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クレーンホームページの 私的素敵頁 / Shiteki Suteki Pay のコーナー(#備忘録ともいふね)。
地味に好評なのがこの、めんどくさくて楽しい鉄カメラシリーズです。前回に引き続き今回もカメラの拡張改造のお話です。
今回はオリンパスワイドです。良く写るカメラです。
※ 過去の拡張改造記事:オリンパスペン、リコー35デラックス、ヤシカエレクトロ35 CCN WIDE 、マミヤ 35 II
※ 以下、写真クリックで拡大表示
■なぜワイドなレンズ?
広角レンズで撮るとピント合わせがほとんど不要。テキトーでもたいていピントは合ってるのだ。
50mmレンズと比較してわりと手ぶれも出にくい。つまり失敗しにくい。
頑張って撮らなくていい。スナップショットにも好都合。
わかりやすくいえばそういうことなんです。
距離設定はテキトーに5mぐらい、絞りはF8ぐらいに合わせておいてバシバシ撮りましょう。
今回はそれをさらに拡張しようというバチ当たりなプロジェクトです。
一言でオリンパスワイドといっても仕様の異なるモデルが時代ごとにいくつかあります。
私の好みは1955年9月に登場した初期型と1957年4月に発売されたオリンパスワイドE(日本初、単独露出計搭載)です。
広角レンズの付いたカメラ オリンパスワイド。ワイドSを除いてシリーズのほとんどは D.ZUIKO-W 35mm F3.5
ズイコーのD型なのでオリンパスペンと同類のテッサー型3群4枚のレンズ構成。シャッターはコパル。
丸いノブで巻き上げるタイプとレバーで巻き上げるタイプとがあります。
ワイドとワイドEとは少し仕様が異なり、Eのほうがシャッター速度が1/500秒まで切れ、絞りもF22まで。
スタンダードのワイドはシャッター速度が1/300秒まで、絞りはF16まで。
ノーマルではもちろんフツーのライカ判 24x36mm で映りますが、拡張改造にあたっては多少の注意点があります。
初期のモデルと後期のモデルではフィルム室のガイド(レール)の幅がごらんのように異なります。
この内部のハウジングの構造も少し異なり、削る幅も多少変わります。まぁ、大きな差ではないのですが。
■オリンパスワイドの修理と整備と拡張改造
むしろレンズとシャッターが健全であることが重要ですな。さっそく基本整備から始めます。
この個体 OLYMPUS WIDE-E は510円で入手したもの。レンズは汚れ、絞り羽根もマトモに動かない状態であったので、分解洗浄して再組立て。
シャッターは分解までは不要な状態でしたが、ひとまず調整とわずかに注油して調子が良くなりました。
あいかわらずレンズの傷んだものが多く、入手した約7台のうち半分はレンズの傷とカビで使い物にならず。部品取りに。
この E は露出計が奇跡的に健全で振れ幅の指示も正確です(#アタリともいふね)。露出計の使い方は下のほうに書いておきます。
こちらは E ではないスタンダードな初期型のオリンパスワイド。
二重像合致式のレンジファインダーではなく、採光式ビューファインダーでブライトフレームが見える構造です。
汚れを落としてだいぶ見やすくなりましたが、薄曇りというかガラスのくすみのような感じが僅かに残ります。
経年なりですが綺麗な部類。使用には問題無しと。レンズも綺麗でいい感じに仕上がりました。
ひとまず整備を終えたら試写。最初の試写でレンズの曇りが派手に出たので別個体の後玉を交換。そして二回目の試写。ウム!よろしい。
【 オリンパスワイドの拡張改造】
あとはいつものようにマスキングしてヤスリで削って拡張します。ひたすらゴシゴシ ..... その後こまかい部分の修正と調整と塗装。
この オリンパスワイドE ではフィルムガイド(レール)を上下ともごくわずかに残して削っています。さらに上下に拡張も可能です。
というわけで、拡張後の試写。これはEではなくスタンダードなオリンパスワイドの作例。
ファインダーから見た画角よりも実際にはやや広く写ります。オリンパスワイドの場合は拡張しても四隅は欠けにくく、ほぼ四角に写ります。
あとは他のカメラでも紹介したようにパーフォレーション配置を工夫してアイディア次第で面白い写真が撮れます。
オマケの説明。セルフタイマー付きのモデルの場合はシンクロ接点の小さいセレクターレバーを X の位置にして使います。
■オリンパスワイドEの露出計の使い方
オリンパスワイドE には露出計が付いていますが、これは独立しており実際の絞りやシャッターとは連携していません(しかし当時は日本で初めて露出計がカメラと一体になったモデル)。電池の要らないセレン式ですからゴミも排気も出なくてエコです。
この露出計で測った絞り値とシャッター速度を読み取ってダイヤルに設定して撮影します(追針式)。
そう、ただ露出計が付いているだけ なのよ。 でも当時は画期的なことでした。
単体の露出計を左手に持って、カメラを右手に持って撮影すると両手がふさがって困るでしょ?
カメラ本体に内蔵されているだけも両手が使えてアリガタイ。マミヤ16オートマットもそうでしたね。
私は個人的には撮影では露出計意外にもカズレーザー ... じゃなくてレーザー距離計を使うことが多いです。ときに三脚も使います。
改造と修理の試写が多いので露出のメモ(記録)を付ける筆記具も持ち歩いています。なるべくカメラ以外の荷物は少ないほうがいいなぁ。
【内蔵露出計の使い方】
(0)まずカメラを被写体に向けます。このとき受光面にカバー(フタ)があれば開いておきます。この個体にはカバーは付いていません。
(1)内ダイヤルと外ダイヤルの二重になっているので、まず内ダイヤルのフィルム感度に合わせます。例えば ISO(ASA) 100
(2)次に針の振れから光の明るさの値を読み取り、外ダイヤルを回して同じ数値が▲にくるように合わせます。例えば 5
(3)その結果、例えば外リングが絞り値 (F11)、シャッター速度(1/5秒)となります。
内外ダイヤルの上下に重なるように絞り値とシャッター速度値の組合せが表示されています。
F16なら1/2秒、F8なら1/10秒、F5.6なら1/25秒、F4なら1/50秒、といった感じですな。(4)お好みの組合せを選んでレンズ周囲の絞りとシャッター速度ダイヤルに設定して撮ります。
※1から12までの明るさの度合いはこの機種独特のもので、いわゆるLV値ではありません。
【 ISO100 の場合の露出計の読み方】 ※ 画像クリックで拡大表示
【 ISO400 の場合の露出計の読み方】 ※ 画像クリックで拡大表示
● 今日のPAY
オリンパスワイドの拡張改造では7台ぐらい、ジャンク扱いの捨てられそうなカメラを入手しました。PENと同じぐらい OLYMPUS WIDE も球数は多いです。市場にあふれています。もっともシャッターが壊れたものやダメレンズだらけ。
半世紀以上を経ているので当然といえば当然です。根気良く探します。もしくは自分で修理。ときに修理屋さんにタノムのも一案。
今回のオリンパスワイドシリーズの拡張ではオリンパスワイドE が510円でしたが、結果をみれば7台のなかでいちばん状態良く仕上がりました。さて、今日の私的素敵Payは、
OLYMPUS WIDE ヤフオクにて 送料別 ¥510 〜 ¥2500
● あとがき
カメラには「標準レンズ」というのがあります。詳しいところはWikipediaあたりを検索してもらうとして、一般的にはフィルム面(デジカメなら撮像素子)の対角線の焦点長さをもつレンズのことです。よく世間で言われるように35mmフィルム(ライカ判とか135型)を使うカメラでは50mm前後のレンズが標準とされているのでしたな。
しかし今日、その標準レンズとやらを意識して使うことはほとんどありません。デジカメ全盛期(スマホも全盛期)の21世紀ではズームレンズが原則で、最初に手にしたカメラがスマホとかズームレンズ付きのコンデジとかミラーレス、なんていう時代です(#いまどき単焦点レンズのスマホなんてあるんかいな?以前はあったけど)。
単焦点の標準レンズは今や昔の昭和の話なのですな。私を含めて昭和生まれの皆さんの大半は初めて手にしたカメラが標準レンズ付きのフィルムカメラであったと思いますが ... 。レンズ交換できるカテゴリーのモデルは別として、その昔、多くのカメラメーカーは標準レンズ付きのカメラを作るために存在していたようなものです。
しかし、1955年(昭和30年9月)に発売されたオリンパスワイド/OLYMPUS WIDE は当時としては珍しく 35mmの焦点距離(当時はかなりの広角ワイド!)を搭載していました。世間はびっくり仰天。レンズ固定で交換できないのでワイドにしか写らないカメラ。オリンパスも思い切ったことをしたものです。
ところが、これが大当たり。5人とか10人とか集まって記念撮影ができちゃうんだもん。
ちゃんと7人並んで背景の熊本城も写ってる! ヨカッタ、ヨカッタ。この時代にライカ判で集合写真ですぞ! ひゃ〜〜〜!
ざっくり言えば昔の標準レンズは「個人」の肖像を撮ることを前提としていました。ガラス板に感光乳剤を塗った湿板や乾板写真の時代は1枚の写真に一人で写るのが標準。頭数の多い群像写真は大きなサイズの乾板を使いました(でっかいカメラ)。私も南北戦争時代あたりのガラス乾板写真をいくつか持っていますが、原則1名。複数名で映っている例は少ないです。
その「標準レンズ」の流れが変わったのは、20世紀中期ごろから写真機とフィルムの改良が急速に進み、現像とプリントの低価格化もあって一般市民にレジャーとしての記念撮影が普及したことにあると思われます。
従来の標準レンズで7人並んで記念撮影しようとすると後ろへずっと下がらないといけない。後ろは崖っぷち。それに気付いたオリンパスはエライ。
それならカメラに標準レンズは付けず、いっそ後ろに下がらずにすむようにワイドレンズを付けちゃえ! 当時は35mmの画角はレンズ交換の一眼レフでしか撮れなかったのですから、普及モデルでは画期的だったのです。
たちまち大人気。すでに国際的にもカメラ作りの波に乗ってきた多くの日本のカメラメーカーが、これに続けと35mm固定レンズの付いたワイドカメラを作ります(#リコー、ミノルタ、ワルツ、マミヤ、コーワとかね)。
そういう意味ではオリンパスワイドはカメラの常識を変えた歴史的なモデルであったのです。
ホント失敗せず良く写るのよ。これが。個人的にオススメです。
【メモ】
・オリンパス35V(1955年6月発売)を改良してオリンパスワイドが登場したのが1955年9月、35mmでF3.5(4枚レンズ)。
・1957年4月(昭和32年)に露出計の付いたオリンパスワイドEを発売。
同年(1957年)7月には35mmでF2.0(8枚レンズ)、しかも連動距離計やパララックス(視差)補正装置付きのオリンパスワイドスーパーを発売。
庶民向けのスナップカメラにしては過剰な装備の高級品になっていった。
・1958年2月オリンパスワイドII という後継機を発表。やがてワイドブームも沈静化。
次回の私的素敵頁(してきすてきぺい)は中判カメラを予定しております .....
記事:2020年9月12日 コロナ騒動半年経過
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