルトラ警備隊の基地のコンソールみたいに赤と黄に光ります。
後期モデルはファインダー内に表示されます。LEDではなくムギ球です。
入手した個体はまず、正常に動作するか点検して整備します。レンジファインダー機なので二重像と距離をチェック。
開放で暗い室内の気圧計を撮影しましたが、1.2mの距離でも狙いどおりにピントが合います。これだけ経年を経ても基本機能は良い部類の個体でしょう。
当時の電池はNo.544型6V銀電池でしたが、現在は製造していないので LR44を4個で代用 .... しても動かず。それで 4LR44 に交換したら動作しました。内部抵抗の違いでしょうか?
改造前の整備や動作確認に時間がかかり、準備作業がたくさんあってたいへんでした。
はい、それでようやくレンズ室の露光開口面を削ります。切り子を防ぐためにマスキングしたのち、ひたすらゴシゴシ .... 2時間ぐらい。くれぐれもレンズを突かないように。
ん? いつもと違ってゼンゼン削れません。よく観たらフレームの厚みが他のカメラの4倍以上あります。上下なのでさらに時間がかかります。
しかも右下にふくらみがあって、ここはどうしても削らないと影になります。で、実際に必要分だけ削ると穴が開きます(^_^;ゝ...
配線があるのでうかつにろう付けできません。上下のフレームも削りすぎるとやはり穴が開きます。穴が開いたら塞ぎます。今回は苦戦しちょります ...
その後、試写と調整を繰り返して完成。反射しにくい塗料を塗って作業終了。ふぅ ....
■ 四隅が欠けない!
35mmカメラを拡張改造すると、たいてい四隅がわずかに欠けます。前回のリコー35デラックスもそうでしたね。
ところが! このヤシカエレクトロ35 CCN は四隅が欠けないんです。イメージサークルが大きめに設計されているようです。
カドはキッチリ四角に撮りたいのじゃ!という方々にはお勧めです。
わかりやすいように、かなり明るく画像補正したものを掲載しておきます。緑色の枠線が拡張して露光している範囲です。
他の作例も挙げておきます。拡張の比較のためにカラーも掲載しておきます。壁やガラスのディテールが潰れず良く出ていると思います。
ベンチの左下の黒い影はケラレではなく撮影者の私です(^_^;ゝ
鉄カメラが好みなので電池を使うカメラはあまり好きではないのですが、ここまで徹底して長時間露光を可能にしたモデルとしては面白いと思います。
また、暗い場所で写るだけでなく、カラーフィルムが普及するなかで開発されたこともあり、昼間の撮影においてもフツーに優れた描写をすることで知られています。
中途半端は良くないですな。この時代はCdsと電池を搭載しているのにセレン程度の露出しか機能していないカメラがけっこうありました。
当時のライバル機ともいうべきキャノネット QL 17 なども電池式のCds素子を用いた自動露出ですが、電池を使わないときは A 以外の位置にリングを置かねばなりません(消耗防止)。対してエレクトロ35 ではその必要はありません(#メーカーや機種を問わず長期間使用しない場合は電池は原則抜きます)。
個人的にはモノクロばかり撮るのでカラーフィルム用のカメラは無くてもいいのですが、ハーフ判の AGFA PARAT(セレン自動露出) とこの YASHICA ELECTRO 35 CCN(Cdsの自動露出) は手元にずっと置いて撮っています。
フィルムカメラを持ち出してカラーで撮りたいと思うことはあまり無いのですが、逆にカラー写真でないと困る場合にはこの2台が活躍します。
もちろん、拡張したあともフツーにライカ判サイズも楽しめます。
茶室の門塀は木立のなかにあって昼間でも薄暗く 距離3m F2.8 にて撮影しています。竹林もかなり暗いのですが、いずれも手持ち撮影です。CCNなので35mmレンズで広角気味。フィルムの粒状性や安物スキャナの限界はありますが実写を繰り返すと、なるほどよくできたカメラだと思います。
■ ヤシカエレクトロ35の欠点は?
・電池が切れたり露出回路が壊れたらオシマイ。とにかく電子回路にめいいっぱい依存しているモデル(#1/30秒のマニュアル撮影もできるけど)。
・パララックスがけっこう大きいので中距離と近距離では補正を忘れずに。
・シャッター音が下品。 ぺちゃ! という音がします。こんな安っぽい音は他に知りません。個人的にはこの音は許せず(#写りはいいんだけどねぇ)。
・コストダウンと軽量化のためにプラスチック部品率が高いです。鉄カメフアンにはウケるでしょうか?
・ファインダーはほぼ40mm画角で樽形収差がありますが、実際に撮影するとちゃんと35mmの広範囲で露光します。ファインダー部分はヤシカエレクトロ35MC(1972年発売)あたりからの流用かもしれません。
・それと、欠点といえるかどうか ... エレクトロ35ではクリオネゴーストが良く知られています。ときに楽しい絵が撮れたと喜ばれたりもします。
クリオネボケとかエンジェルボケとも呼ばれます。シャープな絵が撮れるのはこの絞りのおかげでもありますが、逆光の点光源のような条件によってはクリオネの形状に写り込みます。
必ずしも毎回現れるわけではありません。 そういえばミノルタ16MGあたりも猫目の絞りでしたな。1970年頃の流行りなのでしょう。
■ ヤシカエレクトロ35CCNの仕様
YASHICA ELECTRO 35 CCN 35mm F1.8 (1973年発売) レンズはまたしても富岡光学!
発売:1973年7月 / 当時価格:30,500円
レンズ:COLOR-YASHINON DX 35mm F1.8(4群6枚) ※富岡光学は1968年にはヤシカの子会社になった
シャッター:COPAL ELEC電子シャッター(LT 8秒〜1/250秒 )
自動露出:絞り優先AE/EE(電池なしでは1/30秒固定で絞りをマニュアル設定すれば撮影可能)
絞り:クリオネ型 2枚
受光素子:CdS
ピント合わせ:距離計連動二重像合致式 (レンジファインダー)
パララックス補正:無し 中距離と近接ではかなりズレる(ファインダーのブライトマークで補正)
セルフタイマー:有り
フラッシュ:無し
最短撮影距離:80cm
ファインダー:40mm画角で見えるが撮影すると35mmの広範囲で露光する
電源:No.544型6V銀電池 x 1 現在は4LR44
フィルム: ISO 100 を使う ISO 400 だと露出オーバーが頻発
サイズ:120×74×59mm
重量:実測552g
ヤシカのエレクトロシリーズは1965年から約10年間製造され、世界で500万台売れた大ヒット作であった。
1965年12月に発売された初代は大きくて740gの重い鉄カメラ(レンズは45mmだが1/500秒)。
シリーズは各種展開があったが、1970年12月発売の CC において横幅が狭くなりコンパクト化時代に突入。
その改良版がCCNであり ボディ前面にWIDE のプレート付き。
およそ10年間続いたヤシカエレクトロ35シリーズではCCとCCNのみが準広角レンズ 35mm F1.8 を搭載した。
この時代以前はシャッター速度優先AEが主流であったが、このシリーズは珍しく絞り優先AEである(設定した絞りに応じてシャッタースピードが自動で変わる)。
● 今日のPAY
ヤシカエレクトロ35は初期(前期)モデルと後期モデルとでは相場に差があります。初期モデルは1/500秒までシャッターが切れますがサイズが大きく重く、露出警告のランプがボディの表に出ています。
後期モデルは小型で軽くなり、露出警告ランプはファインダーから覗いたままで確認出来る構造です(いちいち目を離さなくてもよい)。あれこれ改良されているので後期モデルのほうが人気です。重さは決定的な違いカモ。
エレクトロ35シリーズのレンズは多くが 40mm もしくは 45mm でした。1970年12月発売の CC から小型化され、準広角の35mmレンズを搭載したのがCNであり、さらに改良モデルとしたのが CCN であったのです。CCNは中古市場では他のモデルよりも数が少なく、状態の良いものはさらに稀少で高額な傾向があります。
夜間に手持ち撮影できるのがウリですが、より暗い場所や長時間露光等の撮影を考えると、セルフタイマーがちゃんと動作するものを選んだほうが便利です。
YASHICA ELECTRO 35 CCN ヤフオクにて 送料別 ¥4200
入手当時は汚れやカビやらひどくて、まる2日間かけて整備し、モルトも全交換。
多少のカビ痕やチリなどありますが、実用には支障無く楽しめます。・Wikipedia:ヤシカエレクトロ35シリーズについて
● あとがき
麦球は3個搭載していますが、切れたら模型店で売っている6V用のムギ球(フィラメント電球)で置き換えます。
クリオネの絞りとシャッター羽の斜め線(正面から見ると直線)は従来のカメラの常識を覆すものでしたが、「壊れている!」という苦情が当時のカメラ店に続出したそうです。
革新すぎたのでしょうな。アバンギャルドの岡本太郎ですな。
当時のライバル キャノンの QL は露出オーバーやアンダーではロックしてシャッターが切れない構造でしたが、ヤシカエレクトロは意地でもシャッターが切れるようにできています。
ものづくりのスタンスの違いが面白いです。懐かしく時代を感じます ...
拡張カメラを作ろうシリーズ、次回は時代を遡って1950年代、レンズシャッター35mmカメラ戦国時代の MAMIYA 35 II の予定です。
このカメラがまたすごくいいのよ。メンテナンス性にも優れ、拡張するには超オススメ。なにより写りが良くて扱いやすく、取り回しに優れていてとっても素晴らしい。
ただ、 モデル II は時代ごとに微妙にレンズが違ったりするので要注意。
記事:2020年6月13日
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