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はじめに神は天と地とを創造された。
地は形なく、むなしく、やみが淵のおもてにあり、神の霊が水のおもてをおおっていた。神は「光あれ」と言われた。 すると光があった。
神はまた言われた、「カメラあれ」。 神はそのカメラを見て、良しとされた。第一日である。
神はシングルパーフォレーションを片目と名づけ、ダブルパーフォレーションを両目と名づけられた。
神はまた言われた、「16mmカメラ MEC16SB 改・片目 あれ」....... 第二日である。
「私的素敵頁 / Shiteki Suteki Pay」のコーナー。些細なコトでも書いておけば地球上で年間3人ぐらい誰かが見つけて役にたつかもしれないシリーズ。なかでも地味に好評なのがめんどくさくて楽しい鉄カメラシリーズです。
今回は両穴フィルムカメラを片穴フィルム仕様に改造するお話です。え〜〜と、以前にもピンホールカメラや MAMIYA16 や Certo Super Dollina II やら Exakta Varex の記事を書きましたが、たぶん今回はとりわけ無駄にレアな内容になろうかと思いまする。間違っても真剣に読んではいけません。
個人的には備忘録ですが、どなたかお役にたてると嬉しかったりします。弦楽器製作・修復でもそうですが、お役にたった方からの感想等のメールは大歓迎です。お役に立たなかった方からのメールも小歓迎です。
レンズ:ローデンシュトック ヘリゴン / Rodenstock Heligon F2.0 22mm 6枚構成レンズ
最短撮影距離:30cm から無限遠まで
焦点調節:ダイヤル目測式 m 表示
シャッター速度:B, 1/30, 1/60, 1/125,1/250, 1/500, 1/1000sec
絞り:F2.0 から F16
露出:TTL露出計(16mmフィルムカメラでは世界初)ドイツの名門 ゴッセン社製のセレン指針計
シャッター:金属製/メタル フォーカルプレーン方式
使用フィルム:16mm 幅の両目(ダブルパーフォレーション) ※穴が無いと使えない
フィルムマガジン:2つのカートリッジ/ダブルマガジン方式(MEC専用またはアメリカのMicro16互換)
フィルム装填:カートリッジ両方とも巻き軸は無く 暗室でフィルムをグイグイ押し込んで装填する
巻き上げ:折りたたみレバーで巻き上げるとシャッターもチャージされる(セルフコッキング)
ファインダー:逆ガリレイ式 パララックス(近接視差)補正は自動ではなくワク印刷
チェーン:本体からファインダーを引き出す必需品 初期はMEC16の刻印で後期はGOSSENの刻印
フィルタ:スライド式フィルタが底面から内蔵可能(私の所有する個体では欠損)
フィルム露光サイズ:10x14mm
フィルムカウンター:減算式 0 になるとロックされてシャッターが切れないのでダイヤルを回してリセットする
撮影枚数:おそらく最長19インチ約48cmで24枚以上撮影可能と思われる
フラッシュ:シンクロ接点有り
ISO/ASA感度設定:ASA10から100まで DIN12から21まで
パッケージング:ファインダーケースと本体が分離するセパレートタイプ
発売年:1957年 この個体は製造番号からみて後期モデルで1960年頃かと
メーカー:Feinwerke Technik Gmbh(精工技研社とでも訳すか?)
設計者:A. Armbruster
製造国:Made in Germany ドイツ製
本体サイズ:36x58x103mm
重量:276g
ドイツの16mmカメラでちょっと異彩を放つのがこのMEC(メック)というシリーズ。当初は Feinwerke Technik社 によって1956年に MEC 16 というモデルを発表。ボディカラーが赤、黒、灰、金、銀などがありました。レンズは Color Ennit F2.8 20mm という自社開発モノ? を搭載していたのですが、カラーフィルム対応とはいえ当時の評判はいまいちであったといいます。
それで社長さんが悔しくて?改良に取り組んだコダワリの高級機が MEC 16 B というセレンメータ付きのプロトタイプ。これを少数製造したのち、よっしゃ〜!コレならいける! と自信をもって1957年に登場したのが完成版の MEC 16 SB なのです。
ローデンシュトック社のヘリゴンというレンズは6枚構成の高級レンズ(当時の16mmカメラは1枚とか3枚構成が一般的)。しかし、MEC 16 SB と名前が付いていても Color Ennit F2.8 20mm のレンズが付いているモデルもあるので、探すときは要注意です。ファインダーを閉じたときのレンズカバー位置にレンズ銘板が見えるので確認すべし。
レンズから入った光を測定するというTTL測光(Through-the-lens metering)方式を16mm判では世界で初めて採用。付いていることを忘れさせるぐらい小さなゴッセン社(ドイツの名門)のメーターで指示します。マミヤ16オートマチックをもう少し発展させた感じです。
※現存するものはメーター不良の個体も多いのですがフルマニュアル機として秀逸です。私なんか、メーターを完全に無視して撮ってます。
この時代の16mm映画用フィルムを用いるカメラにおいて、フィルムに写り込むサイズは 10 x 14mm が標準的ですが(たまにMinicode 等の10x10mmとか)、たいていのメーカーのレンズは 25mm f3.5 ぐらいでシャッター速度も 1/300秒程度。まぁ、実際それぐらいで充分なのです。しかし、このカメラは 22mm f2 という明るい準広角のレンズに 1/1000秒と非常に凝った作りがウリです。ちなみに16mmカメラで広角レンズといえば 10x14mmのフィルムフォーマット前提なら Minolta 16 MG の 20mm f2.8 というのがあります。
さすがに6枚構成のコダワリレンズは写りが良くて .... と書きたいところですが自分ではモノクロフィルムでしか実写していません(非常に細密で階調豊かです)。当時はMECブランドのカラーフィルムとして16mm判のポジ(リバーサル)フィルムもMEC専用パッケージで販売されていました(ANSCOCHROME や KODACHROME)。
MEC16 は1956年に登場して1961年に製造終了。5年間という短命でありましたが現在でも世界中にファンが草の根のごとく密かに存在し、一部の人達には根強い人気があります。一部でない人達には人気がありません。
■ MEC16 SB 両目フィルム仕様を片目に改造する
※個人的には自分で現像するのがモノクロネガのみ、なので白黒ネガフィルム使用を前提で以下を書きます。カラーやポジのフィルムについては今回は触れません(フィルムは入手できますが現像が困難なため)。
MEC16 SBの使用フィルムは両穴(ダブルパーフォレーション)です。当時は映画用として普及していたので入手は容易でした。カラー写真が普及しつつあって、どちらかといえばこのカメラはポジ(リバーサル)フィルムが歓迎されました。当時は。当時はね。たしかに当時は。
しかし、2019年9月現在は白黒ネガの両目を製造しているメーカーは見当たりません(たぶん)。お持ちの方は私にタダでください!
※ その後、両目(ダブルパーフォレーション)の白黒ネガフィルムが一部で製造されるようになりました。詳しくはこのページの下のほうに追記しておきます。
あえていえばコダック社が2003年頃までモノクロネガフィルムで映画用の両目16mmフィルム(7222 16 2R ダブルX)を製造していたようです。現在は入手困難。デッドストックを探して使うことも不可能ではありませんが、品質の劣化等や根強く探す必要があるのでちょっとタイヘン。稀少が故に価格も決して安くなかったりします。そしていずれは入手できなくなるでしょう。
そこで ... 両目を片目で解決して、せめて現時点で現行モデルとして製造・販売されている Kodak 7222 16 1R やORWO社の片穴(シングルパーフォレーション)のフィルムが使えないものか ... 同時代の他社の16mmカメラには見られないローデンストックのレンズで撮ってみたい。そう考えたのがきっかけ。同じドイツの16mmカメラ Rollei16 だって片穴フィルムを爪で巻き上げているし、トルク的にはきっとなんとかなるハズ。
(1)ファインダーケースから本体を取り出して観察。
上面には押さえ板(圧着板)がかぶさっており、これを分解するとスライダー部品がレバーとバネで左右に動くしくみであることがわかります。この写真では左から右へとフィルムは送られます。スライダー部品の底面に2つの爪が下向きに付いており、それがフィルム両脇の穴に掛かっているのです。1コマ引き上げ終えたら爪は浮いて左に戻ると。なるほど。
つまりこの奥の爪を折り、手前の爪1本にすればいいハズ。工作的には難しくない。
(2) 奥の爪を折り、手前の爪1本にしてフィルムを入れてみます。
上にかぶさっているフィルム圧着板はケースに収めることでケース側のバネにて押しつけているので、試写したり動作確認の空打ちは必ずケースに戻した状態で行います。
ひとまず動きは悪くない。試写してみるうことに ... いけるかな?
片目のフィルムを入れて撮ってみた結果がコレ。
よく写っていますが全てのコマが傾いていますね。フィルムの穴が傷付いていたり。穴が爪で引き裂かれた箇所もありました。
じつはうまくフィルムが巻き上がらず失敗したコマが多数。何度かフィルムを入れ直してなんとかマトモなのがこの2コマです。傾いて写るぐらいは味と思えば良いのだけれど安定して撮影できないのは困るなぁ ... 。
神は言われた、「改善あれ」。
(3)原因究明を。レバーを巻くとスライダー部品はスムーズに動きますがフィルムが上下にブレます。
小さなカバーを外してよく観察するとフィルムが入っているのか空なのかを示す赤/黒の表示機構があります。
フィルムはこの突起に乗り上げてしまうのです。う〜〜ん、両目でも片目でも穴が開いているから同じではないのか?
いや、じつは同じ16mm幅であっても両目と片目ではフィルム穴(パーフォレーション)の間隔や位置が規格として同じではないのです(自問自答)。
しかし、ほんのちょっと、ごくわずかの違いなんだってば。
(4)そこで、フィルム有無のインジケーターの爪を手前に曲げて、フィルムの乗り上げを避けると同時に横ずれ防止ガイドにしました。さらにコマの傾きの問題を解決するために細長い角棒を作ってフィルムに沿って接着(弦楽器工房なので黒檀のエクステンションフレットを流用)。フィルム有無のインジケーター機能は無効になりましたが、テスト用のフィルムを入れてみるとかなり動きが調子良くなりました。
(5)それではフィルムを入れて再び試写へ出掛けます。
フィルムの長さは約35cmにして過剰な負荷がかかるのを避けましたが、それでも18枚撮れました。コマの傾きもわずかになっています。
おお! 完成だ。
神はまた言われた、「落とし穴あれ」。
上記の改造で一段落したのでそのまま放置。そして1年が過ぎようとしていた今年の夏、広島(鞆の浦)にMEC16 SB改 を持って行ったのです。
そしたら ......... まさかの巻き上げ不調。あちゃ〜〜〜! せっかくの旅の写真が ... (もちろん予備カメラは他にもあったけど)。
原因は? 撮影開始から数コマで重くなる症状 ...... 以前から気になっていたことです。どうやらこれは爪ではなく根本的な問題。
神はまた言われた、「ダメぢゃないか」 .......
神はその写真を見て、悪しとされた。
(6)そういえば Rollei 16S というカメラも巻き受け側には巻き軸を持たず似たような仕組みなのですが、たまに同じような症状がありました。
撮影したコマを巻き取るケース側内部でスムーズに丸くならないため、つかえてしまっているに違いない。
それで、一時はマガジンを分解して内部のヘリカルコイルを調整したり、摩擦を減らすべくシリコン潤滑剤をマガジン内部に塗布してみたり、あるいは黒い遮光クロスを交換したりとあれこれ試行錯誤したのですが、決定打に至らず。
ということは他に原因があるはず ... 結果、以下のとおり解決しました。1年掛かりましたよ。
■ 決め手はコレだ
じつはフィルム装填の問題であります。なんだぁ、そんなことかぁ、と言われそうですがネット上を探しても見つからないし誰も教えてくれないときに孤独な試行錯誤ではコロンブス的な発見です。私は16mmカメラを使うときは映画用の100フィート / 30.5m からダークバッグ内で切り出して使っているのですが、1960年頃は専用マガジン入りのフィルムが売られていました。ローライ16Sも Super16 というマガジンにフィルムが巻かれて売っていたのです。
長尺からの切り出しとどこが違うのか?
重要な違いと改善点というかコツは次の2つであります。
・【フィルム先端の両端を隅切りまたは弧に切る】 写真
・【フィルム先端を丸める】 写真
そうなんです。個別パッケージされた当時のフィルムは先端が隅切りしてありますが、丸まっていることが不可欠だったのです。ガ〜〜ン!!
おしっ! これにより以降の撮影では不具合は皆無といって良いほど快調です。スムーズに撮影できます。まさにH.C.ブレッソンのケッテーテキ瞬間です。
つまり撮影準備の段階でフィルムを切り出すときにはハサミで直線カットしただけではダメ。巻き上げて押し込まれていく先端部分はカドマルもしくは弧を描くように切るべきです(私が試したところどちらでもよい)。そしてまた、巻き軸こそありませんが先端は丸めてクセを付けてやる必要があります。
さきにMEC16シリーズはアメリカの Micro16 と互換であると書きましたが、私が最近入手した Micro16 に未使用のフィルムが付属していましたので以下に写真を掲載します(これが良いヒントになりました)。長さが30cmでフィルム先端は元込め側はゆるくラウンドカットされ、巻き取り側は両端をわずかにカドマルカット。もちろん全体的にカールしています(跳ね上がるので定規で押さえて撮影)。
【MEC 16 SB 改 の作例】
試行錯誤の頃に撮ったものも含めて掲載しておきます。フィルムスキャナの解像度が追いつかない感じなので参考程度に。
・市ヶ谷の釣り堀:2019年8月13日撮影
・靖国神社-1:2019年8月13日撮影
・靖国神社-2:2019年8月13日撮影
・自転車:2018年9月5日撮影
・まちかど:2018年9月5日撮影
神はまた言われた、「丸みあれ」。 そのようになった。
神はそのフィルムカートリッジを見て、良しとされた。 第365日である。
■ 両目の白黒ネガフィルムを探すなら
こういったワタクシのような罰あたりな改造は安易にお薦めするものではありません。本来の姿で使えるものなら、なんとかヒストリカルな状態で使いたい。
Kodak社の映画用モノクロネガフィルムで両目の16mmフィルムといえば ... シネマ業界では ダブルX / Double X がよく知られています。デイライトでの感度は ISO250 です。本来映画用フィルムなので当時は推奨D-96で迅速に現像されていましたが D-76 の2倍希釈(1+水1)でも等価の現像ができます。
ちなみにこの製品名のダブルというのは高感度を意味しており両目のことではありません。コダック社では両目(ダブルパーフォレーション)は製品に 2R と型番が入っています(1R が片目)。市場でよく見かけるのは片目の 1R です。海外のお店や国際的なオークションなどを探しても両目の 2R はめったに見かけません(2019年9月現在)。
MEC16の本体を改造せずにそのままオリジナルの状態で使いたいのであれば、辛抱強く 2R のフィルムを探しましょう。
※ 穴を開けるという方法もあるのですが 泥沼に入りたい方にはオススメです。穴開け機もまた探すのがタイヘンですけど ....
・Kodak 7222 16 2R 16mm幅で両目(ダブルパーフォレーション)
・Kodak 7222 16 1R 16mm幅で片目(シングルパーフォレーション)
備忘録なのでしっかりまとめておこう ...
★ フィルムの先端両脇は隅切/カドマルもしくは弧を描くようにカットする
★ フィルムの先はお箸などで丸めてから装填する
★ フィルムの長さは 45cm以下(30cmが安全)
★ カートリッジ(マガジン)は開かずにフィルムをグイグイ押し入れる
★ パーフォレーションが底辺側(爪側)にくるようにフィルムをセットする。
★ フィルム巻き上げはフィルム送りを兼ねているので「ゆっくり」動かすこと
★ 大事な撮影の前には練習用フィルムで練習せよ
★ 巻き上げレバーは撮影が進んでフィルムカウンターが 0 になるとロックされる
(ロックしたらボディ左側のフィルムカウンター横のダイヤルを回すと解除される)
記事:2019年9月14日
● 追加情報:16mm両目フィルムの入手 2019年9月29日補足 2020年11月28日更新
なんと!新品で両目(ダブルパーフォレーション)の16mm 白黒ネガフィルムが売られているのを見つけました!!!
本来はシネマ / 映画 撮影用に発売されたものですが、ほぼ全ての16mm スチルカメラでも使えます。
両穴の16mmフィルムはカラーネガやリバーサルは入手できたのですが、自家現像には白黒ネガフィルムが手軽です。じつはこのお店ではカラー現像の現像液も売っています。去年(2018年)の秋あたりにこのWebショップで買い物をしたときは見かけなかったのですが、どうやら2019年7月ぐらいから白黒ネガ両穴16mmフィルムを売り始めたようです。今月(2019年9月)になるまで気付きませんでした。アメリカのオークション eBAY にも出品されています。現時点で製造・販売しているのはここだけかもしれません。稀少でアリガタイですな。
1巻で約30mですからスチルカメラだと100回ぐらい撮影できます。思わず2巻買ってシマウマ。
2019年9月29日掲載 2020年11月28日更新
・Film Photography Project Store: 白黒 ISO40 白黒ISO100 カラー KODAK VISION3 500T Color Negative Film 7219
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